【ドジの哲学】弁当歴九年、いまだ達人になれず。
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その1
弁当歴九年、いまだ達人になれず
たくさんの人に助けていただきながら『母弁』(筆者、カナヤミユキ共著/主婦と生活社)という弁当本を出したことがある。
五種類しか弁当用の小さなおかずを作れず、ローテーションでまわしていたある日、塾弁を持参する小五の息子に
「弁当だけが塾の楽しみ。もう少し工夫して」と言われ一念発起したのがきっかけだ。弁当はメインおかずより小さなおかずのレパートリーをたくさん持っていたほうが楽だと気付き、そういう本にした。
その息子もいまや大学三年だが、弁当本後もまだまだドジは続いた。高校のときはこう言われた。
「おかん。どうやったら水筒にきゅうりのへたが入る?」
また、もういい加減目をつぶっていても作れるわとたかをくくっていた去年。小遣いをケチりたい一心で大学にも弁当を持っていく息子は(いまどきの学生は、弁当男子が多いらしい)、夜、言いにくそうに聞いてきた。
「今日の弁当、寝ながら作った?」
「まさか。なんで?」
「くそまずかったんだけど……、どうしたかなあと思って」
その「まずい」の接頭語、とってつけたような気遣いにもむしろ傷つく。醤油を切らしていたので、適当な調味料でチャーハンを作っただけなのだが……。
弁当作り九年。ついでにいえば母歴二一年。慢心は禁物という話である。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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