【ドジの哲学】息子の運動会で、まさかの失敗。

文筆家 大平一枝

プロジェクト - スケッチ 1


ドジのレポート その2
運動会でまさかの失敗を


 息子は都心のとある私立中学に進んだ。ビルケンシュトックで初めての保護者会に望んだら、全員ヒールで仰天した。そんな学校だった。

 さてそこで初めての運動会がやってきた。その日は朝から家で撮影仕事があり、バタバタしていたが、それでも早起きをして張り切って重箱に弁当を詰めた。
「私は行けないけど、がんばって」と送り出す。息子は運動着スタイルで電車に乗る。

 しばらくして、携帯電話が鳴った。地獄の底から響くような低い声で息子が「学校の門しまってるんだけど」。
「は? そんなはずないじゃん」
「守衛さんが、運動会は延期だよ、連絡網でメールが一斉に届いているはずだって言ってる。てか、小雨降ってるし」
「……あ、携帯見てないわ。でも携帯見ないで送り出された子ほかにもいるっしょ、その門のへんに」
「いねえよっ、俺だけだよっ」
「家出て小雨なら自分で気づきなよ」
「逆ギレすんなっ」

 1時間後。ガラガラと玄関の引き戸の音と同時に、息子の独り言が聞こえた。──ばばあ、ゆるさん。
 比較的温和でおとなしいと言われていた我が息子の素の姿に、居合わせた撮影スタッフも息を呑む。私は強気で断言した。
「私、忙しいから、これからも学校からのメールなんて、朝チェックする暇ないからね」
 こちらに一瞥もくれず、息子は自室に直行した。
 明らかに自分のミスでも、親は敬うべき存在。子には簡単に謝ってはいけない。重箱が無駄になったので、私も半分本気で苛ついていた。

 翌週、無事運動会は開かれた。それから6年間、息子はあらゆる行事について自分で情報収集をしていた。この親に任せていたら、また都会の真中に運動着姿で登校させられかねないと思ったのだろう。それでいい。あそこで謝っていたら、私はいつまでも責任を持つ人、彼は任せきりの人になる。人生はいつなにがあるかわからない。イレギュラーな出来事にも臨機応変自分で対応する力をつけてもらいたい。親の手抜き、あ、いや開き直りが子を育てることもある。
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。

▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

 


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