【わたしの転機】前編:写真家・中川正子さん「肩に力の入った働き方の20代、“個人の私”と向き合った30代」

編集スタッフ 長谷川

151104_turning_mn_22聞き手・文 スタッフ長谷川、写真 田所瑞穂

「わたしのターニングポイント」は、転機をテーマにお話を伺う連載シリーズです。

転機とは、生き方に変化が起きたポイントといえます。その経験をふりかえって見つめることで、また他の誰かが「何かを決める」ときの勇気や励ましになったり、自らを導く道しるべが浮かび上がったりするはずです。

シリーズvol.3にご登場いただくのは、写真家の中川正子さん。

大学在学中のアメリカ留学で写真の面白さと出会い、帰国後は写真の道へ。現在42歳。5歳になる男の子の母でありながら、東京と岡山を行き来しつつ、雑誌、広告、書籍、CDジャケットなど、あらゆる現場で活躍。2012年に作品集『新世界』を刊行後は、新たな写真集づくりや文筆業にも精力的に取り組まれています。

以前、私たちのリトルプレス『オトナのおしゃべりノオト vol.1』でも、店長佐藤が対談をさせていただきました。

 

中川正子さんの日々をつくる、3つのやること

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お会いした中川正子さんは、着ている洋服さながらのさっぱりとした雰囲気で、力のあるしゃんとした言葉をくれました。その一言ずつに僕は感心しきり。どうしたら、こんな人になれるのだろう……。

お話を伺うにつれ、中川正子さんは心のなかに「自分のモノサシ」をはっきり持ち、なお研ぎ澄ませている人なのだと感じました。

同じようになるのは難しくても、中川正子さんが日々なさっていることから学んで、僕も自分のモノサシを磨いていければ、少しでも近づけるのかもしれない。そう思いながらインタビューを終えてみると、僕はあたたかな勇気と希望をもらっていました。

大きな旗を立てることと、1ヶ月に一度の地図づくりと、毎日のちっちゃな良い選択があれば、どんな転機だってうまくいくような感じがしませんか?」

中川正子さんは日々行っている3つのことを伝えて、笑いかけてくれたのです。今日と明日の2日に分けて、中川正子さんの「これまで」と「これから」を伺っていきます。

 

期限をつけて、大きな旗を立てる。

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中川正子さん:
あと1年半後、子どもが小学生になったら、岡山にもう一度暮らしの重心を戻そうと思っているんです。仕事があるごとに東京や世界中、呼んでいただけるところへ短期で岡山から通うかたちに変えてみようと。震災があって岡山へ移り、無我夢中で日々を積み上げてきて、仕事も暮らしもいつのまにか東京と二拠点になっていたのを、また新しい形で始める気持ちです。それまで東京に重心を置いた生活でやれることをやりきろうと。

私はいつも「旗を立てる」って呼ぶのですが、大きめのテーマを期限つきで決めるんです。ゴルフでカップに旗が立っているイメージ。そこへ行く道はその場で決めていくにせよ、たまにそうやって大きな旗を立てるようにしていて。今の旗のひとつが「1年半後、岡山に住む」なんですね。

昔は「東京じゃなければニューヨークか香港かパリにしか住みたくない」なんて言っちゃうくらいに都市志向だったのに(笑)。岡山で面白い人々に出会った経験も大きかったし、出産、震災、引っ越しと、大きなことが連続で起こったために、自分が当たり前に思っていたいろいろがあっけなく崩れ去りました。

 

25歳、インドネシア、ブーゲンビリア。

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中川正子さん:
大学生のとき、アメリカ留学中の勢いで写真の道へ進んで、「どういう写真家になりたいのか」を見つめる間もないまま、ありがたいことに仕事をいただけるようになって。

25歳くらいの時にある大物映画監督を撮る機会がありました。スキルもなければ自信もない、見栄ばかり張っているときでした。「なめられちゃいけない、その場を支配するんだ」なんて思って、肩に力の入った仕事をしていたなぁ。

同じくらいのときに、『オトナのおしゃべりノオト』でもお話したのですが、THE BOOMの宮沢和史さんの取材撮影でインドネシアへ行ったんです。私は旅の記録係だから、宮沢さんの写真を撮ることばかり考えていました。そんな中、強い意志とともに生きる宮沢さんに対峙して、このひとのポートレイトを撮るには私はあまりにも人として未熟だ、と感じた瞬間があって。自分が情けなくて泣きました。

そんな時にふと小さな空港で、逆光に照らされた花々……ブーゲンビリアを目にして、それが美しすぎて「撮らないわけにはいかない!」とシャッターを押して。

当時はフィルムだから、その場でうまく撮れたかはわからないけれど、絶対にいい確信があったんです。「いいものを目にして、自然にシャッターを押したこのしあわせな感覚」を一生忘れずにいようって思えるくらいに。

いい人や物がそこにあって、ただ撮って、それが絶対にいいと「わかる」。そのためには自分自身に雑念がない、私は「クリア」と言っていますが、いちばんいい状態でスタートラインにいると、現場でいちばんいいことが起こると今では知りました。コンディションの整え方は、一流のアスリートたちをよく参考にしています(笑)。

 

30歳を過ぎ、「個人としての私」と向き合った。

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中川正子さん:
若いときは同世代の活躍に落ち込んだりもしましたよ。自分の名前で写真集を出している人たちに強烈にあこがれていた。賞を取りたかったこともあったし、有名な雑誌と仕事がしたい時期もあった。たぶん、自分を語る言葉がなかったから大きなラベルが欲しかったんでしょうね。

30歳を過ぎて、あるミリオンセラーのアーティストのジャケット写真を撮っていました。まるで一流になったような気分でいたけれど、そのうちに「私は個人として何をやっているの?」と思い当たって。

そのアーティストは15歳ほども年下で、自ら作詞作曲した歌をたくさんリリースして……その姿を仕事で目にするたびに悔しくなってきてしまった。

自分の意思で、名前で、一から作り上げたものはなんにもない中で、プロジェクトの一員というだけで鼻を高くしている姿が「ものすごくカッコわるくて、危ういな」って。借り物の土台で、危ういところで自分を保っているなと。それで、私個人として何ができるかを考えはじめました。

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1ヶ月ごとに「ミニ旗」を10個立てて、叶えていく。

中川正子さん:
近い頃、心身ともに辛い出来事があり、文筆家の服部みれいさんにいろいろなことを教わって、彼女の有り様からも自然と影響を受けました。

今も続けているのが、1ヶ月に一度の地図づくり。一切変えられない他人のことではなく、変えられる自分のことだけを考えて、10の宣言文をつくるんです。「私は今月、こうある」って。大事なのは願望ではなく言い切ること

具体的なやりたいことだけじゃなくて、自分のありようでもいいと思います。「いつも私は朗らかでいます」みたいにね。

書けたら宣言文を読み直します。それをしている自分の姿が、頭の中で映像になって見えてきたら、ぜったい叶ってきたんです。うまく見えなかったら、まだ自分には遠すぎる宣言なのかもしれませんね。私の中では「ミニ旗」を10個立てるような感じです。

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中川正子さん:
2008年くらいからだから、飽きっぽい私にしては、カメラと結婚とミニ旗づくりは珍しく長続きしているものですね(笑)。

先月、忙しさに負けてうっかりやれなかったら、毎日ブレブレで全然ダメでした。どこに行きたいかがわかる「ざっくりした地図」を持っていないと、こんな簡単に迷ってしまうんだなって、大事さを実感しました。

そうやって、実際に個人で表現している人と対峙していきながら、自分も表現への気持ちを抑えきれなくなった頃に、妊娠がわかりました。

(つづく)

撮影協力:COMMUNE 246(自由大学)

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前編(11月19日)
写真家・中川正子さん「肩に力の入った働き方の20代、“個人の私”と向き合った30代」

後編(11月20日)
写真家・中川正子さん「育児から得た新しいクセ、転機につながる『毎日のちっちゃな良い選択』」


 


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