【わたしの転機】後編:写真家・中川正子さん「育児から得た新しいクセ、転機につながる『毎日のちっちゃな良い選択』」

編集スタッフ 長谷川

151104_turning_mn_24聞き手・文 スタッフ長谷川、写真 田所瑞穂

転機をテーマにお話を伺う連載シリーズ「わたしのターニングポイント」vol.3、写真家の中川正子さん編をお届けしています。

大学在学中のアメリカ留学で写真の面白さと出会い、帰国後は写真の道へ。現在42歳。5歳になる男の子の母でありながら、東京と岡山を行き来しつつ、雑誌、広告、書籍、CDジャケットなど、あらゆる現場で活躍。2012年に作品集『新世界』を刊行後は、新たな写真集づくりや文筆業にも精力的に取り組まれています。

この記事では、中川正子さんの「これまで」と「これから」、そこから見えてきた「3つのやること」にフォーカスしています。

前編では25歳にインドネシアで体験した「いい写真がわかる」感覚、期限を付けて「大きな旗」を立てること、そして毎月の「ミニ旗」づくりなど、中川正子さんの歩みと実践を追ってきました。

後編では、出産後すぐの2011年に岡山へ拠点を移した時のこと、そして写真集を刊行して変わったことなど、現在の中川正子さんにもつながるお話を伺っていきます。

 

息子が口にした「ま、しょうがないね」に嬉しくなって。

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中川正子さん:
子どもが生まれて11ヶ月で、2011年の震災があって、岡山へ拠点を移すことにしました。出産、震災、引っ越しと、すごいことが連続で起こったために、自分がいろいろ当たり前に思っていたことがすごい勢いで崩れていった時期ですね。

たとえば、それまでは「いろんなことは自分のコントロール下における」って思っていたのですが、「その場で最良の選択をするしかない」というクセがついたのは圧倒的に育児のおかげです。だって、今日の予定を考えても、子どもが泣いたら外出の時間も遅れるし、着ようと思った服は汚されますから(笑)。

この間、1歳10ヶ月の甥っ子を預かって、半日だけ面倒を見たらあまりにも大変で!歩けるのに言葉は通じない子どもとのやりとりに、何も思い通りにいかなくて、私も疲れて泣いていたなぁとなつかしく思い出しました。

そういえば、私が何か嫌なことがあって「でろーん」となっていたら、息子が「ま、しょうがないね」って。それ、私がハートマークをつけるくらいに軽い口調でよく言うんです。

母国語のことを英語で“Mother Tongue(マザータン)”といいますが、私は「シャワーのように浴びた母親の言葉が母国語になっていく」という意味かなと理解していて。息子は今のところ私のいい口癖ばかり拾ってくれて嬉しいです。口癖って言葉だけど思想の現れでもあると思うので。

「ま、しょうがないね」と切り替えるか、「もう!」と不満にするか。私も昔は「もう!」と口にしていたけど、今は全然言いません。自分が嫌な気持ちになるし、何にもいいことないなと思うんです。

 

「毎日のちっちゃな良い選択」が転機につながる。

中川正子さん:
「ま、しょうがないね」と「もう!」のどちらを使うのかって、言い換えれば毎日ある「分かれ道での選択」ですよね。私が日々気をつけていることとしては、あらゆる分かれ道では徹底して「いいな、美しい、わくわくする」みたいに明るい方を選ぶようにしています。一見は条件がいいようなことでも、「ざわっ、ざらざらっ」とした感じがしたら選びません。

それと写真を撮る自分を「クリアな状態」に保つために、自分が触れるものは「いいと思うものに限定する」というのもずっとやっています。もちろん、全てを高級品にするという意味ではなく、着るもの、食べるもの、お会いする方まで、自分自身にとって違和感がないようにしていたいという意味です。

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中川正子さん:
そうやって積み重ねた指先ほどの違いが、振り返れば、大きな転機になっているんじゃないかなと思います。最初に「ざらざら」する方を選んじゃうと、そのままそちらへ行きがちだなとも感じますから。

もちろん、その「ざらざら」は必ずしも悪いわけではなくて、時期によっては必要なことかもしれない。たとえば、若いときに飲み歩いたり、やたらと恋人を取り替えたりとか、なかなか褒められはしない。ただ、なんでもお腹いっぱいになったらやめますから(笑)。

私のことを思い出してもそうだし、後輩たちを見ていてもそう。まだ脚がざらざらしたところにズボッと入ったまま抜けようとするより、まずは自分でやりきったと思えてから、自然と明るい方を選んで戻ってくればいいんですよね。

 

「自分が戻れる場所」があるから楽しめる。

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中川正子さん:
私が個人で表現している人たちへの強烈な憧れから抜けられた……というより「抜けていた」のは、自分の写真集『新世界』を2011年に刊行してからです。

その写真たちで展示もやったら、自分がこれから見ていきたい新しい世界を切り取ったからか、その空間にいると他人事のように幸せだったんですね。展示中はずっと在廊していて、撤収の時に「この空間がなくなるのが本当に嫌だ」と思えるくらいに。

終わってみたら、それまでの他人と比較する気持ちが全部なくなっていました。たぶん、自分が戻れる場所、プラットフォームみたいなものができたんです。「私の根っこの部分はここにある」って思えるようになったら、どんな仕事も以前より楽しめるし、自信を持って取り組めるようになりました。自分もずっと、ふわふわしていたんでしょうね。

自分自身にだけでなく、他人にわかりやすく提示できるものがあるのは大きかったし、「自分」をもっと打ち出せて話せるようにもなって。仕事の面でも、自分にフィットすると思える方たちが声をかけてくださる状況まで、自然に生まれていったんです。

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これからは「仕事を作る場そのもの」を温めたい。

中川正子さん:
プロジェクトへの参加を名刺代わりにしていた大昔のことを思い出すたびに、「私個人の話」をもっと深めて強くしていきたいなって、今では思います。

私が1年半後にもう一度しっかりと根を張って暮らし始めようと決めた岡山でも、一から何かを作り上げているすてきな人がたくさんいて、その人たちの存在が無言で私に問いかけているような気がしています。「あなたはどんなことをやっているの?」って。

東京はいろんなことがすでに激しく起き続けている場所だから、そこにメンバーとして参加する、寄り添うような仕事がいくらでもあるけれど、その圏内から離れると「ないならイチから作っちゃおう」という人が多いんです。福岡みたいに他の移住者が多い魅力的な土地に行っても思うけれど、物事を興す人がたくさんいる。もちろん東京でもたくさんいるんですけどね。それは東京を一度離れてから気づいたことです。

私も岡山ではすぐに仕事になるかはわからなくても、「仕事を作る場そのもの」を温めていきたいなって思っています。撮る対象が変わるというより、働き方が変わるんじゃないかと感じています。

何よりも自分が「しっかりした居場所」を求めているからこそ、二拠点になった仕事をもう一度きゅっとまとめて、岡山のみんなにもう一度「はじめまして」をするような感じで、やっていきたいなと思っています。

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「人生の山」を自分で決めて、ひとつずつ登り切る。

たとえば、山登りをするとき、頂上があるから僕らは迷いなく登っていけるのでしょう。もし頂上がない山に登り続けるとしたら、すごく不安で、進むことを迷ってしまいそうです。

その山を人生に置き換えてみても、きっと同じことかもしれない。中川正子さんから「しゃんとした」イメージを受けるのは、ご自身で定めた山に迷いなく向かっている姿が「頼もしい」からではないかと感じます。

お話を振り返れば、「期限を付けて大きな旗を立てる」から挑戦する山の頂上が見えて、「1ヶ月ごとにミニ旗を10個立てる」ことで挑戦できる自分を鍛え、「毎日のちっちゃな良い選択」が登る楽しさをつくってくれる……といえるのかもしれません。

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すると中川正子さん、「昨日の夜、ちょうど新しい旗ができたの!」と教えてくれました。その旗とは、さまざまなことを深くまで話せる、大切な友達だというミュージシャンのharuka nakamuraさんと「10年後も語り合える関係でいること」。

10年先でも話せるように、敬意と信頼を持つ相手に対して、恥ずかしくない日々を生きているかを考え続けたいと言うのです。「私の10年後はまったくわからないけれど、この旗を立てたことそのものが大事で、生きていく上での総合的な旗になると思います」

参ったなぁ、ほとんど頂上の見えない山に登ろうとしちゃっているじゃないか。その背中は遥か遠くにありますが、中川正子さんからもらった気づきを借りながら、僕も自分の山登りを進めていくとします。いつかどこかで「こんにちは」とすれ違えたらいいなと思いながら。

(おわり)

撮影協力:COMMUNE 246(自由大学)

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前編(11月19日)
写真家・中川正子さん「肩に力の入った働き方の20代、“個人の私”と向き合った30代」

後編(11月20日)
写真家・中川正子さん「育児から得た新しいクセ、転機につながる『毎日のちっちゃな良い選択』」


 


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