【40代の、前とあと】雅姫さん:前編「20代、30代の経験が、40歳になったときの選択肢を増やす」

ライター 一田憲子

22写真 砂原文

子供だった頃、「40歳」と聞くと、なんでもわかっている大人だと思っていたのに、自分がいざその年齢になってみると、まだまだ何にもわかっていなくて、全く「大人」になれていないことを発見し、呆然としてしまいます。

ある程度のキャリアを積み、確かに成長しているはずなのに、40歳になったとたんに、ふと不安になり、自分がどこにいるのか、そしてどこへ向かおうとしているのかがわからなくなる……。そんな「戸惑い」を感じてしまうのはなぜなのでしょう?

無我夢中で走り続け、ふと足を止めて自分の足元を見つめてみる。それが「40歳」という年齢なのかもしれません。そんな節目の歳をみんなどうやって迎え、どうやって乗り越えるのだろう。そして、乗り越えた先には、どんな日々が待っているのだろう……。

そこで、「40歳の、前とあと」のお話を、いろんな方に聞いてみることにしました。

第一弾は、モデルとして活躍し、ご自身のブランド「ハグ オーワー」ではファッションデザイナーとして忙しい毎日を送る雅姫さん。今年で43歳。娘のゆららちゃんは20歳になります。

 

モデルデビュー、結婚、出産。
「できないこと」でなく、「できること」だけ見て進む。

雅姫さんのご自宅リビング。和食器をしまった水屋だんすは、目黒通りの花屋さんで見つけたもの。 2段に重なっていたものを、1段ずつに分けて横に並べたら、圧迫感がなく、壁に絵を飾って楽しむことができるように。

「こんにちは〜」と玄関をあけると、なにやらリビングの扉の向こうでゴソゴソと音がします。「せ〜の、で扉を開けますから、気をつけてくださいね〜!」と扉の向こうから雅姫さんが声をかけてくれました。

扉が開くと、焦げ茶色の塊が飛び出してきました。昨年この家にやってきたという1歳のラブラドールレトリバーのヴォルスくん。どこにも貰い手がなくて「私まで断ったら、またたらい回しにされちゃう」と”男前の決断”で、引き取ることにした雅姫さん。なにしろやんちゃで、家中の家具をかじったり、破壊したり。大切にしてきたダイニングのYチェアも、その背もたれをかじりとられて、今ではI(アイ)チェアになってしまいました。

「子育てもひと段落したし、やっとこれから自分の時間を作って、自分のために暮らしを楽しむことができる……と思っていたのに、この子がやってきて、すっかり予定が狂っちゃったんです」と笑います。

せっかくのセンス抜群の部屋の家具がかじられたって「ま、いいか」。
仕事で出かけても、ヴォルスの様子が気になって、寄り道できなくなったけれど、「ま、いいか」。
そう思えるようになったのが、雅姫さんの40代。

どんな40歳を迎えるかは、その人が、どんな20代、30代を送ったかで変わってくるのだと思います。
雅姫さんの「40歳の、前とあと」を知るためにまずは「前」のお話を聞いてみることにしました。

 

モデルなんて、やれるとは思っていなかった。

05ダイニングテーブルは、日本で買ったアンティーク。Yチェアに座っているのは、トイプードルのもぐらちゃん

インテリアや雑貨や花など「飾る」ことが好きで、高校卒業後に実家のある秋田県から上京。専門学校でディスプレイの勉強をしていたそうです。2年生のときに、通っていた美容院のスタイリストさんに呼ばれて行ってみたら、そこに来ていたマガジンハウス「アンアン」の編集者から声をかけられたのが、モデルの世界に入るきっかけでした。

雅姫さん:
「『アンアン』では、主にビューティーのページでお仕事をさせていただきました。楽しかったですよ〜。朝、真っ白なスタジオに到着したら、そこにはおいしいものがあれこれ並んでいて(笑)、スタイリストさんが集めるセンスのいいものに囲まれて。そして、1ページのために、みんなで写真チェックしたり、話し合ったりして、徐々に作り上げていく……。そんなものづくりの過程を見るのが面白かった。モデルっていうより、そういう現場に参加できることが嬉しかったですね」

それでも、モデルの世界は実力社会。つらいことはなかったのですか?と聞いてみると、「まったくなかったですね」ときっぱり!

雅姫さん:
「すごく恵まれていたんです。『なんでこんなことやらされなくちゃいけないの?』っていう仕事は、オーディションに行っても結局受からない。私、自分でもモデルをやれるなんて思ってもいなかったんです。周りのモデルさんはみんなダイエットしなくても細くてキレイで……。私なんて、毎週1回事務所に行って採寸をさせられ、『痩せなさい』って言われ続けていました。最初に決まった広告の仕事は『無印良品』のカタログでした。当時、モデルにもただ美人じゃなくて、アジア系とか、いろんな個性を求められ始めていたんですよね。そこに入れてもらった感じかな」

当時の雑誌やカタログの写真を見せていただくと、「えっ、これが雅姫さん?」と驚くようなショットがいっぱい。個性的なメイクでモードな洋服を着こなす姿のかっこいいこと!「自分がガラリと変わる。それがすごく面白かったんです」と語ります。

 

_DSC8439

 

_DSC8437上の2枚は、モデルとして海外用ポートフォリオを作るために、一流のカメラマンやヘアメイクさんたちスタッフと作品撮りをしたもの。

 

妊娠6か月でロンドンへ。
そこで触れたものが、新たな可能性を広げてくれた

masaki_06_shikaku_160225ゆららちゃんが4歳ぐらいのときに、ロンドンの公園で

順調に仕事が増え、仕事の幅も広がり、さあこれから!というときに元Jリーガーだった森敦彦さんと結婚、そして出産。

雅姫さん:
「周りの仕事仲間の中でも、妊娠がいちばん早かったんです。最初は内緒にしていて、6か月ぐらいまで働いていました。お腹が目立ち始めた頃、もう仕事はお休みにしようと決断。そして、子供が生まれたら自由に動けないし『そうだ、ロンドンに行こう』と突発的に思って(笑)。毎日広〜い公園でミルクティー飲んで、ゆったりして……。ああ、こんな時間いいな〜としみじみ思いました。

初めてリバティプリントに出会ったのもそのとき。アンティークマーケットを巡ったり、あのときロンドンで触れたものは大きかったですね。それをきっかけに、ゆららが2歳頃からは、毎年行くようになって、その後のインテリアや雑貨のお仕事に繋がっていきました。

妊娠してモデルのお仕事ができなくなって、周りを見渡すとみんなキラキラ光る世界で活躍していて、ちょっと「取り残され感」もあったんですけど、ロンドンでのひとときが、選択肢はひとつだけじゃないと、教えてくれたような気がします。思い返してみれば、もともと田舎にいた頃は、雑誌の『オリーブ』が好きだったし、専門学校時代は雑貨屋さんや好きなカフェに行くのが楽しかった。モデルの世界も楽しかったけれど、ロンドンに行って、私が好きなのはモードの世界というよりは、もっと身近な暮らし周りのことだったなと思い出しました。

出産後は、部屋にいる時間がいちばん長くなったから、花を飾ったり、器を見に行ったり、散歩に行ったり、そんな生活を楽しもうって思ったんです。華々しい世界ではないけれど、日々の小さなひとときの中に楽しみを見つけられたから、マタニティーブルーにもならずにいられたのかもしれませんね」

 

しばらくは、子育てしながら家にいるつもりだったのに……。予定変更!

shop_masaki_160315ハグ オー ワー1号店。9坪の店内は洋服やディスプレイが映えるようシンプルに。床を塗装していない無垢材に張り替え、天井と壁をラフに白くペイント。  小さいけれど、いつも心地いい音楽と香りが溢れている世界だった。

ところが、ここで大きな誤算が起こります。

なんと、ゆららちゃんが1歳のときに、森さんがJリーグを退団。サッカーをやめてしまったのです。そこで、雅姫さんは、子供服の店「ハグ オー ワー」を立ち上げることになりました。同時期に森さんは、バーをオープンさせたそうです。

小さな子供を抱えて、不安ではなかったのですか?と聞いてみたら……。

雅姫さん
「夫はサッカーを辞めてから2年間ぐらいはプラプラしてたかな。そのときはどうしようと思ったけれど、でもなんとかなりましたね。私たち夫婦、ふたりとも計画性ゼロなんです。私自身も、若い頃から「何者かになろう」なんていう考えはあまりありませんでした。当時の夢は、専門学校で建築やディスプレイの勉強をして、どこか有名な建築事務所にお茶汲みでもいいから就職して、そしてその建築家と結婚して、素敵なおうちを建ててもらう、ってことでしたから(笑)」

ご自身のブランドを立ち上げ、商品を企画し、しっかりお店を管理されていると思いきや「計画性なし!」と聞いて驚きました。でも、ビジネスを成功させるためのいちばん大きな力は、計画性でも、採算管理でもなく、もっと根っこのところにあるのかも。

雅姫さん:
「洋服のお店をやろうと決めたときに、知り合いに相談したら、ビジネス面でのアドバイスをいろいろしてくれました。でも、私は経営や数字のことはまったくわからない! それよりも、私は『同じものを売るんだったらラッピングもかわいい方がいい』と、オリジナルの紙袋を作ることの方が大事だったりしたんです」

リバティーの花柄のワンピースに淡いパープルのカーディガンを。まるで、大人の服をそのまま小さくしたような、”可愛らしい大人っぽさ”が「ハグ オー ワー」の子供服の魅力でした。それは、「自分の娘に着せたい服がない」とか、「子供服って、子供っぽくなくたっていいんじゃない?」という雅姫さんの正直な想いから生まれたもの。リアルな暮らしの中で、母親としての自分が「本当に欲しいもの」を形にする……。だからこそ多くのママたちの心をとらえ、愛されたに違いありません。

こうして、「ゆっくりお母さんをするつもり」だった雅姫さんの20代は、まるでジェットコースターに乗ったかのように、目まぐるしく忙しくなっていきました。

後編では、お店オープン後から、30代、そして43歳の今までのお話を伺います。

 

(つづく)

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雅姫(モデル・デザイナー)

モデル(ESPRIT所属)、キッズ&レディースの服「ハグ オー ワー」、暮らしを彩る生活雑貨の店「クロス&クロス」のデザイナー。夫と娘、愛犬3匹(トイプードル“もぐら”&“ピカソ”とラブラドールのヴォルス)と暮らす。着用セーター/コットン柄編みボートネックセーター/ハグオーワーで販売

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ライター 一田憲子

編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ブログ「おへそのすきま」http://kurashi-to-oshare.jp/oheso/


▽雅姫さんの著書はこちら。


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