【店長コラム】論理?それとも直感?不安になったら、朝を待つ。
店長 佐藤
引越しって、本当ならワクワクのはずなのに…
モミジやイチョウ、桜の木々が赤や黄色に染まりはじめると、毎年鮮明に思い出す光景があります。それは、11年前のちょうどこの時期に、今も暮らす街に引っ越してきた日のことです。
その日は夫の家族が総出で引っ越しを手伝ってくれたのですが、荷物と一緒に新居に到着した頃にはあたりはすでに真っ暗。
寒いなか引っ越しを手伝ってもらったお礼に夕飯でもという話になると、夫の家族は「明日はまた仕事で早いから」と爽やかに引き上げていきました。
車で帰っていく家族に「ありがとうね。バイバーイ」と手を振って見送ると、急に静けさがおそってきました。
心機一転、新しい街、そして新しい家。
本当ならワクワクしかないはずなのに、夫とふたりショボーンとなんとも心細い気持ちになったのを覚えています。
ただただ「この街に住んでみたい」という理由だけで選んだ家だったから、知り合いや友人が近所にいるわけでもない。はるか遠いところへ来てしまったような気にさえなりました。
そんな寂しさを振りはらうかのようにして、届いたばかりの新しいチャコールグレーのカーペットをせっせと畳のスペースに敷きこんで「よし!」と悦に入ってから寝たことだけが鮮明に記憶に残っています。
引越しの翌朝、新居のカーテンをあけたら。
忘れられない光景というのは、引っ越の翌朝のことです。
朝起きて一番に新居のカーテンをあけると、そこには赤やオレンジに染まった大きな桜の木や、黄色く染まったイチョウの木がありました。
内見に訪れたときもすでに暗い時間帯でしたし、引っ越し当日も暗くなってから到着したこともあり、こんなに美しく紅葉する木々をのぞめる家であったことを、この朝はじめて知ったのです。
「なんと!!!」
前日の夜にションボリとしていた不安は心からの感動にかわり「よし、今日は一気に片付けて住みやすい家にするぞ」と気合いが湧いてきたことを思い出します。
あの日の朝、木々が織りなす美しい景色とはじめて対面できたことが勇気となり、あたらしい街でのスタートを後押ししてくれました。
兄とふたりでスウェーデンに買い付けに行った日も。
もうひとつ、これと似たことで思い出すのは、実兄である青木とふたりで初めてスウェーデンに買い付け旅行に行ったときのことです。
「買い付け旅行」とは言っても、それは結果的に買い付け旅行になったのであって、そもそもは「仕事の種を探すための視察旅行」というなんとも不透明な名目の旅行でした。
この日もストックホルム市内のホテルに着いたのは、すでに夜遅く。
腹ごしらえだけしようとホテルの近所のピザ屋さんに入ったのですが、ピザを食べながら兄と話しているうち、わたしはなんだかどんどん気分が悪くなって途中、化粧室で休憩したりも。
「なんでわたしはお兄ちゃんと北欧に来てるんだ?この旅行で、なにも見つからなかったら?」
夜に到着したからか、そんな不安や一抹の後悔みたいな感情に余計に押しつぶされそうになって、一瞬具合が悪くなったのだと思います。
そんな翌日のこと。スウェーデンで迎えるはじめての朝。
窓をあけると「北欧ブルーって、このこと?」と思ったほどの真っ青な空が広がっていました。
青でもない、水色でもない、なんと形容したらいいのか言葉が見つからないような、とてつもなく澄んだ爽やかな夏の青空でした。
「よし!大丈夫だ」
直感的にそう思えたこと。こんなところまで兄妹で来ちゃったけれど何とかなるさと思えたこと。それを今でもはっきり覚えています。
「北欧、暮らしの道具店」は、この旅が全てのキッカケとなって始まりました。(なんとかなったわけです、苦笑)
今も暮らすこの街に引っ越してきた日も、スウェーデンをわけのわからない名目で旅した日も、わたしに勇気をくれたのは自分で考え出す論理ではなく、言葉では説明できない直感のようなものでした。
「ああだから、こうなって…… こうだから、最悪こうもなって…… 」と自分なりの論理をこねくり回している最中より、「大丈夫だ、このまま進んでいいんだ」と直感で感じられた瞬間のほうが自分のことを好きでいられたようにも思います。
今でも正直なところ「このままで大丈夫だろうか」「このチャレンジには意味があるのか」と不安に押しつぶされそうになる日があります。
そんな日は、こんなふうに自分で自分を励まします。「とりあえずは朝がくれば、なんとかなるさ」と。
一見、浅はかすぎる励まし文句のようですが、あのふたつの出来事があった日のことを思い出すと力が湧いてくるから不思議です。
「そうだ、夜の時間帯にもんもんと思い悩むのはいったんやめにして、気持ちを切り替えよう!」と、そこから海外ドラマを見始めたりするのです。(最近はもっぱらHuluで『地味にスゴイ 校閲ガール』に逃避行です、笑)
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