【スタッフコラム】家を買うつもりはなかった
編集スタッフ 津田
昨年のクリスマスに家を買いました。
といっても、大したものではなくて、こじんまりとした築40年以上の中古マンションの一室です。
幹線道路が近いのがやや気になりますが、1階には民芸品やアートが所狭しと並んだ風変わりな雑貨屋があり、朝は天気がよければ窓から気持ちよく日差しが入ってくる。そんな部屋に、今年の桜が咲き始めるよりすこし前から住んでいます。
家を買った。いえをかった。イエヲカッタ。
何度か小声でつぶやいてみたけれど、いまだに自分のことと思えません。
知人友人に「この度、家を買いました」と伝えると「えー!」と驚かれて「なんでまた?」と間髪置かずに質問されるのが恒例で、その度にそういえばなんででしょうねと我ながら首を傾げていました。
実のところ、家を買うつもりはなかったんです。
思い返せば、はじめは賃貸で引越し先を探していました。ちょうど一年前のことです。
吉祥寺の飲み屋で「もう半年くらい家を探しているけど、見つからないんだよね」と友人にこぼすと「そろそろ大人なんだし、借りるだけじゃなくて買うのを選択肢に入れてみてもいいんじゃない」と言われました。
「え!? そんなの無理無理!」と反射的に答えたけれど、わたしの人生で初めて、家を買うという選択肢がぽっと浮かんだ瞬間でした。
それまで、お気楽な一人暮らしには必要ないだろうと、家を買うなんて大それたことで自分には関係ないものだと、どこかで思い込んでいましたから。
けれど彼女は「無理だと決めつけなくてもいいじゃない。選択肢を広げてみるだけタダだよ」と、いかにも肩の力が抜けています。
それは、なぜかは分からないけれど、ここまで頑張ってきたじゃんと言われたようでもあり、うれしくてモジモジしたのをよく覚えています。
「そうかあ。わたしも家を買うっていうのを考えてもいいくらいのオトナなんだなあ」と感慨深くつぶやくと、彼女は「そうだよ、オトナでしょ。変なの」と隣で笑っていました。
彼女と別れた帰り道、のんびり走る電車に揺られながら、自分で自分のための家を買うってどんな感じだろう、と想像してみました。
いまよりは広いところに住めるだろうから、家具や雑貨選びが楽しいだろうなあ。台所には小さな椅子を置いて、休日はそこで夕方からハイボールを飲んでもいいし、揚げたばかりの唐揚げをそのままハフハフつまむっていうのもいい。
料理や食べるのが好きな人はいつでも大歓迎。一人の夜は部屋に灯りをつけて、あつあつの紅茶をポットにいれて、大きなソファにごろんと寝転んで、映画か音楽があれば満ち足りるだろうな。
自分が買った家でそんなふうに過ごせたら、最高かも。そうだ、わたしはわたしを大事にするために、家を買ったらいいんだ。
そう思いついたら、ほろ酔い気分も手伝ってか、コートから出ている指先がほかほかするほど、あったかい気持ちになりました。
それで翌週、不動産仲介の説明会に足を運んだ、というのが、今に至るあらましです。
ちなみにその後の話をすると、家を買うというのはきっと恋に落ちるようなもので、すべてが運命的かつ理想通りに進むものだと思っていましたが、わたしの場合はちょっと違いました。
もともとリノベーションに興味があったものの、予算とタイミングの兼ね合いでちょうどいい出会いがなく。とても現実的に予算とエリアで候補を絞り、そのなかで迷いつつも、最終的にリノベ済みの物件に決めたからです。
でも、自分を大事にするというのはどういうことなのかについて、ちゃんと考えて行動にうつすきっかけになったのは確か。
家を買うのはゴールではなく、わたしにとって「なにかの始まり」だったんだなと。まだ住んでみて一年。来年はここでどんなふうに暮らすのだろう、と今から楽しみです。
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