【スタッフコラム】美しい帆を張って生きよう
編集スタッフ 齋藤
東京の街に、目を開けていられないほどの大風が吹いた日。街中の埃も冬の名残もすべて遠くの空に吹き飛んでしまい、代わりにやってきたものは荒々しい草花の香りであり、目眩を誘うほどうねりをあげる野生のエネルギーでした。私は春の嵐の中、髪とスカートを煽られるバタバタという音を聞きながら散歩に出かけ、キラキラと白い細波を立てる近所の川をしばらくの間眺めていました。
頭の中にあったのは、ここ数ヶ月考え続けていたこと。それは風についてであり、ヨットについてであり、人生について。
一年ほど前から、十代の頃にずっと続けていた絵の制作を再開しました。
絵を描き始めるまでの私はどこかで描きたいと思いつつ、材料費もかかるし場所代もかかる、つまりはお金も時間もかかると、あれこれとできない理由を並べ立てて自分の衝動を押さえこんでいたんです。けれども一回ゴタゴタ考えるのをやめ、とりあえず体の好き勝手に任せようと決意し描きはじめたら、新しく出会った方に好きなだけアトリエに来いと言ってもらい、画材を分けてもらい、知恵を分けてもらえることになり、私ができないと並べていた理由は呆気もなく吹き飛んでしまいました。
どれもこれも、以前の私では想像すらできないこと。だって私はお金も場所も時間も全て自分の問題であり、ひとりでどうにかしなくてはならないと思っていたのですから。
思い込みが消えてしまった時、まるで人生に風が吹きこんできたように感じました。
そこでふと頭の中に浮かんだイメージが、自分の足で歩いてゆく人と、ヨットに乗り風の力で進む人の違い。今までの私は、もちろん前者。そして今は、少しずつ後者であることが多くなってきています。
ヨットは、大きな風が吹いてぐんぐん進める時もあるでしょうが、自分が進むべき道に行くためには乗っている人に技術とパワーがいる。一筋縄ではいかないし、風は時に方向を変え、船を転覆させてしまうほどパワフルで容赦がない時もあるかもしれない。進む速度のあまりの速さに恐れをなしても、風が止んでくれない時だってある。そしてまた逆に、風が止んでしまったらどうしようかという不安もある。だからずっと自分の足だけでどうにかしようともがいてきました。それが一番安全なのだと信じて。
けれどもある時ふわっと、今までの自分とは違う生き方にシフトしてしまったんです。
最初はこわかったけれど、ひとりで歩いていたときよりも、不思議と体や神経を使うからか悩みが減り、グダグダ考えることが減り、今を生きることに夢中になれたような気がします。そして何よりも、風を受けて生きることは気持ちが良かった。
周囲の人の力を借りることは甘えなのだと、勝手に自分を追い込んでいた日もあったけれど、本当は、ただ自分の考えの外に出るのが恐ろしく、臆病なだけだったのかもしれません。
協力してくれる方々に頭が上がらないと思うことも多いですが、昔のように自分ひとりでどうにかしようと肩肘を張った生き方には戻れない。何よりも、自分が本当にやりたいことをやるためには、周囲の人の力が必要なんです。
だからせめて私にできることを考えたときに、美しい帆を張ろうと決めました。
周囲の人が手を貸して良かったなと思ってくれるように、風の力でぐんぐん前に前に進めるように、大きく美しい帆を張ろうと。
自分ですべてを決めてしまうことのできない人生は、やっぱりちょっと不安です。けれどもいざ風が止まったら、その時は潔く自分の足で歩けば良い。そう思ったら、心が軽くなったように思います。
だから風が吹いているうちは、怯まず帆を張りつづけよう。風が止んでしまう時だって、いつか絶対に訪れるから。まだ風が吹いているのなら、前に進んだ方が良い。
思わず足に力がこもるほどの大きくて乱暴な春の風に吹かれながら、真新しいシーツのような心持ちで、そう思いました。
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