【金曜エッセイ】「謝ること」は難しい(文筆家・大平一枝)

文筆家 大平一枝


第二十八話:お詫びのありかた


 

 見慣れない差出人からメールが届いた。
 要約すると、あなたが最近、展示会で当店から買ったスカートは水や雨に濡れると、シミの様に見える変化が起こることがわかったので回収をするというお詫びだった。返金と、ご希望なら撥水加工をして返送するがこれは完全ではないことをご承知いただきたい旨が書き添えられていた。

 突然の知らせに戸惑ったが、硬く丁寧な文言の行間から、なんともいえぬ誠実さが伝わってきた。
 きっぱりと率直で、とても潔いのだ。一文を引用しよう。

『以上につきまして、現段階では、一度起きた変化を元に戻す方法を見つけられておりません。
 また、この変化を防いだ上で同じクオリティの生地を作ることも難しいと判断いたしました。このことを事前に察知できずお客様のお手元にお届けしておりましたことを、心よりお詫び申し上げます。』

 ミスはミスとして、もちろん責任を取らねばならない話だが、非の認め方に少しの言い訳も逃げもなく、清々しささえ感じたので、見ず知らずのその人へ、対応に誠意を感じましたと返信した。

 すると、この商品はクオリティの観点から「製品として成立していない」(原文ママ)という最終判断をした詳しい経緯や今後の方針が、また詳細に綴られてきた。

 メールを読みながらかつて取材で聞いた、ある青年実業家の言葉を思い出した。
「不手際や失敗をしたときの対応で、企業の本質がわかる。それを機に成長をする会社とそうでない会社にわかれる。だから僕はクレームこそ宝だと思っています。クレームは、会社が成長できるチャンスですから。そしてピンチはチャンスです」。

 私はたまたま、前述のブランドが、アトリエのような小さな一軒家から始まったところを見ている。一大ブランドに急成長したが、会社の規模がどうなろうとも、失敗したら、原因と対策と方針を説明し、率直に非を詫び、できる限りひとりひとりに丁寧に対応をする。その謙虚さが胸に響いた。

 翻って、自分が失敗をしたとき、このように振る舞えるだろうか。一見丁寧な言葉を使っても、どこか言い訳めいていたり、他のせいにしたりしないだろうか。
 歳を重ねるほど、謝ることは難しくなる。プライドもあるし、経験値で自己弁護にも長けてくる。そういう一切合切を捨てて、人が心から詫びたいと思ったとき、たとえ手触りのないデジタルな文字でも、思いは通じると知った。
 そして私はますますこのブランドのファンになったのである。

 
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。『天然生活』『dancyu』『幻冬舎PLUS』等に執筆。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)など。朝日新聞デジタル&Wで『東京の台所』連載中。プライベートでは長男(22歳)と長女(18歳)の母。

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▼本連載の過去記事はこちら

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