第16回 おにぎりカフェとのお別れ
デザイナー 村田
■◇◇■ 第16回 「おにぎりカフェとのお別れ」 ■◇◇■
いよいよ、おにぎりカフェともお別れです。
カフェを辞めた時の心境、そして日本へ帰ってきた今、振り返って思う事を
書いてみたいと思います。
一ヶ月間の日本お花見帰国を終え、再びおにぎりカフェを覗いてみる。
90%辞める覚悟は出来ていたが、すっかり変貌してしまったカフェの姿を見るのは
相当なショックだった。
店内にはオーナーの彼女が我が物顔で座っており、彼女の私物が店内のあちこちに
飾られていた。
彼女が中国人だったこともあり中国で買ってきたものがほとんどで、もはや
おにぎりカフェは中華風。
しかし、スウェーデン人にとってはどれも一緒。
中国だろうが日本だろうが韓国だろうがみんな同じようなもの。
極東アジア。どっちだって良いのだ。
ストックホルムの街中溢れるほどある寿司屋だって、ほとんどが日本人以外の
アジア人が経営しており、中国人、タイ人、モンゴル人、更にはインド人ですら
寿司を握っている。
そんな店のインテリアが純日本風にまとまっている訳が無い。
アジアな雰囲気を出していればそれで良いのだ。
パクチーやターメリックの香りがしたって誰も不信感を抱くことはない。
日本でリフレッシュしてきたばかりの私の頭の中には、もう失った顧客を呼び戻す
ほどのエネルギーや再びゼロから始めるバイタリティー、はたまたオーナーや
オーナーの彼女との価値観のズレに立ち向かうほどの強い意志は無くなっていた。
私が居なかった一ヶ月間、カフェをお手伝いをしてくれた日本人の女の子には
本当に悪い事をしたと思っているが、もう仕方が無い。
こういう時はすっぱり潔く辞める方が良いのだ。
ずるずる働いていたってどうせお金も出ないんだ。
すぐにオーナーと話をし、辞める決意を伝える。
こういう時のスウェーデン人は実にアッサリしていて、しつこく引き止めたり
ウジウジ理由を聞いてきたりしない。
こういう時もやっぱりクールにすかしてくるのだ。
私が身の回りの物を片付けている間、ずぅーっと無言で眺めていた。
キッチン用具の他にも、2台のターンテーブル、スピーカー、レコード、照明器具など
結構な荷物があり、予想以上に大変な作業になってしまったが、それでも彼は
手伝う事も口を挟む事も無く、ひたすらぼーっと見続けた。
一つ一つの道具には私の汗と苦労と思い出がしっかりと染み付いており、
私の方がよっぽど、しみじみと悲しみに浸りたかった。
しかしここで、もたもたして彼に引き止められたりでもしたら、これまた面倒くさい。
結局、別れを惜しむこともできず、淡々と道具達を車へ運び出したのだった。
「ありがとう、そしてさようなら。」
もう2度と来る事の無いであろうカフェにお別れを告げ、車のエンジンを掛ける。
最後にもう一度深呼吸がしたくなり、再び大地に足を付く。
思いっきり両手一杯広げ、早春の青空に向かって一言。
「明日は昼過ぎまで寝るぞーっ。」
私も意外とアッサリしたもんだ。
さわやかな4月の太陽のもと、背中に羽でも付いたんではないかってくらい
いつになく開放的な気分であった。
さて、今おにぎりカフェを辞め日本に帰ってきて振り返ってみると、やはりあの時の
半年間は非常に充実していたと思う。
何しろ楽しかった。
苦労ももちろんあったが、何と言っても私はキッチンの中で働くのが好きだったようだ。
考えてみると小さい頃から私はキッチンに居る事が多かった。
食べる事が好きで常に食べ物の近くに居たかったっていう、言ってみればただの
食いしん坊って事もあるが、夕飯の用意をする母の手伝いをするのも割と
好きだったのだ。
お味噌汁の用意をしたり、フライの衣を付けるのを手伝ったり。
大根をおろすのだって盛りつけを手伝うのだって全く苦に感じなかった。
むしろ、お料理教室や体験教室のようで楽しんでやっていた気がする。
「料理は想像力よ。」
と母が私に言ったことがある。
それまで私は料理なんて「家事の一つ」くらいにしか思っていなかった。
家族の空腹を満たすだけの機械的な行為なんだと。
しかし、その言葉を聞いてからすっかり料理に対する概念が変わった。
母は覚えているか分からないが、私はそれ以来ずっと今まで常に頭に入れて生きてきた。
料理はアートであり、一つ一つがその人の作品なのである。
センスだって必要だし、経験や知識がモノをいうこともあるのだろうけど、
一番大切なのはクリエイティビティと何事もやってみるチャレンジ精神だと思う。
頭で思い描くだけではなく、実際に舌で想像し舌で味のイメージを感じる。
「うんっ、これはいける。」と思ったところで実際にやってみる。
これがおにぎりカフェでも活かされたのだと思うし、そのおかげでおにぎりカフェを
やって来れたのだと思う。
母に感謝である。
決して成功とは言えない結末であったが、私は後悔もしていないし、
調子のいい事に楽しい思い出しか残っていない。
いつかどこかでこのような機会が再びやって来たとしても、もちろんまた「やる!」と言うだろう。
いよいよ来週はこの連載の最終回です。名残惜しい気持ちでいっぱいですが、最後まで
楽しみに読んでいただけたら嬉しいです。
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