【いつかのおしゃれ】前編:シャツとデニムが日常着。わがままに、マイスタンダードを貫いて

編集スタッフ 岡本

きれいな白髪にさりげないアクセサリー、体にほどよく沿ったシャツにちょっとした差し色。

すっと背筋が伸びていて、清潔感をまとっている人。

そんな人生の先輩ともいえるすてきな女性を見かけると、つい目で追ってしまいます。

あんなふうに歳を重ねていきたい、と思うと同時に、普段はどんな暮らしを送っているんだろう、と聞いてみたいことが頭の中にいくつも浮かぶのです。

私自身、もうしっかり大人だけれど、これから先の「歳を重ねていくこと」について、ピンときていないのが正直なところ。

いつか見た目や好みにも変化が訪れるのかな、似合うと感じているものがそうではなくなることもあるのだろうか。

この不思議な気持ちとの付き合い方が気になって、すてきなあの人にこれまでの人生のことや、歳を重ねたからこその今の着こなしについてお話を伺ってきました。

 

葉山に住んで50年。シャツとデニムを日常着にして

逗子駅から車で20分、細い登り坂をすすんだところに立つ一軒家に娘と孫の3世代で暮らす、伊藤千桃(いとうちもも)さん。

雑誌で拝見したときから自然体でおしゃれを楽しむ姿に心惹かれ、いつかお話をお聞きしたいと思っていました。

取材当日、ドキドキしながらお邪魔すると、部屋中に焼き立てパンのいい香りが。手際よく準備をしながらお手製のチャイを煎れて、私たちをもてなしてくれました。

千桃さん:
「遠くまで来て、お腹すいたでしょう。

来客がある日は、フォカッチャを焼くって決めているのよ。温かいうちにどうぞ」

ふかふかもっちりのおいしいフォカッチャにやさしい甘さの温かい飲み物。

千桃さんのまわりに漂う穏やかなオーラで心も体もあたたまると、その場にいた人がみんな笑顔に。まだ会ったばかりなのに、ぐんぐんパワーをもらっている気がしました。

千桃さん:
「葉山に住んで50年。今は、桃花源(とうかげん)という名で、民宿とケータリングを営んでいます。

毎朝5時頃に起きて身支度を整えたら、洗濯機をまわしながら庭仕事を少し。放っておくとすぐ伸びちゃうから手入れが大変なんだけれど、今は庭をいじっているときが一番楽しい時間ね。

娘と孫も住んでいるけれど、キッチンはそれぞれにあるから私は気ままに暮らしてますよ」

千桃さん:
「普段はほぼ毎日、シャツとデニムを着ています。タフさと清潔感を重視したら、このスタイルに行き着いたの。

葉山や鎌倉あたりだったらこのまま行くけれど、孫に誘われて都内に行くときは、スカートにタイツを合わせてみたり、いつもと違うスカーフを巻いたり。

せっかくならと思って選んだものを身に着けると、気分が変わって楽しいわよね」

本当にふつうのことしかしていないけれど、と言いながら話してくれるエピソードは、どれも千桃さんなりに考えたおしゃれの理由がちゃんとあって、暮らしとおしゃれの繋がりを感じました。

 

「洋服に負けない」を、おしゃれのモットーに

お話の中で印象的だったのが、おしゃれのモットーについて聞いたとき。ちょっぴり意外な答えを紐解くと、千桃さんの生い立ちに関係があるようです。

千桃さん:
「おしゃれのモットーは、洋服に負けないこと。

新しい洋服を買うときや、晴れやかな場所に行く時なんかは、若い頃からずっとこの言葉を大切にしてきました」

日本人の母とインドネシア人の父をもつ千桃さん。しばらくは生まれ故郷のジャカルタで暮らしていましたが、なかなか現地の風習に馴染めず、母は当時2歳だった千桃さんを連れて帰国。その後、やむを得ない理由で育てるのが難しい状況に。

数年後、引き取り手となった養母との暮らしが始まりました。

千桃さん:
「会社を経営していた養母は、強くてたくましい女性でした。

周りの人が近づけないような独特の雰囲気を持つ人ですごく厳しかったから、私もずっと敬語で話していたくらい。でも、まだ女性の経営者が少ない時代に、都内の家とこの葉山の土地を買って、行ったり来たりして暮らしていたことを思うと、大変なことがたくさんあったんだろうと思います。

洋服も自分なりの感性で着こなす人だったから、こんな土地でもチャイナドレスや毛皮のコートを着たりしてね。

幼心に恥ずかしいわなんて思っていたけど、あとから近所の人に『あなたのお母さん、とってもかっこいい』って言われて、驚いたこともありました」

千桃さん:
「忙しい母に代わり、私の世話はお手伝いさんがしてくれていたのもあって養母との思い出は少ないの。でも今思うとブティックへ行って洋服を選んでくれたり、映画館へ出かけたりしてくれましたね。

時々、派手な服を買ってきて『これくらい着こなせないとダメよ』なんて言われて、そういう経験や言葉ひとつひとつが、今に繋がっているのかしら」

 

わがままに、マイスタンダードを貫いて

▲よく着ているトップス。左の2枚はラルフローレン、右はヨーガンレールのもの。

千桃さん:
「最近になって、トップスはお尻が隠れる丈がいいなと思ったり、綿素材が心地いいと思ったり、少しの変化はあるけれど、ファッションに対する考えって若い頃からあんまり変わっていませんね。

いつだって、自分が着ていて落ち着く格好がいいです。

学生時代は、黒のタートルネックにデニム。髪はひとつ結びにするのが、私のスタンダードで毎日同じような服を着ていました。

それが今は、シャツとデニムでしょう。

私ね、わがままなんだと思うんです。自分はこうしたい! っていう気持ちに従って、着るものを選んだり、それを変えなかったり。

着るものも暮らしも、ある程度のわがままさって大事よね」

 

おしゃれの原動力は
「すてきに着こなしてみたい」という気持ち

自分自身が落ち着く、心地いいと感じる着こなしを見つけた千桃さんは、あまり買い物をしないのだそう。

新しい服を買うのは、数年に一度。そんな千桃さんが最近買ったのは、パッと目を引く濃いピンクのデニムでした。

千桃さん:
「お店で見つけた時、あっこれすてきって直感的に思ったんです。この色を身につけてみたい、きっといつも着ているシャツにも合うはずと思って、すぐに買いました。

滅多に買わないけど、決めたら早いの。(笑)

自分に似合うかどうかも大事かもしれないけど、私はやっぱり好きなものを着ていたい。

すてきに着こなしてみたいって思う気持ちはファッションを楽しくすると思うし、叶った時は気分がいいですから」

前編では、千桃さんのこれまでの暮らしやファッションを通して、その朗らかな笑顔や凛とした立ち姿のわけを少しだけ紐解いてみました。

続く後編では、ふだんのおしゃれをどう楽しんでいるのか、日常着とお出かけ着、それぞれについてご紹介します。

(つづく)

【写真】芹澤信次

 


もくじ

 

伊藤千桃

1950年(昭和25年)4月24日ジャカルタ生まれ。日本人の母とインドネシア人の父の間に生まれる。自然豊かな葉山にて「桃花源」という屋号で民宿とケータリングサービスを行っている。著書に『千桃流・暮らしの知恵(主婦の友社)』がある。

 


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