【自分らしい住まいの作り方】第3話:雑貨もアートも、好きなものを心地よいリズムで飾るコツ。
ライター 長谷川未緒
そこに住まう人らしさが伝わってくる家は、足を踏み入れた瞬間からワクワクします。
特集「自分らしい住まいの作り方」では、自分らしくいられて落ち着く、居心地が良い空間を作るヒントを探るべく、矢野悦子(やの えつこ)さんがご夫婦で暮らす、葉山のご自宅兼アトリエを訪ねました。
矢野さんはH.P.FRANCE(アッシュ・ペー・フランス)が展開するセレクトショップ『Lamp harajuku(ランプ・ハラジュク)』の立ち上げから21年間ディレクターを務めたのち独立。2022年からご自身のセレクトショップ『September Poetry(セプテンバー・ポエトリー)』を主宰し、美しくユーモアのあるものを紹介しています。
そんな矢野さんのお住まいは、自分軸があって、ほどよく力の抜けたインテリアでした。
第1話では、東京から葉山に越してきたきっかけや、ギャラリーをイメージしたというリノベーションの様子などを、続く第2話では、ずっと好きだったピンクをインテリアに解禁した話を中心に伺いました。
第3話では、長年店舗のディスプレイにも携わってきた矢野さんが、自分が好きなリズムで並べているという室内装飾のヒントをお聞きします。
1,2話もよむ
昔の「床の間」感覚で、お気に入りのものを飾る
矢野さん宅のダイニングテーブルでは、木の板の上に、友人が拾ってきたというシーグラスやアロマキャンドル、セージなどが並んでいます。こちらの板はフベンという作家の作品で、「生活のためのお立ち台」なのだとか。いったいどういうことなのでしょうか。
矢野さん:
「たとえばキャンドルも、ただテーブルに乗せているのと、このプレートの上に乗せているのとでは見え方が違います。プレートの上のほうが引き立って、輝いて見える。そういう意味で、お立ち台と表現しています。
昔の日本家屋には、床の間という空間があって、そこには季節ごとの花や掛け軸が飾ってありました。どの家にも小さなギャラリーがあったということだと思うんですよ」
矢野さん:
「そういう昔の豊かさを現代に取り入れたいけれど、今の家には床の間はないので、そのかわりにこのプレートを置いています。ここにお気に入りのものを並べるだけで、現代の床の間のような空間になると思うんです」
たしかにこの板があるだけで、その上にあるものに目線が集まります。玄関や本棚など、ちょっとしたスペースに、お立ち台コーナーを設け、お皿などの上にものを集めて置いてみるといいかもしれません。
自分の心地よいリズムで並べることがいちばん大切?
仕事場の窓ガラスに貼られた作家さんからのお手紙、靴箱の上に並んだサボテン、冷蔵庫にくっついたマグネット……。これらはさまざまなパターンで、きれいに並んでいます。
矢野さん:
「ついきれいに並べてしまうんですよ(笑)。もっと雑多な感じに置きたいと思うこともあるのですが、やっぱりひとつずつきれいに並んでいるほうが心地よくて。丸いものはつい重ねちゃいますし」
矢野さん:
「並べ方のコツですか? たとえばこのサボテンたちは、一列に並べているので、高い、高い、低い、平たい、などと凹凸を出すように並べていますが、自分の心地よいリズムがいいですよ。
三角に並べてみたり、平らに置いてみたり、遠近をつけてみたり、いろいろ試してみて自分がしっくりくるリズムなら、素敵に見えると思います」
ルールやセオリーも心地よいリズムを作るヒントになりますが、自分軸で心地よさを追求してみると、新しい発見がありそうです。
自宅にアートをなじませるヒント
仕事柄、アーティストとのつきあいも多く、その作品も家にたくさん飾られています。コーナーごとにテーマがありそうな様子で、ひとつひとつはバラバラで個性があっても、とても調和しています。
矢野さん:
「たとえばWAKA WAKAのピンクの椅子は葉山に越してから買ったもので、もともと持っていた原田郁さんの絵と合いそうだと思いました。色は違いますが、トーンが揃っているので、お互いが引き立つ気がします。
もともと好きな色味が似ていることもありますが、色味をそろえたり、統一感をもたせたりしています。どこに飾るか想像して、イメージが湧かなかったり合わなそうだと感じたら、買うのをあきらめることも」
このコーナーに飾っている少女のオブジェ、ペーパーフラワー、ランプは、それぞれ作家は違いますが絵本に出てきそうな、物語のある世界観がどことなく似ている、と矢野さん。色のバランスがいいと思って、一緒に飾っているそう。
矢野さん:
「アート作品は好きだけれど、どう飾っていいのかわからないとよくお客様もおっしゃいます。
あまり気負わずに、好きなものに出会ったらまずは家のコーナーに飾ってみてはいかがでしょう。洋服をコーディネートするような感覚で色味や世界観を揃えて飾れば、日々の暮らしが楽しく、美しくなると思います」
大人のチープシックなインテリア術
アート作品かと思いきや、作家からのお手紙やお気に入りのショップのDMなども飾られています。不思議と調和しているのは、きちんと額装されているから。
矢野さん:
「好きなショップのDMなど、素敵すぎて、捨てるのにしのびないものってありますよね。ただ壁に飾ってもいいのですが、額装すると、とたんに素敵に見えるのでおすすめです」
テレビ用のキャビネットのとなりにある、レコードプレーヤーを置いたシンプルな棚は、プチDIYで作ったもの。
矢野さん:
「ブロックと板を組んだだけの簡単なものですが、ちょうどいいサイズに作れて満足しています」
アート作品と額装したDM、作家ものの家具とプチDIYが調和しているのも、人からどう思われるかよりも、自分の好きを大切にしているからでしょう。
50代はマイペースに。庭づくりに励み、植物に囲まれて暮らしたい
この家に越して2年、室内はだいたい完成してきたから、次は庭づくりに力を入れたいそう。
矢野さん:
「家の周りは小さいけれど後ろまで庭が続いているんです。
今はまだ手前にエキナセアなどを植えているだけですが、春夏秋冬でぐるりと植物に囲まれた家にしたいな、と。自然に生えている野原のようなイメージですね。
お花屋さんの切花も好きですが、四季折々、庭の植物で家を飾れたらいいな、と思っています」
50代を迎えた今、好きなペースで仕事も生活もできているから、このまま心地よいリズムで続けられたら、と矢野さん。
自然と共生し、暮らしと作るものが一体化している作家さんの活動を応援し、自らも暮らしをそのまま見せながら、お店を主宰する。
そんな矢野さんのお住まいは、自分軸がありながら気負いなくリラックスしていて、風通しのいい生き方が、そのまま現れているようでした。
【写真】滝沢育絵
もくじ
矢野悦子
H.P.FRANCE(アッシュ・ペー・フランス)が展開するセレクトショップ『Lamp harajuku(ランプ・ハラジュク)』の立ち上げから21年間ディレクターを務めたのち独立。2022年からセレクトショップ『September Poetry(セプテンバー・ポエトリー)』を主宰し、美しくユーモアのあるものを紹介している。https://september.theshop.jp
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