眠るまえのショートストーリー
眠る前のショートストーリー  Nov.落ち葉の展覧会

眠る前のショートストーリー  Nov.落ち葉の展覧会

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あわただしい一週間をかけ抜けている皆さまへ。眠るまえの、ちょっとした時間でもたのしめる、童話のようなショートストーリーをお届けします。本を手にとる元気がない日、心に余裕がない日でも、ひととき現実を忘れて、物語の世界へもぐり込んで。今日という日が心地よく幕をとじ、よい眠りにつけますように……

 

「落ち葉の展覧会」


オオカワさんは、ちょっと変わった花屋さんです。

一言でいうとそう、長靴下のピッピが大人になったような人です。

おしゃれな洋服屋さんで花を売っていたかと思えば、屋台に花を積んで売り歩いていたこともあります。花市場でも、華やかな花に隠れるように並ぶけなげな草花を上手に仕入れて、素敵な花束を作ってしまう。

道端の草をしげしげ見つめているときもあります。きけば、子どもの頃から木や花が好きだったそうです。なるほどね。

民家のガレージで花屋を開いていた時期もあります。あれは、不思議なお店でした。

ガレージには大家さんの自動車が置いてあります。オオカワさんはその車の脇に、手製のかわいらしい手押し車を置き、花の売り子をしていました。

手押し車には、季節の草花がたっぷり並んでいてまるで小さな小さな野原のよう。オオカワさんがそこから花を摘むように、ささっと束ねてくれます。

まるで童話のなかのような光景でした。

これはその、ガレージで花を売っていた頃のお話です。

ある秋のこと、オオカワさんから一枚の葉書が届きました。

「てんらんかい します ぜひ きてください」

という言葉のほかには、日にちと、ガレージの住所と地図が書いてあるだけ。

花屋さんの展覧会って、どんなことをするんだろう。

花を使ってオブジェを作るのかしらん。

それとも、絵を描くのかな。

うずうずして、行ってみることにしました。

早くも北風が吹き始めていました。

上着の前をしっかり押さえて夕暮れの街を歩いていくと、オオカワさんの花屋があるガレージが見えてくる……はずでした。

ところが、あれ、ガレージが塞がれている。

いつもの出入り口がベニヤ板でしっかりと覆われています。

困ったなあと思って近づいてみると、1箇所だけ小さな扉がついていて、分厚いカーテンがかかっています。

ここから入っても、いいのかな。

おそるおそるくぐってみて、驚きました!

ガレージの内側は、たっぷりとした秋の景色!



足元には、落ち葉がふかふかに敷き詰められています。

一歩踏み出すと、赤や黄色、茶色の葉っぱがかさこそと音をたて、秋らしい落ち着いた香りがしました。

見上げると、木の実や草の実、紅葉、小さな花などを連ねた無数の飾り紐が、天井や屋台の屋根から下がっています。

つややかなヒメリンゴがあります。バラの実やナナカマドがあります。ちいさなどんぐりもあります。ふわふわしたフランネルフラワーもあります。

それらがくるくる回りながら、空中を彩っているのです。

オオカワさんは落ち葉のなかに座り込んで、せっせとその飾りを作り続けていました。

「この落ち葉、素敵ね! どうしたの?」ときくと、オオカワさんは

「今朝、まだ誰も起きていないうちに、道や公園をぐるりと回って集めてきたんだ。

妹と一緒に、トラック一台分集めては持ち帰って、また行って、ってしてね」

と言うと、そばかすだらけのチャーミングな顔でにこっとしました。

オオカワさんがみんなに見せたかったのは、季節が変わるこの瞬間だったのです。

厳しい冬になる直前の、葉っぱが色づいて、いい匂いがして、草花が実をつけてふくらんでいく、この一瞬の自然だったのです。

駆け足でいってしまう秋を、たった一日だけ引き止めた展覧会。

オオカワさんって、やっぱり素敵だな、と思いました。


 

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文/ヒツジ雲 おやすみ前の皆さまに、いい夢をお届けできるようなショートストーリーをつくっているユニット

 

イラスト/杉本さなえ 鳥取出身。2018年から福岡を拠点に活動。少女や花、動物などをモチーフにした物語性のあるイラストレーションを制作。近年は墨汁の黒と朱の2色のみで描く作品に力を入れている。イラストレーターとしても活動中。2018年に作品集「Close Your Ears」2022年に作品集「AGEHA」発行。

 

2025/11/29

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