【はたらきかたシリーズ】篠田真貴子さん(ほぼ日刊イトイ新聞)第3話:正解をひとつに求めないと、気持ちがラクになる

編集スタッフ 長谷川

150804ct_workstyle00016聞き手・文 スタッフ長谷川、写真 田所瑞穂

「ほぼ日」こと、ほぼ日刊イトイ新聞を運営する東京糸井重里事務所で、小学6年生の息子さんと小学2年生の娘さんを育てるお母さんであり、取締役CFOを務める篠田真貴子さんにお話を伺っています。

財務や会計だけでなく、人事制度、組織づくりなどにも関わり、忙しい日々を送る篠田さん。仕事と子育ての良いめぐりを生むためには、どのような工夫や考えがあるとよいのでしょうか。

連載第3回では、仕事を子育てを両立していくために、篠田さんが考えていることを教えてもらいます。


もくじ


 

仕事の責任を全うするために、「上司も使う」感覚を持つ。

篠田さんは「子育てをする部下が、18時から21時までは仕事はできないと言っているけれど、信じてもいいのか」といった相談を、同年代の男性に受けることがあるそうです。「多くの場合、子育てで大変な方の状況を知らないだけですから、上司には自分から具体的に言いましょう」と篠田さん。

篠田真貴子さん:
「自分は何ができて、何ができないのか。それから子どもの事情で動けないときは早めに申告するようにするなど、まず明確に上司と話すのが一番の信頼につながると思うんです。

子どもが産まれたから状況が変わるんだろうな、というところまでは、たいていの人なら想像できます。

でも、何がどう変わるかがわからないから、上司も不安で、その不安が“心配”や“不信”という形になる。

その対話をせずに、『私たちが直面している状況を想像してほしい、わかってほしい』と上司に求めているとしたら、それは無理な望みではないかと思ってしまいますね。

だから先に、なぜ18時から21時までは電話もメールにも応えられないかを、具体的に写真などを使って伝えてみてはいかがでしょう。

それまでの仕事で、上司部下の信頼関係がつくられているのならば伝わるはずです。自分の事情なのですから、主導権を握って話して大丈夫!

出産に限りませんが、職位に関係なく、仕事の責任を全うするためには『上司も使う』という感覚を持てるといいです。私もこの考え方を以前いた会社で叩きこまれました。

自分の力量では途中までしか進められない仕事のことを上司に相談するのは、部下の責任でもある。育休後の働きかたの理解を得ることは、それに近い状況なんだと思います」

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▲篠田さんが監訳した『ALLIANCE』は、上司だけでなく、企業と人が「信頼」で結ばれる、新しい雇用のカタチを提示している。「出産を経て、それでも仕事をしていこうという女性にはすごく響くと思います」と篠田さん。

 

葛藤は、糧になる。

「今の仕事を続けていてもいいのだろうか」「子どもがいなかったら仕事に打ち込めるのに」など、もやもやと考えてしまう瞬間はあるもの。篠田さんにも、そんなもやもやは浮かぶのでしょうか。

篠田真貴子さん:
「もやもやは、ずっとありますよ。今も、あります。でも、その葛藤を経て、“自分としての考え方や決断”を繰り返していけば、それは何かしら自分の糧になるはずなんです。

私なら、子どもがいなくて時間が自由だとしたら、かつていた外資系企業の規定する道に、海外転勤もしながらどんどん乗って行くことを選んでいた可能性も、じゅうぶんにあったと思います。

でも、その道には、少なくともいま抱えている葛藤と、そこから学んだことはないんです。葛藤がなければ、それこそ私は東京糸井重里事務所とのご縁があっても入社しなかった可能性さえあるわけですから」

 

子育てと仕事は、足して10を超えればいい。

「仕事の量でいくと、フルで向かい合ったときを10としたら、現状で発揮できているのは6から7な感じですね」と話す篠田さん。

篠田さんは、仕事と子育てのバランスについて、ひとつの考え方を教えてくれました。お子さんが習っているピアノの先生から聞いたお話です。

篠田真貴子さん:
「先生が、結婚して子どもができ、それでも音楽を続けていこうとした時に、お父さんにこう言われたんですって。

『音楽を全うして10を目指すことは、子どもがいると難しい。でも、諦めるのではなくて、7くらいを目指すのです。そして子育ても7を目指しなさい。足せば10を超えるのだから、それは立派なことだよ』

私は、7は無理かもしれないけど、5以上ならばやれるかなと思っています。足して10を超える体験ができるかもしれないわけですから、仕事と子育てを両方すると、報われることはきっとありますよ。

そうやって向き合っている分、『私にはわかることが増えているんだ!』っていう得した感じや、ちょっとした闘志みたいなものも湧いてきますね(笑)」

人生には、仕事と育児に限らず、“二足のわらじ”を履く局面もあるでしょう。そんな時は、葛藤を糧にして、その時にしかできない経験を活かすことを心がけてみるのが、自分の生き方をプラスに向けてくれるのかもしれません。

 

正解がひとつだと思わなければ、ラクになれる。

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輝かしいキャリアをもつ篠田さんでも、子育ては誰もと同じような悩みを抱え、葛藤しています。

保育園の先生とのやりとりをする“連絡ノート”のエピソードを伺っていると、その大変さが少しだけ垣間見えました。

篠田真貴子さん:
「日々のことを報告するノートなんですが、宿題を忘れた子どもみたいに廊下で『わー!』って書くこともしょっちゅうあったし、土日は力尽きて、まとめて書いていました。

娘が2歳のときですけど、疲れてバタッと床で寝ていたら、耳元でジョキッ!って音がして。娘が私の髪をハサミで切っていたんですよ! 長男も大人しい方だけど、男の子はいろんなところに登りたがるから、年に一度はケガして救急病院へ行ってましたし。そういうのばっかりですよ(笑)」

そんな日々にあって、篠田さんが勧めてくれたのが「正解をひとつに求めない」ことです。

篠田真貴子さん:
「いろんなやり方から取捨選択していると思えるのが大事です。正解がひとつだと思うとツライんですよね。

たとえば、長男を妊娠していたときに、アメリカの育児情報のウェブサイトを見ていたんです。すると、お医者さんたちの公式コメントで『妊娠中も軽めの運動をしてください』と書いてある。当時の日本では、マタニティヨガなんてごく一部だけの話で、妊婦が運動するのはまだ一般的じゃありませんでした。

つまり、日本にいれば『運動するな』、アメリカにいれば『運動しよう』と言われるわけです。

その後の育児についても、いろんな方がアドバイスをくれるのだけど、『これが唯一、絶対じゃないんだ』と思うだけで、だいぶ気がラクなりましたよ。

他にも選択肢があると知った上で、自分と家族の中で成立するやり方を、自分たちで選びとっているんだという心境だと、精神的に安定します。育児ってひたすら不安ですものね」

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篠田さんでも悩むなら、僕はもっと悩むだろう。でも、それでいいんだな。

インタビューを終えて、「子育てと働き方の良い関係には、自分なりのモノサシが必要なのかも」と考えていた僕の想いは、ますます確かなものになりました。

篠田さんのお話からは、「不機嫌にならないための工夫」「手段をたくさん持っておく」「正解をひとつに求めない」など、自分にも心がけられそうなヒントがたくさん。

そのどれもが子育てと仕事を両立していく中で、篠田さんが選び取ってきたものばかりだからこそ、説得力があって、言葉にパワーを感じられたんです。

そして、ビジネスパーソンとしてのキャリアを持ち、外資系企業の荒波でもまれた篠田さんも、子どもと向き合うときはひとりのお母さんであり、親である。篠田さんほどの人であっても、悩んだり、苦労したりもする……。

「あの人はすごいから」なんて言って見ないフリはできないし、きっと自分も同じように悩みに直面して、もがいていくしかないのだろうなと思います。

帰り道、僕の頭には、いつか見たCMのワンシーンが蘇っていました。日本の算数は「4+6=□」を埋めるけれど、イギリスでは「□+□=10」を解かせていくという話です。

どんな数字を入れてもいい。「唯一、絶対じゃない」答えを、自分のモノサシを使って導き出していく。そこには自由がある代わりに、選びとった責任もセットになっている。でも、それこそが楽しみで、自分なりの生き方にもつながっていく。

そう思うと、日々のあらゆることが、今よりちょっと色づいて見える気がしました。

 

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もくじ


 


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