【らしさを探して】前編:きっかけは、18年前の北欧での出会い? クラシコムの新オフィスができるまで
編集スタッフ 野村
この春、クラシコムの新オフィスが完成しました。
木造建築ビルの特徴を活かしたデザインと、仕切りが少なく開放的な空間が広がるオフィスです。
私たちスタッフも、新鮮な空気と空間にまだ少しソワソワしながらも、新しい環境での仕事に邁進しています。
新オフィスの設計・デザインは、クラシコム全体のデザインに責任を持つコーポレートクリエイティブ室(以下、CC室)が主導となり、デザイン事務所「SIGNAL Inc.(シグナル)」と濃密なやりとりを重ねながら進めました。
実は、シグナルへデザインをお願いすることになったきっかけは、代表の徳田純一(とくだ じゅんいち)さんと店長佐藤が出会った、18年前の北欧にさかのぼります。
そこから時を経て、新オフィス設計を機に2人が再会し、こうしてオフィスの完成を読み物としてお届けできることになりました。
北欧での出会いと再会のはなし、そしてオフィスづくりを通して見えてきたクラシコムの価値観のことなど、完成したオフィスを巡りながら、たっぷりお話ししていきます。
▲(写真左から)シグナルの徳田さんと佐藤
出会いは、18年前の「北欧」でした
シグナルへオフィスデザインを依頼したきっかけは、佐藤が初めて北欧を訪れた18年前にさかのぼります。
佐藤:
徳田さんに出会ったのは、ストックホルムで開催されていた「ファニチャーフェア(ストックホルム国際家具見本市)」でしたね。当時、夫がそのフェアに出展することになり、私もついて行ったんです。
徳田さん:
僕は当時、スウェーデンのヨーテボリ大学でデザインを学んでいました。大学がそのフェアに参加していたので、僕も出展していたんです。
そのフェアで、英語が喋れず困っていた佐藤さんたちの通訳代わりをしたことが印象的で、今も覚えています。
佐藤:
「同じ日本人だから助けてよ〜」って徳田さんに泣きついていた気がします……(笑)
▲18年前、ストックホルムに滞在した佐藤。この旅行の際、徳田さんと出会いました
徳田さん:
佐藤さんたちが現地で友達になった人と、僕も知り合いでした。毎年ファニチャーフェアの時期にその知り合いの家に泊めてもらっていて、そこに佐藤さんたちもやって来た。
佐藤:
夜は、その共通の知人の他にも大勢集まって、湖の近くにある眺めのいいレストランで食事もしましたね。
美しい景色の中で、楽しかった時間。あの時の光景と時間が、今もすごく記憶に残っています。
徳田さん:
その出会いをきっかけに、共通の知人を介して、お互いの様子を見たり知ったりする機会が静かに続いていたかなと思います。
そうだ、あの徳田さんがいる……!
佐藤:
私たちが新オフィスを構えるかどうしようかと悩んでいた頃、たまたまSNSで、徳田さんが設計したオフィスのポートフォリオを目にしたんです。植物がたくさんある素敵なオフィスでした。
それで、「そうだ、徳田さんってオフィスの設計ができる人だった!」って私の中で点と点がつながったんです。
北欧に原点があるクラシコムだからこそ、北欧で出会った徳田さんに新オフィスの設計をお願いしてみるのはどうだろう、と頭に浮かびました。
徳田さんとなら、クラシコムのエッセンスや言語化しにくい感覚・感性を共有しながらオフィスを作れるかもしれないって。実際に会うのは実に18年ぶりのことでした。
徳田さん:
僕たちもお話をいただいた時、これまで「北欧」をベースにしたものはチャレンジしてこなかったし、いい機会だなと感じました。
クラシコムと僕たちのイメージのすり合わせには苦労がありながらも、お互い時間をかけてコミュニケーションを大切にしていきましたね。
▲CC室マネージャーの佐藤も交えて、新オフィス作りの当初を振り返る場面も
「北欧、暮らしの道具店」の空間をイメージした、けれど……
▲代表青木、CC室マネージャー佐藤、店長の佐藤3名で行った、オフィスイメージの「ありなしワーク」の様子
佐藤:
新オフィスの内装はCC室へ任せていた部分も大きかったので、今日は色々とお話を聞けるのを楽しみにしていました。
はじめ、クラシコムからのオーダーはどんな風でしたか? というのも、私たちはオーダーをするにあたって、クラシコム側の共通認識を作るために、あるワークをしていて。
大きな机に、あらゆる海外のオフィス空間をプリントアウトしたカードを100枚くらい並べて、良いと思ったものと、違うと思ったもの、それぞれに付箋を貼っていく、というものなのですが……。
徳田さん:
実はそのワーク、イメージのすり合わせのためにこちらで準備したものがベースになっているんです。
「北欧」という、ふわっとしているイメージをもう少し具体的にしたくて。北欧には、アートっぽい要素もあれば、工業的なデザインの要素、もっと近代的なイメージもあるかもしれません。なので、オフィス写真をたくさん集めて、そのどの辺りなのかという認識合わせをしたかったんです。
佐藤:
私たちも、ただ単に「北欧っぽいオフィス」を作りたかったわけではなかったので、自分たちの感覚をイメージのままお伝えできたのはよかったなと感じました。
そのワークの中で最初に私たちがいいなと思ったのが、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトのスタジオでした。
徳田さん:
そうでしたね。それで次に悩んだのが、アアルトのスタジオのどの辺がいいと感じたんだろう? ということでした。
僕がはじめに思い描いたのは、「北欧、暮らしの道具店」のウェブサイトを見て感じた、「生活・暮らし」がにじみ出ているような空間です。なのでスケッチでは、入り口部分に北欧住宅の玄関のような意匠を凝らしてみるのはどうかなと提案しました。
雑貨や小物をディスプレイできるスペースがあったり、ペンダントライトが吊り下がっていたりと、こってりなイメージでスケッチしました。アアルトのスタジオにも、意匠が凝らされている部分があるので、そこだと思ったんです。
「クラシコムを象徴し、それを体感できるオフィス」にしたい、という思いも聞いていたので、「クラシコムといえばこう」を僕たちなりに形にしてみました。
すると、CC室の皆さんから「全然違います」と返ってきて……(笑)
▲提案いただいた初期のオフィススケッチ。生活感のあるインテリアをイメージしたそう
作り込み度が「10」から「2」に?
佐藤:
なるほど、そうだったんですね。完成したオフィスの内装は、はじめのスケッチ案と比べると、すごくシンプルです。このデザインに辿り着くために、お互いどうやってすり合わせをしていったんですか?
徳田さん:
とにかくちょっとずつ引き算です。最初のスケッチのこってり具合が「10」だとすれば、今は減らして減らして「2」くらいでしょうか。
佐藤:
最後に残ったこだわりの「2」は、どんな部分にあらわれていますか?
▲オフィス内で使われるサインは、創業15周年を期に原研哉さんにコーポレートロゴとともにデザインしてもらったオリジナルフォントを使用
徳田さん:
空間の中でメリハリをつけた形や、細部の素材感へのこだわりが、残りの「2」にあらわれていますね。
内装がシンプルなだけに、ただ引き算をしただけでは、本当になんでもない「ただの箱」という感じになってしまって、クラシコムの世界観が作り込めません。
たとえば、もともと銀色だった天井を白く塗装したほうがいいとか、あえて空間のボリュームや雰囲気を出すために追加で天井をつけてメリハリを出す調整をしていきました。
そうやって、クラシコムの世界観を空間として体感できるようなオフィスにできれば、とお互い話し合いを重ねていきましたね。
▲追加で取り付けた天井の一角
人が自然と集まれるオフィスへ
佐藤:
オフィスの内装は、壁や仕切りが少ない開放的な空間で、何から何まで丸見えです。
だけど、不思議とちゃんとゾーニングされている気がするんです。人が自然にそこここに集まれる感覚があります。こうした居心地の良さにもデザインの工夫があるんですか?
徳田さん:
全ての場所を居心地よく使えるように、テーブルとテーブルの距離や、パッと見た時に視界に入る物の量も調整しています。そうやって「空間の距離感」にはいつもこだわっていますね。
壁や仕切りが少ないシンプルな空間でも、人が自然と集まりやすい雰囲気を作れるよう、クラシコムのオフィスは、僕たちが普段手がけるオフィスよりも、さらにゆったりめのデザインです。
できあがったオフィスを見て、すごくいい距離感が作れたのかなぁと感じています。
徳田さんと佐藤の出会い、そしてオフィスデザインのこだわりや苦労話に花が咲いた前編はここまで。
後編では、クラシコムらしさがあらわれた「とあるスペース」へと話が広がっていきましたよ。
(つづく)
photo:吉田周平(7、12枚目を除く)
新オフィスの全貌を、動画でご覧いただけます
新オフィスの様子をまとめた、オフィスツアームービーも作成しました。こちらの動画もあわせてお楽しみいただけたら嬉しいです。
もくじ
SIGNAL Inc.
徳田純一 新海一朗
オフィスデザインや店舗デザイン、プロダクトデザインまで、幅広く設計・デザインを手がけるスタジオ・SIGNAL Inc.を共同設立。訪れた人がワクワクし、心地よくなるだけでなく、それを誰かに伝えたくなる場所づくり。色や形にとどまらず、人々の記憶と感情が連鎖していくデザインを目指す。
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