【連載|お星さんがたべたい】03:ポップコーンはからから
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小原 晩
突然、ひとりにたえられない夜がくる。
なげいたり、泣いてみたり、怒ってみたりしたっていいけれど、そういう気分にもなりきれない、からからかわいたさびしさが、心に腰を下ろすとき、どうしたらいいのだろう。まいど、あたふたしてしまう。
友達に遊ぼうと声をかけてから、やっぱりやめてみたりする。お酒をのもうとコンビニへでかけて、なにも買わずに出たりする。散歩へ行こうと家を出て、通り雨に降られてずぶ濡れになったりする。
そういうふうなとき、どうしたらいいのだろう。
その夜、わたしは家で映画をみることにした。
そうと決まれば、ワンルームオールナイト上映だ! と意気込んで、まずは雰囲気から入ろうとポップコーンを買いに部屋を出た。
ちいさな星のかすんでしまう明るい夜である。
いちばん好きなキャラメル味のポップコーンを探して、コンビニからコンビニへ、コンビニからスーパーへ歩く。スーパーにて「キャラメルアンドシーソルト」というふたつの味が入っているの見つけ、すぐさま買って抱えて帰った。
お風呂をすまして、いまからみる映画の順番を決め、ボウルにポップコーンをうつし、熱いコーヒーを淹れてベッドサイドテーブルに置いた。ベッドにはいり、枕とクッションをいくつも重ねて、首をちょうどよいところに置く。部屋の灯りをすべて消し、iPadから映画を流す。真っ暗なので、手探りでポップコーンをつかみ、口に放り込む。からからかわいたさびしさのことを思い出す。キャラメルはあまくてふくよかでコーヒーに合う。シーソルトの単純な塩っ気のおかげで最後まで飽きることもない。これは、柿ピーの要領であるな。思いながら、ポップコーンのことばかり考えていたことに気づいて映画を巻き戻す。おそまつな集中力である。
それからは無事、映画に引き込まれ、こころをどんどん動かされ、涙、涙の二時間半だった。一本めにみた映画がすごくよかったからオールナイト上映はとりやめて、劇中でつかわれていた歌を延々と聞いたり、監督のインタビュー記事を読んだりしながら、眠るまで余韻に浸った。
朝起きてからも後悔のない、よい夜になった。
またいつか(きっとそれは近いうちに訪れるであろう)からからかわいたさびしさの巣食う夜に備えて、わたしはこの「キャラメルアンドシーソルト」のポップコーンを常備することに決めた。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
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