【スタッフコラム】さて、孤独の先には
編集スタッフ 齋藤
小説や批評など多方面で活躍され、今年のはじめに他界された橋本治(はしもとおさむ)さん。この方の「人はなぜ『美しい』がわかるのか」という本の最後に「あとがきのようなおまけ」という章があります。そこに書かれているのは「孤独」について。私にとっては生まれた時からある言葉なので特に気にしたこともなかったのですが、孤独というのは歴史的にみると、つい最近生まれたもので、近代の発明だそうです。
はじめて読んだ時は「はて?」となったのですが、掻い摘んで説明しますと、前近代は「個人」という単位がそもそもなく、一人になることは例えば「一家」などのたくさんの人で成り立っている単位から「はずれてしまった状態」でしかなかった。(当時は身分社会なので、厳密にいえば下の身分に落ちたということです)
けれど近代になって「一家」ではなく「個人」から成る社会にしようという動きになり、一人になることが「集団からはずれてしまった状態」ではなく「孤独」として認識されるようになったという内容です。
なるほど孤独とは、個人として生くために必要なものなのか。「SNSが普及した現在、孤独でいることができないと、自分を見失いがちになってしまうのでは」と誰かに言われれば、流されるまま生きている私としてはこれまた確かにそうかもしれないと思ってしまう。
けれど私は、一人の時間は欲しいけれど、孤独ってはっきり言って好きではないなぁというのが正直なところです。だって、なんだかつらそうだし、苦しそうではないですか。かのブッタも苦行に意味はないと言っていたし、苦しいのなんて嫌です。
嫌なので、まずは孤独のことをもっと理解しようと思いさらに読み進めると、橋本治さんの本にはこうありました。
本来「孤独」とは「自立へのプロセス」である。けれどその前提が忘れられてしまっていると。
卒業や転職や一人暮らし、人生の節目に立ったときに感じたことがある孤独という状態。それまで何の違和感もなく過ごしていた場所から、ある日離れなければならなくなっていた。大きなきっかけがあるわけではなくとも、地続きの日常の中でその瞬間はやってきます。気づいてしまったときの、心にうっすらと霜が降りたような冷たさといったら。
こわばった体を感じれば感じるほどに、このまま時間が止まれば良いのにと、真昼間からベッドにもぐり込んで幼かった頃の私は何度思ったことでしょう。
とある心理学者の方の著作の中にも、「人は不安であることよりも、不幸であることを選んでしまいがちだ」という内容があったことが思い出されます。つまり例え現状が不幸だとしても、先行きのわからない不安と比べたら、人は不幸を選んだ方がましという心理状態になるとのこと。
もちろん個人差はあるので、「私は不幸だったらすぐにでも行動する!」という気丈な方もいるとは思います。でも私はこの感覚、とてもよくわかるのです。
何が起こるのかわからないのが、いちばんこわい。どこに行ってしまうのかわからないのが、いちばんこわい。
そのこわさに比べたら、たとえ現状が不幸でも、少なくとも何が起こるのかわかる「今」が良い。けれど私がどれだけこわがって尻込みしたところで、現実は勝手に進んできます。たんたんと。容赦もなく。なんてことでしょう。
明確に目標さえあれば、この状態はつかの間だと思ってやり過ごせるけれど、人生はそんなわかりやすい場面ばかりとはかぎりません。
だから孤独は、私にとって常に人生の節目の不安な感情とともにあり、どうあっても好きにはなれそうもない。けれども橋本さんのいう通り、これがただのプロセスなのだとすれば、希望が持てる気がするのです。
まず、あくまでプロセスなのだから、全員がその道をいく必要はないということ。嫌であれば別のルートを探せば良い。そしてまた、自立へのプロセスなのだとしたら、目標は明らかですし、今現在の孤独に意味を見出すことができる。砂漠に立った一本の旗のように、とりあえずそれを目印にすれば良いのだと思える。
会社が決まっていなくとも、学校が決まっていなくとも、なんだかひとつ自分の中に、芯を獲得できたような気がしてくる。そうなった途端に、私は不安が薄まるように思うのです。
私自身は、まだまだ強くなんてなれそうにありません。自立もしてるんだかしてないんだか、よくわからない。
でも、「孤独」への捉え方が変わっただけで、なんだかちょっと気が楽になったように感じたのでした。
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