【ケの日のこと|最終話】ケの日も、捨てたもんじゃない。
「家族と一年誌『家族』」編集長 中村暁野
第42話:ケの日は捨てたものじゃない
里山で暮らして3年目。いくらでも並ぶお店のどこかに気が向いた時にふらりと入ってお茶をする、なんてことはできなくなってしまったけれど、数軒あるお気に入りのお店はみーんな顔なじみで、車をちょっと走らせ訪れたなら、心地よい会話が交わせる、そんな暮らしも気に入っています。
先日、お気に入りのお店が一つ、新たに加わりました。地域の果物や野菜を使い、素材にこだわった手作りアイスをメインに出すカフェがオープンしたのです。アイス好きの我が家全員大喜び……! そして、このお店は、友人がつくったお店でもあるのです。
わたしたちが引っ越してきた時、同時に近所に越してきた、ある家族がいました。小さな子どもが2人。共通点もたくさんあったその家族のお母さんとはすぐに仲良くなって、彼女は「アイスを出すお店をやりたい」と夢を話してくれました。
「経験があるわけじゃないけどやりたいんだ」と言っていた……と思ったら、あれよあれよという間に地域の生産者さんと繋がり、その季節にしか作れないアイスを作り、それを食べたみんなが応援するようになって。古い小さな家を紹介された彼女は、協力してくれる人の力を借りつつ、自ら改装。「お店をやりたい」と話してくれた日から2年ちょっと経った先日、ほんとうにお店がオープンしたのでした。
お店でおいしいおいしいアイスを食べながら、じんわり感動していました。そして彼女の姿に、わたしもたくさん力をもらった2年だったなあと思うのです。
思えば、ここに越してきた頃、わたしは文章を書きたくて、でも自信がなくて、どーにもこーにも悶々としていました。すでに面白い話や読みものをかける人はたくさんいて、誰に求められているわけでもなくて、それなのに「文章を書きたいんです」と言うのはとっても怖かったのです。それでも、ほんの一歩を踏み出せたら、きっと今より自分を好きになれる。やりたいことをやって、自分を今より好きになりたい、という思いは消えませんでした。近くでどんどん動いていく彼女の姿も、動き出すことを怖れるなァ!とわたしの背中を押してくれていたように思います。
そしてそんなわたしの最初の “書く仕事” がこの「ケの日のこと」でした。このエッセイを書くことで、言葉にすることで、自分の生活の中にある、ささやかだけどとても大事なものたちに改めて気付けた日々だったような気がしています。
実は「ケの日のこと」は今回が最終回となります。
日常はたんたんと続いていくようで、その「たんたん」の中にはキュッとなったりグッときたりするものがたくさんあるんだなあ。そんな日々の中で見つけたキュッやらグッやらを、これからも言葉にしていきたいな、と思っています。もしわたしの綴る日常がほんの少しでも、読んでくださる方の日々のキュッやらグッやらと重なり合うことがあったなら。変えられないことはたくさんある。でも、自分の手で変えられることだってたくさんある。わたしたちの「ケの日」はぜんぜん、捨てたものじゃないですよね。
またどこかでお目にかかれますように!
MOMO icecream
住所:山梨県上野原市上野原3241
営業時間:毎週木・金 11:00〜16:00
Instagram: @_momoicecream_
【写真】中村暁野
中村暁野(なかむら あきの)
家族と一年誌『家族』編集長。Popoyansのnon名義で音楽活動も行う。8歳の長女、2歳の長男を育てる二児の母。2017年3月に一家で神奈川県と山梨県の山間の町へ移住した。『家族』2号が1/14に刊行。現在販売中。http://kazoku-magazine.com
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