【スタッフコラム】私のなかの、一番古い記憶。
編集スタッフ 岡本
時間の流れは常に一定のはずなのに、育休から仕事復帰したここ最近は、もしかして今、高速モードになってるんじゃない?と思うときがあります。
そんな忙しない毎日ですが、息子が初めて桃を食べたときのびっくりした顔とか、紫陽花をちょんちょんと触るのが日課だった保育園の帰り道とか、忘れたくないと思う瞬間がたくさんあります。そう思うのとは裏腹に、こんなに小さいうちのことなんてきっと大きくなったら覚えていないだろうなと、切なくなることも。
さて、自分はどうだろう。会社からの帰り道、電車のなかで思い返してみると、私の一番古い記憶は、たぶん0歳のときでした。
保育園のベビーベッドに寝ている私を、先生が抱き上げようと手を伸ばしている光景を覚えているんです。写真に残っているよく知る先生ではないけれど、ウェーブのかかった髪やすこし微笑んでいる表情まで、うっすらと覚えています。
我ながら、0歳の頃のことを覚えているなんてすごいと思ったけれど、他の出来事は何も思い出せません。最寄りの駅に着くまでにはまだあったので、もう少し古い記憶を探ってみると、懐かしいあんなことやこんなことが蘇ってきました。
4歳くらいの私が、台所に立つ母を廊下から見ています。母はかぼちゃを切ろうとしていて、右手で包丁を握り、左手を包丁の背に当てて体重をかけていました。
今でこそ、包丁の背は鋭くないこと、かぼちゃはとても硬いから両手で力を入れないと切れないことを知っているけれど、その時の私はとても驚いたんです。
「お母さんの手が!真っ二つに切れちゃう!」と。
その衝撃とともに、脳裏にはっきりとその光景が刻まれています。おそらく「やめてー!」と言ったあと、母が?な顔をして、大丈夫よと説明してくれたのだろうけれど、衝撃のあとのことは覚えていません。
他にも、小学生の時。
ふだんお酒を飲まない父が珍しく酔っ払って帰ってきたことを、宿題だった日記に書き、クラスのみんなの前で発表してしまったこと。
毎年スキーをしに行っていた山に、夏訪れた時。
いつもある雪の代わりにふさふさの芝生がはえていて、白じゃなくて緑だ……と驚いたこと。
どれもとても些細で、ちょっと可笑しいエピソードを思い出していくうち、一人で電車に乗っていることも忘れてふふっとにやけてしまいました。
どうしてこんなこと覚えているんだろう。旅行とか、誕生日会とか、もっと大きな行事もあったはずなのに。でも思い出すのは当たり前に続いていた日常の一瞬や、いつもそばにいた人の一言でした。
いま、忙しくて駆け抜けるように過ごしている毎日だけど、この子にとっては何十年後かに思い出すような瞬間なのかもしれない。
そんなふうに思いながら最寄駅のホームに降りると、夏の鋭い日差しに照らされて、思い出にとっぷり浸かった頭が現実に引き戻されました。
駅から小走りで10分。ふだんは帰宅後のご飯やお風呂がスムーズでありますようにと願う道を、なんとなく足取りも気持ちも軽く歩きます。
手のかけた料理は作れないし、息子の寝顔を見るより先に寝落ちしちゃうような母だけど、ふと思い出したそのときに、にやけてしまうような日々であるならば、それもまたよしと思えたのでした。
▲一丁前に足を組んでベビーカーに乗る姿にいつも笑ってしまいます。
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