【金曜エッセイ】ルーズな自分でも、これだけは習慣にできた「5つのマイルール」
文筆家 大平一枝
第六十三話:在宅仕事、ルーズな自分対策
最近、在宅勤務を始めた会社員のご近所友だちがこう嘆いた。
「家のダイニングテーブルだと、朝食後仕事にとりかかったと思ったらすぐ昼食の用意で、落ち着いて仕事ができない。結局、たてこんでくると会社に行ってしまう」
高校3年の次男が休校により、自宅で受験勉強をしているので、食事の準備が意外に大変らしい。
また、大学生の息子がいる別の編集者の友だちは、途中でお互いに負担になり、ひとつ屋根の下だが昼食は別々に、と決めてから楽になったと言っていた。
そうか、それぞれにみな試行錯誤をしながら新しい働き方、暮らし方を模索しているのだなと知る。
考えてみたら、私はフリーランスライターとして25年来の在宅勤務である。彼女たちの話を聞いて、自分が無意識のうちに積み上げてきた在宅勤務のルールや、小さな工夫の存在に気づいた。たとえば次のようなことだ。
(ルール1)昼食は朝作る
一旦仕事モードに切り替わると、意識を生活モードに戻すのに時間がかかる。また料理や洗濯物干しなどの家事には、仕事とは全く違った集中力と思考回路が必要。昼食は、朝食作りのときか、朝食の片付けとともに作っておく。昼は食べるだけに専念。脳を休める。
(ルール2)休憩はソファに座らない
しっかりくつろいだり、神経を緩めると、再び仕事脳に戻すのにもまた時間がかかる。短い昼寝は有効だが、できるだけ、“つかの間”の休息に。私はソファに座らず、2980円で買った折りたたみ式ビーチベッドを愛用していたことも。寝にくいので長く眠れないところが、よいのである。
(ルール3)ピアスを付ける
部屋着から仕事着に替えるのは、多くの人がやっているかと思う。さらに誰にも会わないとわかっていても、ピアスやリングをすると、気持ちが上がる。
些細なアクセサリーだが、外仕事と同じようにちゃんとおしゃれをして、自分に手を抜かない(メイクまでがんばれないけれど)ことで、気持ちの切り替えができる。
身繕いは、自分を整える作業のひとつ。ひとり職場はこの作業がおざなりになりがち。
(ルール4)家事を切り替えに利用
皿洗いが、始業の合図。流水の音を聴きながら、徐々に仕事モードに切り替えていく。きゅっと蛇口を止めたとき、さあやるぞとなる。私だけかも知れないが、流水の音を聞いていると浄化される感覚がある。”母親時間”をきれいに洗い流し、ライターの時間に入る前の大事な儀式だ。
(ルール5)机上をゼロに戻す
終業後は、たとえ明日使う小さな書類でも文具でも、机上に置きっぱなしにしない。全てを片付け、気持ちに区切りをつける。きれいになった机上は、達成感をもたらす。
それにしても、書き出したら案外きりがないものだ。
夏休みの宿題は最終日にしかやらず、約束や時間にルーズだった私が、長年あちこちに頭をぶつけ、失敗をくりかえしながらなんとかたどり着いた現時点での、ルーズな自分に負けないためのマイルール。ひとり職場は誰も褒めてくれないので、書きながら、けっこうがんばったじゃんと自分で自分をねぎらった。期せずして、試行錯誤の日々を振り返る機会になった。
よし、今日のご褒美は近所のアンテナショップで買った網走の地ビールにしよう。あ、この小さなご褒美も大切です。
文筆家 大平一枝
作家、エッセイスト。長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。
大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com
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