【スタッフコラム】文旦が好きな理由

編集スタッフ 野村

毎年、2月から3月くらいの時期になると、実家から文旦が送られてきます。

文旦は、分厚い黄色い皮と、独特の酸味と苦味が特徴の柑橘系の果物。実家では、毎年文旦の栽培・販売をしていて、市場に出さずに余ったものの一部は僕の元へも送ってくれます。

実は、実家で暮らしていた頃は、ほろ苦い味わいの文旦があまり好きではありませんでした。皮も分厚くて剥きにくいし、苦労して剥いてもあまり美味しく感じられないし、と食卓に出てきても食べるのを避けていました。

それから実家を離れ、ひとり暮らしを始めて数年が経った頃、父から「お前はいらないかもしれないけれど、ちょっと余っているから文旦をそちらへ送ろうか?」と連絡が。

その時はなんとなく「久しぶりに食べてみたいかも」と思い、送ってほしいと返事をしました。

数日後、文旦のイラストが描かれた緑色のダンボールが届き、中を開けてみると、文旦がぎっしり詰められていて、それと同時にすっきりする柑橘のさわやかな匂いが部屋にも充満。田舎だと嗅ぎ慣れていた柑橘の匂いがとても新鮮に感じられて、文旦のことをあまり好きではなかったはずの当時の自分は、なんだかその匂いだけで少しワクワクしていました。

数年ぶりに食べてみた文旦は、酸味とほろ苦さがクセになって美味しいし、皮を手間かけて剥く時間も、そのことに集中できるからなんだか落ち着く時間になっていいかも、と感じるように。

そしてその時届いた文旦の箱には、初めて文旦を買ってくれたお客さん向けに、父と母がいつも付けている「文旦の召し上がり方」と「文旦マーマレードの作り方」が書いてある、ちょっとした案内紙も同封されていました。

文旦が手元に届いた人たちにより美味しく食べてもらえるようにと同封しているこの紙に、「独りよがり気味なお前は、もっと相手の側に立って日々を過ごすことが大事なんだぞ」と諭されたような気がし、そんなことも今は文旦が好きな理由のひとつです。

毎年文旦が送られてくると、その時のことを思い出して少し背中がシャキッとします。

ちなみに今年送られてきた文旦の箱にも、なぜかその案内紙が入っていたので、紙に向かって「思いやりの気持ちを大事に、日々精進いたします」と宣言し、実家の味を楽しんでいるこの頃です。


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