【ベランダが好き】第1話:植物を世話する。プロのようにではなく、私らしいやり方で
ライター 片田理恵
ここ数年、ベランダで過ごす時間が増えました。椅子とテーブルを出してお茶を飲んだり、小さなテントを置いて子どもの秘密基地を作ったり、空を見上げながら友達と電話をしたり。
家の内と外とがゆるやかにつながる空間だからこそ、いつもの日々と同じように、でもほんの少し新鮮な気持ちでいられるような気がします。そんな時間の過ごし方に名前をつけるなら、やっぱり「あそぶ」という言葉がぴったり。
そんなベランダあそびが上手な人を頭に思い描いた時、ぱっと浮かんだのがイラストレーターの谷山彩子さんでした。元気よく枝葉を伸ばした鉢植えが並ぶ日当たりのいいベランダで、植物の世話をする時間が大好きという谷山さん。いつものあそび方、いつもの楽しみ方を教えてもらう全3話のおしゃべりです。
植物があるといいなと思ったけれど……
谷山さんが夫とともに暮らすのは、購入して20年になるマンション。集合住宅にはめずらしく、どの部屋にも窓がある独立したつくりで、風通しのよさが気に入っています。
ベランダはリビングとキッチンに面したL字型で、たっぷりとしたスペースにはたくさんの鉢植え。谷山さんが「一年で一番いい季節」という五月の連休明け、ご自宅に取材に伺いました。
谷山さん:
「今でこそベランダで植物の世話をするのは大好きですけど、もともと園芸好きかっていうと、全然そんなことはありませんでした。
植物があるといいなと思っていた程度で、自分で手を動かしたい気持ちはそんなになかった。だからマンションを買った当時は、プロの方にお願いしてベランダに好みの庭を作ってもらったんですよ。植物だけ自分たちで選んで、植え込みのある本格的なルーフテラスに仕上げてもらいました。
すてきな仕上がりで気に入っていたんですけど、でも今思えば、分不相応に風呂敷を広げすぎたのね。植物の世話が追いつかなくてダメにしてしまったんです。
ちょうど当時飼っていた猫の闘病と重なって、ベランダにはあんまり構ってあげられなかった。このままにしておくのもしのびないからと、やむなくすべて撤去したんです」
オリーブの木から始まったベランダ作り
その後、さっぱりと何もなくなったベランダを眺めていると、ふとあることに気づきました。
それは「今、風が吹いているのかどうかわからない」ということ。
そよぐ葉のない景色からは小さな変化や季節感が感じられず、谷山さんはそのことがとてもショックだったそうです。
谷山さん:
「だからもう一度始めることにしたんです。今度は無理せず、自分たちにできる範囲でゆっくりやろうって。
猫を見送ってその葬儀を済ませた帰り道、ふと目に止まったオリーブの木の苗を買いました。それが、私の最初のひと鉢かな。
前のベランダに植えていた植物も少しは株を残してあったんだけど、気持ちの上でのリスタートはオリーブ。そこから始めて本当に少しずつ、3年ほどかけて今の状態になったんです」
ちゃんと面倒を見たら、ちゃんと元気になる
前のベランダから引き継いだというローズマリーも、今や見違えるように元気になりました。
インターネットで園芸サイトやブログを見ながら、大きくなりすぎて伸び放題だった枝葉を剪定し、土から株を引き抜いて、伸びすぎた根っこもハサミでカット。
正解がよくわからないままおそるおそるトライしたと笑う谷山さんですが、その「やってみる」経験の積み重ねが、ベランダあそびを楽しむ大きな力になったようです。
谷山さん:
「根っこを抜くなんて、最初は抵抗があるでしょう? え、本当にこれでいいの?って。
でもやっぱりね、その環境での一番いい形っていうのがあるんです。大きければいい、伸びたいように伸びればいいってわけじゃなくて、鉢の大きさとか、土の量とか、その植物にとって、その場所にとってのちょうどいいバランスがある。
うちのローズマリーは、小さくすることですごく生き生きして状態がよくなりました。
ちゃんと面倒を見たらちゃんと元気になる。コミュニケーションが取れるんだとわかってから、本当におもしろくなったような気がします」
2022年、春のベランダ事情
谷山さんが今春、ベランダに新たに迎えたのが「オカワカメ」。グリーンカーテンのようになると聞いて探していたところ、八百屋の店先で見つけて購入しました。
取材日に植えようと準備してくださっていたものの、あまりに元気よく伸びるのでつい植えてしまったのよ、と愉快そうに教えてくれます。
谷山さん:
「春はベランダあそびに一番熱心になる季節なんです。
苗を買って植えるほかにも、大きくなった株を別の鉢に植え替えたり、場合によっては株分けをしたり、種を取っておいたものは小さな植木鉢に植えて発芽を促したり。
去年植えたものが知らないうちに種を落としていてまた芽が出ることもあるし、鳥や虫が運んでくるのか、全く身に覚えのない植物の芽が出ているなんてこともあるんですよ」
春にせっせと植えた植物に、夏中水をやって世話をし、秋に収穫。その後土の手入れをして冬を越し、また次の春に備える。
そんな一年のサイクルが心地よく体と暮らしになじんでいる谷山さんの、なんとも楽しそうなこと!
憧れをあきらめない。私なりの形を探して
植物とともにある暮らしって、やっぱりすてき。谷山さんにお話を伺って、そんなふうに感じました。
初心者にはハードルが高いと思いがちな園芸も、こうやって失敗のお話も聞かせてくださる先輩がいると本当に心強いもの。そのおかげで憧れをあきらめずにいられるし、私には私なりの形があるのかもしれないと思えてくるのが不思議です。
明日の第2話では、1日のうちどれくらいの時間をベランダで過ごしているのか、そんな具体的なおしゃべりをたっぷり公開。おすすめグッズやお世話ルーティンなども伺います。
(つづく)
【写真】メグミ
もくじ
谷山 彩子
イラストレーター。東京都出身。セツ・モードセミナー卒業。HBギャラリー勤務を経 て、フリーのイラストレーターに。雑誌・書籍の挿画や広告の分野で幅広く活躍。近著 に『文様えほん』『十二支えほん』(共にあすなろ書房)があ る。https://www.taniyama3.com/
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