【おしゃれな人】前編:1cm単位で丈合わせ。手紙を書くように、一人ひとりに服を届ける(関れいみさん)

ライター 瀬谷薫子

それはひと目惚れでした。爽やかなブルーに、凛としたシルエット。いつもなら躊躇するだろう明るい色合いも、肩の出る思い切ったデザインもかまわず「この服が着てみたい」と思う、そんな風に服を選んだのは久しぶりのことでした。

神奈川・逗子にアトリエを構える「&her(アンドハー)」は、関とおるさん、れいみさん夫妻が手がけるレディースブランド。

オンラインでの販売をメインに、シーズンごとに全国での展示会を実施。シンプルな中に個性の光るデザインは、逗子をはじめ都内、全国にファンを増やしています。

&herがユニークな理由はいくつかあります。ボトムスやワンピースは受注生産。さらに着る人の身長に合わせ、1着ずつ着丈を合わせるセミオーダーであること。

丁寧な服作りをしつつ、多いときには月に15もの新作をリリースするペースも。次々に発信される新しいアイテムは、眺めているだけで、おしゃれをしたい気持ちを掻き立てます。

心動かす服を生み出すのは、いったいどんな方なのか。今回はディレクターの関れいみさんに前後編でお話を聞きます。

 

大量生産の逆をいく。作り手にも買い手にも「気持ちのいい」服作り

▲服作りの全てを手掛けるのが、夫のとおるさん(右)。ブランドのイメージや方向性を決めるディレクターが、妻のれいみさん(左)。

ブランドができたのは7年前。大手アパレル企業で働いていた関さん夫妻が、東京から逗子へ越し、独立を機に立ち上げました。

当初から軸にしているのが、受注生産のスタイル。ロスを生まない服作りは、長く服の現場で働いてきたからこそ叶えたかったことです。

関さん:
「当時のファッション業界では、大量生産を前提にした服作りが主流でした。たくさんの服を売り切るために、セールを見越して価格を決め、売れ残れば廃棄が当たり前。

自分たちでブランドを作るなら、それとは反対のやり方を選びたいと。作り手の私たちにとっても、届けるお客さまにとっても、気持ちいいと感じられる服が作りたかったんです」

コンセプトにしたのは、サステナブルな服作り。ブランドの名を「&her」(彼女と)と名付けたのも、1人ひとりに寄り添う服を届けていきたいという思いからです。

 

おしゃれに年齢は関係ない。教えてくれたのはお客さまでした

▲服のパターンから縫製、仕上げまで全ての工程を夫のとおるさんが手がけるのも、&herの強みです

立ち上げた当初は、自分たちと同じ30〜40代の女性向けのブランドをイメージしていました。でも蓋を開けてみれば、20代から60代まで、幅広い層が手に取るように。次第に関さん自身のおしゃれの価値観も変わっていきます。

関さん:
『印象的だったのは、自分よりひと回り以上年上のお客さまが、若者向けブランドの服を着て展示会にいらしたこと。それがすごく似合っていて、おしゃれだったんです。

ひと昔前はファッション誌の価値観が主流で、自分と同じか少し上の世代に憧れておしゃれをすることが多かったように思います。でも今はSNSの影響で、幅広い世代のおしゃれが目に入ってきますよね。すると年上の女性が、若い子のファッションを参考にすることもある。お客さまの方が先に、年齢の枠を飛び越えているのは、新鮮な気づきでした。

ならばブランドとしても、特定の世代に向けてではなく、幅広い世代に寄り添うものが作りたいと思ったんです」

 

手紙を書くように、ひとりひとりに届ける服

以来意識するようになったのは、年齢を問わずに着られるシンプルなデザイン。その中で、ディテールに個性や遊び心を凝らした一着。

加えて、着る人に合わせて1cm単位で着丈を調整するセミオーダーメイドの仕組みも、幅広い層に愛される理由になりました。

関さん:
「特に高身長や低身長のお客さまには、今までなかなかぴったりの丈の服に出合えていなかったという方も多く、喜んで頂いています。

私たちが何より大事に考えているのは、そんなホスピタリティ。友人のように近い距離で悩みを聞き、提案できる関係性は、小規模のブランドだから実現できることです」

▲アトリエには、お客さまの着丈が記載された服がずらり。1着1着、手作業で丈を合わせ、作られていく

オンラインショップでは、購入した方一人ひとりに、直筆の手紙を同封しています。顔は見えずともそれをきっかけに関係が始まり、長く利用してくださる方も多いとか。

ひと月に8〜10という異例のペースで新作を生み出す理由も実は、お客さまに寄り添いたい気持ちから。カジュアル派からモード派まで、さまざまなテイストの方がいる中で、それぞれにおすすめしたい新作を考えるうち、作りたい服が増えていくのです。

関さん:
「ひとつリリースするたびに、合わせてこんなボトムスが提案できたら喜んでもらえるかな、と議論が生まれ、すぐに次の提案が始まります。本当はもう少し数を減らせたら楽なのですが、つい作りたくなってしまって。

夫婦でやっているので、そんな会話が四六時中、家でもずっと続いています。要するに、二人とも服が好きなんですよね」

 

「155cmのおしゃれ」が、服作りの原点に

生まれてくるアイデアをもとに、服を作るのが旦那さん。そして、それを着て感じたことをフィードバックするのが関さん。そこには身長155cmと小柄な彼女がおしゃれと向き合いながら集めてきた、たくさんの気づきが生かされています。

関さん
「心地のいい服を作りたいと思っています。それは着心地の意味だけでなく、気持ちの面でも。それを着る自分に胸を張っていられることは、おしゃれの大切な要素だと思うからです」

関さん:
「その上で重視しているのは、1着の中にあるメリハリです。リネンのワンピースなら、裾にかけてのラインは女性らしくふんわり、肩周りはすっきりタイトに。ベーシックなカーディガンなら、身幅はゆったりさせつつも、着丈を短くして、垢抜けた印象に。

イメージは、『都会と自然を行き来する女性』。背筋を伸ばした自分と、リラックスする自分。どちらも包めるような服を作りたいと考えています」

▲インタビューは、今年逗子に建てられたご自宅で。窓の外には雄大な緑が広がりました

日々、議論を重ねながら作られていく服。誰に向けて、どんなデザインにしたいのか。妥協せず、ブレずに考えて行くことは、時にしんどい作業だと言います。

でも、だからそれは届く。あのワンピースをひと目見て手に取りたくなったのは、それが自分のための一着だと思えるような、考え尽くされた魅力に満ちているからなのだと感じました。

後編では、そんな関さん自身のおしゃれ、服との向き合い方についてお話を聞きます。

 

【撮影】吉田周平


もくじ

 

関 れいみ

セミオーダーを中心に、ひとりひとりに寄り添える服を提案するレディースブランド「&her」を主宰。着心地がよくリラックス感がありながら、美しさと女性らしさが息づくスタイルを提案する。神奈川・逗子にアトリエを構え、不定期にオープン。@and__her / @reimiseki 


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