【手をかける住まい】後編:収納も家具も手作り。賃貸でも、今の暮らしに惜しみなく手をかけていたい
ライター 瀬谷薫子
日本各地の手仕事やものづくりを取材する、編集者の長野宏美さん。住まいには、全国を旅して集めてきた、大切な暮らしの道具が詰まっています。
前編では、彼女がものを選ぶ視点のこと、お子さんが生まれてからの暮らしについて伺いました。つづく後編では、賃貸のマンションに暮らしながら、好みのインテリアを作り上げていく工夫を聞きます。
真っ白だったインテリアに、床と壁で個性を足して
今の家に越したのは1年前。結婚を機に、お互いのなじみのエリアだったこの町で新居を探しました。
引越した当初のこの部屋は、白い壁に木のフローリングの、いわゆるベーシックな賃貸のインテリア。けれどそこから床を張り、壁を張り、家具や扉を作って……今の空間をひとつずつ、自分たちの手で作り変えてきたといいます。
長野さん:
「一人暮らしの頃に住んでいた部屋は、リノベーション済みのデザイナーズ物件。すでに世界観ができあがっていて、あとは自分の家具をおさめれば、雰囲気のよいインテリアができていました。
対してこの家は、本当にシンプルな内装。ここに自分たちの持ち物をなじませていくには、まずは部屋の雰囲気を作っていこうと。夫とコンセプトを話し合うことからはじめました」
イメージしたのは、シンプルでモダンなミッドセンチュリーのインテリア。そのためにまず手をつけたのが、壁と床。
フローリングには薄いマスキングテープを貼り、その上に両面テープ、メーカーから取り寄せたフロアタイルを貼って一新。同様に壁にも板を貼り、一面を木仕様に。これだけで、部屋の印象ががらりと変わりました。
長野さん:
「わが家は賃貸なので、現状復帰できるようなDIYが前提にあります。できることは限られますが、最近ではSNSやYouTubeでもさまざまなアイデアがシェアされいて、初心者でも試しやすいものも多いです。
新品らしすぎない、経年を感じさせる板材など、今はホームセンターにさまざまな質感の材が売られていますし、DIYなら自分たち好みの色や風合いを加えることもできます」
キッチンの収納扉も、元は吊り戸棚と同じ木の素材。その上から、黒い壁紙を貼ることで、全体を引き締めました。
長野さん:
「キッチンは自分にとって落ち着く空間にしたかったので、木の風合いだけではナチュラルな雰囲気になりすぎてしまうと、あえて下半分は黒に。置いてある家電も黒いものが多いので、統一感を出しました」
足りない収納は、扉を作って拡張する
リビングの隣には、夫婦の仕事部屋が。その奥にある大きな扉も、実は手作りのもの。奥には広い収納スペースがあり、季節ものの家電や衣類など、普段は使わない大きなものがしまわれています。
長野さん:
「この部屋はもともと和室で、奥は押し入れのあったスペースです。ただその扉が味気なかったことと、押し入れの容量よりも、もう少し収納を拡張したかったので、もう一歩手前の位置に壁と扉を取り付けました。
▲備え付けのエアコンの位置を避けて新たに壁を作り、扉を設置。部屋に新しい仕切りを作った
重厚に見える扉はじつはごくシンプルな作りで、ホームセンターで購入した木板をカットし、籐素材のシートを貼ったもの。
障子のように薄くて軽く、頑丈な扉ではありませんが、その分手軽に作れ、部屋の間仕切りに適しています。
リビングの一角にある壁付の収納棚も手作り。ニトリのカラーボックスを連結して、ステンレスの脚をつけ、上側面にタイルを貼りました。
個性的な家具作りの着想は、街のインテリアショップやギャラリーから得ることも多いといいます。
長野さん:
「この棚は、行きつけのお店にあったディスプレイ棚を参考にしました。素敵だなと目に留まり、これと似た雰囲気でわが家に置くならどんなものがいいだろうと話し合いながら、イメージを固めていきました」
いいなと思ったものを、自宅に置くならどんな形が最適解だろう、とより深く突き詰めていくのが長野さん夫婦らしさ。話し合いを重ね、解像度を高めていくからこそ、「いいな」の先にある、長野さんの家によりフィットした家具が生まれます。
▲細長いコードレス掃除機や配線コードなどの収納に活用
長野さん:
「抜け感を出すために棚には脚をつけて、レコードがちょうどよく収納できる高さに。引き出しの中にはコード用の穴を開け、出しっぱなしになりがちな配線コードの収納場所としても活用しています。
こうして収納したいものに合わせてぴったりにあつらえられるのは、やはり手作りならではの醍醐味です」
「一緒につくる」過程こそ、DIYの楽しみ
▲部屋の中心にあるレコード棚は、一人暮らしをしていた頃、週末のたびに旦那さんと少しずつ完成させた思い出の家具
長野さん:
「夫は素敵なものに出合うと『こうやれば作れるかもしれない』と言うんです。はじめはなんでも作ろうとする発想に驚きましたし、自分ひとりだったら面倒だからとあきらめていただろうと思います。
ただ、作り始めるとすごく楽しいことに気づいて。ああでもない、こうでもないと二人で話し合いながら手を動かす時間は、お互いが何を感じ、良いと思っているかを共有する機会にもなるんです。
DIYは出来上がったものだけじゃなく、その過程に魅力があるんだと知りました」
リビングには壁掛けの大きな作品があり、これも手作り。ウィンドウショッピングで見かけた絵にひとめぼれして、二人で再現したものです。
長野さん:
「立体的なタッチで描かれていて、どうやったらこうなるんだろうと。調べてみると、塗料と重曹を混ぜれば作れることがわかりました。色付けは茶色をベースにして、途中でちょっとグレーを足してみたり、塗りすぎれば白を足して戻したり。
いいと感じた部分を言語化して、お互いが壁打ち相手になりながら、ひとつのものを作っていく作業は楽しいですね」
部屋の家具の多くが手作りであることは、理想のものを追求するためだけではない、夫婦の絆の象徴なのかもしれません。
手を動かしてみることが、暮らしに彩りをくれる
DIYだけでなく、長野さんの日常は「やってみる」楽しみにあふれています。
お茶の趣味が高じて、少しずつ集めてきた茶器。最近は自分でブレンドしたお茶を淹れたりと、ひとやすみの気分転換にしているそう。
料理が好きで、一時はスパイスカレーにはまって作り込んだというエピソードも。ここ1年は、妊娠をきっかけに甘いものが好きになり、手作りのおやつをキッチンで仕込むのがささやかな楽しみ。
興味のあることは、まず自分の手でやってみる。その好奇心が暮らしを彩っているように感じます。
▲手作りのおやつは、夜、夫婦でお茶を飲むきっかけに。その日にあった出来事や、日々感じたことを話す時間を大切にしている
長野さん:
「昔から、なんでも突き詰めてみたくなる性格でした。子どもの頃、時計やラジオがどうやってできているんだろうと気になって、すべて分解してみたことも。
まずは手を動かして、自分で確かめてみたくなるところは、ずっと変わらないのかもしれません」
賃貸でも、今の住まいに惜しみなく手をかけたい
時間をかけ、手をかける。長野さんの暮らしには、効率や時短とは反対の軸があって、それが暮らしの楽しみに繋がっていることを感じます。
住み始めて1年、少しずつ手を入れて理想の形に近づいてきた今の住まい。それでもここは賃貸で、 “終のすみか” ではありません。
その中でどれだけの時間と手間をかけて、暮らしに向き合っていくかは悩むところ。けれど長野さんはきっぱりと「惜しみなく」と話します。
長野さん:
「子どもが大きくなるにつれ、引越しを検討する日がくると思います。こうして作ってきた家具たちも、いつかは解体しなければならないかもしれません。
それでも、たとえばここに5、6年暮らしていくとしたら、少なくとも今の自分たちが幸せに、心地よく過ごすための空間づくりには惜しみなく時間をかけたいと思っています。
家にいる時間って、人生の中でも一番長いもの。できるだけ自分たちがいいなと思える場所で過ごせるように、やれることがあるなら、やらないよりもやった方が楽しいと、シンプルに考えています」
5年後、10年後にどう暮らしているのか。賃貸や持ち家に関わらず、その不確かさは変わりません。
それでも、未来は今を積み重ねた先にあるもの。いつかのことを思うより、「今の暮らし」に誠実に向き合っていくことが、自分らしい住まいづくりの根本にあるのだと、長野さんのお話から改めて考えました。
10年後のお二人の住まいはどんな空間なのか。考えながら手をかけられていくのだろうそのお家もいつか、訪ねてみたくなりました。
【写真】上原未嗣
もくじ
長野宏美
編集者。日用品から住まい、街づくりまで。企業やブランドの「らしさ」を伝えるためのサポートを行う。日本各地のものづくりや、暮らしにまつわる取材と執筆、PRなども手掛ける。Instagram:@hrm_ngn。
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