【いい眺めの暮らし】前編:なんてことのない暮らしの中に、よく見ると "いい風景” がある。
10年前、まだインスタグラムを始めて間もない頃から眺めていた暮らしがあります。
そこに載るのは、日常の風景。たとえば朝の食卓に並ぶ、ちょっぴり焦げたトースト。西陽の差す台所。豆皿にのった小さなおかず。
素朴で飾らない日々の写真には、暮らしを愛しいと思えるような、いい眺めが詰まっていました。
暮らしの持ち主は、榎本絵里(えのもと えり)さん。今は東京郊外の団地に、夫と2人で住んでいます。
訪ねたのは初夏の暑い日。団地を5階までのぼると、ドアを開け笑顔で迎えてくれた榎本さん。リビングで真っ先に目に入ってきたのは、窓いっぱいの緑です。
榎本さん:
「いい眺めですよね。ここからの景色にひとめぼれして、この家にしようと決めました」
和歌山県に生まれ、大阪で暮らしていた榎本さんは、夫との同棲を機に4年前に上京。大阪にいた頃、アパートから古い長屋まで、さまざまな家に暮らしてきましたが、特に心に残っていたのが団地。
夫も昔から団地が好きだったことから、結婚を機に、迷わず団地暮らしを選びました。
榎本さん:
「築年数の古い建物が多くて、部屋の中が新しすぎないこと。建物の管理がしっかりしていることも、団地が好きな理由でした。
当時夫は東京で、私は大阪という遠距離恋愛だったので、内見は彼の担当。写真に撮って送ってくれたリビングの窓を見たときに、ここに食卓を置いたら気持ちいい眺めだろうなと思ったんです」
眺めのいい食卓と、気持ちいい台所。このふたつが、榎本さんの思う住まいの条件だといいます。
衣食住、いちばん大事にしたいのは「食べること」
食卓の後ろには、たくさんの食器がおさまった大きな食器棚。そして反対側の壁には、使い込まれた道具が並ぶ台所。 ”食 ” を大事にしていることが、住まいから伝わります。
榎本さん:
「衣食住の中でいうなら、いちばんは食べることです。実家を出て20年、人と一緒に暮らす時期が長かったので、思えばずっと誰かにごはんを作ってきました」
ごはん作りを支えてきたのは、料理の本。10年以上前から繰り返し読んできた本を、今も大事に使っています。
榎本さん:
「はじめて買った料理の本は、高山なおみさんの『野菜だより』。ハタチぐらい、まだ学生の頃でした」
榎本さん:
「当時高山さんのお名前はまだ知らず、ここにのっている『冷やしトマト』のレシピに惹かれて手に取りました。
トマトを切って盛る。これが ”レシピ" として書いてあるのが、なんだかいいなと思ったんです。
繰り返し作っている料理はいくつもあります。春にはかぶを焼いたの。マッシュポテトのサラダは定番だし、ソーセージの入った洋風味噌汁も好きです」
榎本さん:
「使ううちに水で濡れたりしてぼろぼろになってしまいましたが、はじめて高山さんのトークイベントにいったとき、この本にサインをしてもらって、宝物になりました。
本は、 ”もの" として残るからいいですよね。ずっと料理を支えてくれた相棒のようです」
今のわたしは"健康” だろうか?
大阪に暮らしていた頃は、長くテレビ番組の制作をしていた榎本さん。仕事は忙しく、帰宅はいつも深夜。朝は食べずに、昼はロケ先での外食、夜はコンビニで買ったごはんを片手にパソコンを開く日々。
そんなある日、ふと「今のわたしは健康だろうか?」と立ち止まる瞬間があったといいます。
榎本さん:
「不規則な生活をしている自覚はあって、それでも、目の前にある仕事を120%の力で頑張っていたから、暮らしを見て見ぬふりしていました。
ある時体調を崩し、今の自分は、体だけでなく暮らしも ”健康”ではないかもしれないと思ったんです。
当時寝に帰るだけだった家の中を見回して、ここにはお気に入りのものがあるだろうか、と。自分の好きなものってなんだったっけ?と思いました。
昔は当たり前に答えられたはずなのに、仕事に夢中になるうちに、いつの間にか、それがわからなくなっていて。
部屋をお気に入りのもので整えたい。きちんとしたごはんが食べたいと思いました」
以来仕事を一度リセットし、 暮らしに目を向けるように。
日々のごはんを家で作り、好きな器にのせて、食卓に置く。そんな”ふつう” の暮らしを、もう一度スタートしたのです。
榎本さん:
「インスタグラムに写真をあげはじめたのも、その頃からだったと思います。
誰に見せようと思っていたわけでもないんです。そもそも私はインテリアに対するこだわりはなくて、『おしゃれ』への願望もありません。
ただ、なんてことのない暮らしの中にはよく見るといい風景があるなって。その瞬間に気づいたときに、忘れないように残しておく場所が欲しかったんです」
暮らしはずっと「趣味」がいい
それから10年が経ち、今、榎本さんの住まいにはたくさんの ”お気に入り” があります。毎日使う塩壺に、毎年作る保存食。
誰のためでもなく、自分のために作られた風景からは、暮らしの価値観が見えるようです。
榎本さん:
「食が好きならフードコーディネーターをやったらどう?と、すすめられたこともありました。でも、それはなんだか違うかも、と。
暮らしが仕事になったら、多分わたしは手を抜けず、また前のように”やる気120パーセント” になってしまうと思うんです。
暮らしは私にとって、肩の力を抜けるもので、その意味ではやる気0パーセントでもいい。趣味のままでいたいんだと思います」
インスタグラムにあがる写真。そこに流れるゆるやかな空気は、肩の力を抜いた、今の榎本さんが送る暮らしから生まれたものなんだと腑に落ちました。
第2話ではそんな榎本さんが愛用する食器や台所道具について伺います。そこにも彼女らしい、暮らしの視点が詰まっていました。
【写真】松木宏祐
もくじ
第1話(7月9日)
なんてことのない暮らしの中に、よく見ると "いい風景” がある。
第2話(7月10日)
台所道具はふたり分。「暮らしているな」と思える風景を集めていきたい

榎本絵里
和歌山県に生まれ、大阪で長く暮らす。4年前に東京へ移り、夫とふたり、東京郊外の団地に暮らす。
感想を送る
本日の編集部recommends!
夏のファッションアイテム入荷中
暑い夏も快適に過ごせる、シアーニットや軽やかワンピースなど、 今おすすめのアイテムが揃っています。
夏の食卓を彩るキッチン雑貨
そうめんにもぴったりな飯台や、夏バテ防止におすすめの浅漬け鉢など、今おすすめのキッチンアイテムが揃っています。
旅行におすすめのアイテム
この夏の旅行はどこへいく?バッグやポーチ、モバイルストラップなど、準備の時間からワクワクしてしまうアイテムが勢揃いです!
【動画】わたしの朝習慣
夏めく庭で小休止。子どものペースですすむ週末ルーティン