【おしゃれな人】後編:おしゃれは止まらなくていい。いくつになっても、服を着るのが楽しい(関れいみさん)

ライター 瀬谷薫子

神奈川・逗子にアトリエを構えるレディースブランド「&her(アンドハー)」。受注生産をメインに、セミオーダーメイドで作られる服は、全国にファンを増やしています。

前編では、ディレクターの関れいみさんに、服作りに対する思いを聞きました。後編に伺うのは、関さん自身のおしゃれの話。そこには、155cmと小柄な彼女だからこそ行き着いた着こなしのヒントが詰まっていました。前編はこちらから

 

道ゆく人を観察しては、おしゃれな理由を探していました

昔からずっと、服が好きだったという関さん。当時の話を聞いているだけで、その熱量が伝わります。

関さん:
「地元の宇都宮には古着屋がたくさんあって、そこが放課後の居場所。学校が終われば毎日のように通っていました。

古着の魅力は、型にはまらないこと。そして学生でも買いやすい手頃な値段で、たくさんの服に挑戦できること。かっちりしたジャケットの日もあれば、女性らしいワンピースの日も。着る服を変えて、毎日違う自分を作るのが楽しみでした」

その中で考えてきたのは、小柄でもおしゃれに見える着こなし。雑誌で好きなコーディネートを見つけては切り抜き、どこが好きなのかをメモする。研究を繰り返すうちに、だんだんと自分のスタイルができていきました。

関さん:
「半年に1度は東京へ出かけて、原宿や代官山で、道ゆく人をひたすら眺めていました。

たくさんの人が行き交う中で、1人か2人、おしゃれだなと思う人がいるんです。じっと観察して、なんでおしゃれなんだろうって、ずっと考えていましたね」

 

自分の体を知ることが、おしゃれの近道

人混みの中でも目を惹く「おしゃれな人」は、ブランドの服を着ているわけでもなければ、個性的な格好をしているわけでもありません。ただ共通する要素があって、それは自分に似合う服を選んでいること。

関さん:
「体型に対して的確なサイズの服を着ていて、肌の色に合うカラーを合わせている。つまり、自分の体を知っている人がおしゃれに見えるんだと気づいたんです。

サイジングなら、大きすぎず小さすぎないこと。自分に合ったサイズ感の服を身につけている人は、すっきり洗練されて見えます。そして、カラーリング。メイクにはブルーベース、イエローベースの分類がありますが、実はファッションも同じ。合う色を合わせると、自分がふわりと引き立って、格段におしゃれに見えるんです」

ただ、似合う色しか着られない、というわけでもないと関さん。自分を知れば、好きな服を自分に似合わせることだってできると言います。

関さん:
「私はイエローベースなので、ブラウンやベージュなど、黄み寄りの色が本来はしっくりきます。

だからブルーのトップスを着たい日は、ボトムスはネイビーよりは黒やブラウンを選ぶように。全体がブルー系の色味にならないよう、工夫することで、自分に合う方へ寄せていくことができるんです」

1cm単位で丈のオーダーができる服作りに加えて、ひとつの型に複数の色のバリエーションを用意しているのも、&herの特徴。自分に合う色やサイズを見つけられるようにという思いが込められているのです。

 

着るものに迷ったときは、自分の変わりどき

迷いなくすらすらと話す関さんには、おしゃれの解が見えているよう。けれどそんな彼女にも、迷う時期があったといいます。

関さん:
「長男の産後しばらくは、子育てに精一杯で、おしゃれは二の次でした。久しぶりに友達と食事に行くとき『何を着たらいいんだっけ?』と。それまで好きだったはずのデニムやスニーカーがしっくりこなくなって、戸惑ったのを覚えています」

そこから復職し、少しずつおしゃれの感覚を取り戻していく中で気づいたのは、自分をもっと綺麗に見せたいという気持ち。全身を古着でまとめるよりも、そこに綺麗めなトップスをプラスした方が、しっくりくるように。

今までより少しだけ背筋が伸びる、自分を持ち上げてくれる服を身につけたくなったのは、大きな変化でした。

▲カジュアルなデニムも、ハリのある素材のブラウスや、きちんとした革靴を合わせれば綺麗めになる。トップス、ボトムスは&her。靴はMaison margiela。

関さん:
「きっと誰にでも、おしゃれに迷う時期があるんだと思います。私のきっかけは子育てで、今思えばそれが、新しいおしゃれに出会うタイミングでもありました。

展示会を開くと、今着ているものと違うテイストの服を手に取っている方をよく見るんです。シンプルな服を着た方が、モード系のシャツを手に取っていたら、この方はきっと、今のおしゃれから抜け出して、新しい自分に出逢いたいんだなと。その気持ちがよくわかります。

それなら、どうしたら手持ちの服に合わせながら、方向転換していけるのか。相談に乗り、取り入れやすいアイテムを提案することも私の役割だと思っています」

関さん:
「着慣れないデザインの服には抵抗があるかもしれませんが、それでもまずは試してみてほしいんです。袖を通せば意外としっくりきて、そこからおしゃれの新しい扉が開くなんてこともあるかもしれません。

だからアトリエに来てくれたお客さまには、気になったものは全部試着していってください、と伝えています。

昔、私も地元の古着屋でたくさんの服を試着してきましたから。それを嫌な顔ひとつせず見守ってくれた店主さんのように、この店も、おしゃれを試し、見つけられる場所でありたいです」

 

いくつになっても、服を着るのが楽しい。

関さん自身のおしゃれも、日々更新を続けるさなか。明日は何を着ようかと、毎晩考えながら眠りにつく楽しみは、10代の頃から変わらないといいます。

関さん:
「色や素材の組み合わせを考えるのが癖になっているんだと思います。明日は茶色のパンツにあのトップスを合わせよう、グレーと水色を合わせたらどうだろう、とか。テレビを見ていても、ごはんを作っていても、ついそんなことを考えます。好きなんですよね。だからずっと楽しくて。

自分よりずっと年上のお客さまから刺激をもらうことも多いです。年齢なんて関係なくおしゃれをアップデートしている姿を見ていると、おしゃれって止まらなくていいんだって思います。

私もずっと、止まらないでいたいです」

自分に似合うスタイルを見つけ、シンプルにシフトしていくことが、おしゃれのゴールなのだと思っていました。

けれど&herのワンピースに感じたのは、それとは違う心の動き。新しいおしゃれと、新しい自分に出逢ったような、少し恥ずかしくて嬉しい気持ちは、これこそがおしゃれの醍醐味だったと思い出させてくれるものでした。

ゴールなんて決めなくていいのかもしれません。気持ちの向くままに、いつまでも、おしゃれは更新し続けたっていい。次々と生み出される&herの服を追っていると、軽やかにおしゃれを謳歌したい気持ちが湧いてきます。

「いくつになっても、服を着るのが楽しい」

秋冬の新作をお披露目するインスタグラムで、関さんが書いていた言葉。なんだかぐっと胸にきました。

 

【撮影】吉田周平


もくじ

 

関 れいみ

セミオーダーを中心に、ひとりひとりに寄り添える服を提案するレディースブランド「&her」を主宰。着心地がよくリラックス感がありながら、美しさと女性らしさが息づくスタイルを提案する。神奈川・逗子にアトリエを構え、不定期にオープン。@and__her / @reim


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