【月と太陽がくれたカレンダー】第三話:冬は殖ゆ。心身を甘やかすくらい大切に

白井明大

12月に差しかかる頃になると、グレーがかった空から、ちぎれた綿のようなものが風に運ばれてきます。窓の外へ手を差し出すと⋯⋯。

ふわっとした幻のように軽やかな白い点々が、手のひらにのって、しばらくすると溶けていきます。

「雪だ」

しんと静かな雪曇りの空を見上げたまま、目も心も初雪に釘づけです。

山陰で暮らすようになってから、そんな日には鍋をつつきながら、窓の外を眺めつつ、燗酒をちびちびやる幸せを覚えてしまいました。

立冬を迎えると、次は小雪(しょうせつ)、その次は大雪(たいせつ)、と二十四節気の季節が移ろっていきます。

小雪は、11月下旬。ちらちら雪が降りはじめる頃。
大雪は、12月上旬。いよいよ雪が本格的に降りだす頃。

そして12月も20日を過ぎる頃、冬至(とうじ)がめぐってきます。

冬至は、一年でもっとも昼が短く、夜が長くなる日。太陽暦(たいようれき)の大きな節目です。二十四節気の季節の一つでもあって、年明けまでが冬至にあたります。

でも、全国どこでも12月に雪が降るかといえば、そうとはかぎらないのですよね。雪の降る時期は、ところによってまちまちです。

だとしたら、いったい冬の目安になるのは何だろう? と考えてみると、たとえばそれは食かもしれないと思うのです。

 

冬の語源は「()ゆ」ともいわれます。

春に種をまき、夏に育み、秋に収穫し、そんなふうに一年の仕事をやり遂げて、心身のエネルギーがからっぽになったときにめぐってくるのが、冬という季節でした

昔の人が旧暦で暮らしていた頃、冬(殖ゆ)というのは、また訪れる春に備えて英気を養いましょう、栄養を蓄えて心身のエネルギーを殖やしましょう、という充電期間だったのではと想像されます。

初雪が降りはじめたな、おや、本格的に降ってきたぞ、というように、確かに空模様も、初冬から仲冬へと移りかわる季節の兆しには違いありませんが、そればかりでもないように思えます。

 

たとえば、寒くなると、鍋が恋しくなってきます。

水炊き、寄せ鍋、土手鍋、ちゃんこ鍋、キムチ鍋、湯豆腐、すき焼き⋯⋯。じゅわっと出汁のしみたきりたんぽ鍋や、干ししいたけの旨みの詰まったピェンロ鍋もたまりません。

肉や魚介や冬野菜がどっさり入った鍋料理は、味も栄養もあたたかさも盛りだくさんです。

鍋料理だけでなく、シチューや煮物、ふだんのみそ汁など、からだのあたたまる料理にも旬のものの出番が増えてきそうです。

そんなふうに朝昼夕のごはんを通じて、冬に大切な「殖ゆ」、すなわち英気を養っているのだとしたら、一回一回の食との出会いは、旬のもの=冬という季節の兆しをいただいて、自分を満たすことでもあるのではないでしょうか。

冬至の日には、運盛(うんも)りといって「ん」がつく食べものの盛り合わせを供えるならわしがあります。

大根、ぎんなん、れんこん、かぼちゃ(南瓜と書いて「なんきん」と読みます)、金柑(きんかん)寒天(かんてん)、うどん(饂飩と書いて「うんどん」)などなど。

運盛りをすると運気が上がる、なんて言いますがそれはさておき。その季節の食べものには、その季節のからだにいい栄養が、ぎゅっと詰まっています。

からだにいいものを食べたら、もうそれだけで幸運に満たされたようなものです。

 

それと、これは個人的な好みにかたよったおすすめなのですが、もし年の暮れの大忙しで、ゆっくりお茶する時間もない、というときは⋯⋯。

一杯ぶんだけ白湯を沸かして、使い慣れたカップや湯呑みで、ひとくち、ふたくち飲んでみるのはどうでしょう。ほんのつかのまのことですが、意外と心が落ち着きます。

年末に向かって何かとあわただしい時期ですが、「ん」がつく旬の恵み、海の幸、山の幸をおいしく食べて、心もからだも甘やかすほど大切にいたわるくらいがちょうどいいと思います。

今年もたくさんがんばって、ここまでかけぬけてきたのですから、どうか心身を(ねぎら)って、おいしいもの、栄養のあるものをたんと召し上がってください。

「冬は殖ゆ」を合言葉に。

 

文/白井明大
詩人。1970年東京生まれ。2008年より、二十四節気七十二候に沿って季節の移ろいを感じる「歌こころカレンダー」を毎年制作。2012年、『日本の七十二候を楽しむ ─旧暦のある暮らし─』が静かな旧暦ブームを呼んで30万部超のベストセラーに。2016年、『生きようと生きるほうへ』で第25回丸山豊記念現代詩賞を受賞。『いまきみがきみであることを』『日本の憲法 最初の話』など、自然や生命や心の自由に関わる著書多数。

 

イラスト/shunshun
素描家。1978年高知生まれ、東京育ち。広島在住。心に響いた光景を、ブルーブラックのペン一本から生まれる線により、一つひとつ精魂を込めて描く。毎年自主制作している『二十四節気暦』カレンダーのファンは多い。著書に『椿ノ恋文画集』『一條線一片海』など。

 

バックナンバー


感想を送る

本日の編集部recommends!

あの人気のオイルインミストが送料無料になりました!
発売から大好評いただいている化粧水・美容乳液も。どちらも2本セットでの購入がお得です◎

今すぐ頼れる、羽織アイテム集めました!
軽くてあたたかいコートや、着回し抜群のキルティングベストなど、冬本番まで活躍するアイテムが続々入荷中です!

お買い物をしてくださった方全員に「クラシ手帳2025」をプレゼント!
今年のデザインは、鮮やかなグリーンカラー。ささやかに元気をくれるカモミールを描きました。

【動画】しあわせな朝食ダイアリー
身体に合って軽めに食べられる和風スイーツのような朝ごはん

COLUMNカテゴリの最新一覧

公式SNS
  • 読みものの画像
  • 最新記事の画像
  • 特集一覧の画像
  • コラム一覧の画像
  • お買いものの画像
  • 新入荷・再入荷の画像
  • ギフトの画像
  • 在庫限りの画像
  • 送料無料の画像
  • 横ラインの画像
  • ファッションの画像
  • ファッション小物の画像
  • インテリアの画像
  • 食器・カトラリーの画像
  • キッチンの画像
  • 生活日用品の画像
  • かご・収納の画像
  • コスメの画像
  • ステーショナリーの画像
  • キッズの画像
  • その他の画像
  • お問合せの画像
  • 配送料金の画像