【いい眺めの暮らし】後編:台所道具はふたり分。「暮らしているな」と思える風景を集めていきたい

ライター 瀬谷薫子

10年前からインスタグラムで眺めていた、榎本絵里(えのもと えり)さんの暮らし。誰に見せるためでもなく撮られたような、飾らない日々の風景に惹かれました。

そんな彼女が暮らす東京郊外の団地を訪ね、お話を伺っています。

前編では今の暮らしに至った経緯、大切にしている価値観を聴きました。

後編では衣食住の中でも特に大事だという「食」について。お気に入りの台所道具や器から、もの選びの視点を聞いていきます。


前編はこちらから

「ふたり分」ある台所道具

住まいのいちばん好きな場所は台所。長く愛用する思い入れのある道具が、コンパクトな空間に詰まっています。

でもよく見ると、ピーラーは3つ、まな板は7つ……同じ道具がいくつもあります。

榎本さん:
「夫と私がそれぞれ一人暮らしの頃に愛用していたものが全て、集まっています。

たとえばピーラーも、私なら皮が薄くきれいにむけるのが好き。でも夫は少し分厚めにむける方がいいのだとか。

一緒に暮らし始めても、やっぱりお互いの使いやすいものは変わらないし、思い入れもあるから、両方とも残しているんです」

▲結婚する前から愛用し、夫の誕生日にも同じものを贈った土鍋。今もふたつ仲良く並ぶ

元々好きなものが似ていたふたり。知り合ったとき、それぞれの家の中にある家具や植物があまりにも被っていて驚いたとか。

暮らしがひとつに合わさっても、持ち物は無理にひとつにせず、ふたつのまま。そこには、それぞれが自分の目で選び、大切にしてきたものを尊重したいという思いを感じます。


作家さんの器、100円の器、どちらも大事。

食器棚は、この家に越してきたタイミングで迎えた家具。ここにもそれぞれが大切にしてきた食器が並びます。

榎本さん:
「10代の頃から器が好きでした。最初のきっかけは、ファイヤーキングのマグカップ。そこから海外の器に惹かれ、北欧食器が好きに。当時買ったアラビアやイッタラの器は、かれこれ10年以上愛用しています。

20代半ばからは、日本の作家ものや民藝にも興味が出てきました。水玉のものは、デパートの催事で初めて買ったやちむん。

どれも買った当時の記憶も含めて思い出として残る、大切な器です」

▲おかずをちょこちょこ作って並べるのが好きだから、小さめの豆皿が多いとか

民藝の和物から、洋のアンティーク。北欧食器に木の器、大好きなドラえもんのお皿まで。ジャンルも見た目もさまざまなラインナップは、榎本さんのお気に入りが詰まった心の中のよう。

共通しているのは、どれも長く使われていること。中には10代の頃から、20年近く愛用しているものもあるといいます。

榎本さん:
「昔と比べれば、器の好みもだいぶ変わりました。でも、当時の自分が『いい』と思って買ったものも、処分することなく使い続けています。

久しぶりに出して使うと、当時の気持ちを思い出して、やっぱりいいなと思うんです。

夫が昔から使ってきた100円ショップの器だって、だから大事にしています。それに電子レンジで使える耐熱のものって、意外と少ないから重宝するんですよ」


捨てるために選ぶものは、ひとつもないから

お話を聞きながら所々で感じるのは、榎本さんの中にある「ものを捨てない」という考え。

それは意識してそうしているというよりも、”捨てるために選んできたものがひとつもない”から。昔も今も、自分の価値観を信じるという芯のようなものを感じます。

榎本さん:
「何かを買うとき、それが長く使える丈夫なものであるかは気にしていますが、いずれ自分の好みが変わるんじゃないかと不安に思うことはありません。

気持ちの大小に変化はあるかもしれないけれど、それでも好きなものはずっと好き。だから長く使うよね、と。いつも自分を信じてものを選んできたのだと思います」

▲過去の住まいで食器収納に活用してきたりんご箱。今は本棚に使っている

反対に「いい」と思えるものがないときには、必要でもとりあえずで買うことはないと榎本さん。

ひとり暮らしをしていた頃の家具は、柱に棚板を渡した簡易のDIY棚や、りんご箱でまかなっていたというのも、その理由から。

結婚し生活が変わっても、別の用途で使ったり、解体して、捨てずに置いておけるように。ものとの縁は、できるだけ切りません。

▲りんご箱はふたの板も活用できて便利。今は植物が並ぶ

結婚を経たここ数年は暮らしがつぎのステップへ進み、大きな家具を買うことが少しずつ増えてきたそう。ふたりの選んだお気に入りの風景が、暮らしにひとつずつ加わっています。


暮らしに「いい眺め」を集めていきたい

今も定期的にインスタグラムにあがる、榎本さんの暮らし。写真に添えられたコメントの中に、時折見かける好きなフレーズがあります。

それは「暮らしているなあ」という言葉。

雑然とした食卓も、ちらかっているリビングだって、おしゃれや丁寧とは違うかもしれないけれど "暮らしている" いい眺め。

自分の暮らしぜんぶを丸ごと受け入れ、愛しているような、榎本さんらしさの詰まった言葉です。

榎本さん:
「昔から、仕事で家を空けて出張に行く時には、いちばん軽い木の器と、寝室のクマをバッグに入れていくんです。

ホテルって殺風景じゃないですか。その中にいつもの眺めが作れたら、なんだか安心できるから」

お気に入りのものが目に入り、好きな器で食事がとれる。

それは彼女が大切にしてきた暮らしのミニマムな形なのかもしれません。


榎本さん
「これまでいろんな家に住んできましたが、いちばん肌に合ったのが団地でした。

公園や緑がすぐそばにあり、風景もゆったりしているし、ゴミ出しのときに顔を合わせば会話をするような、ご近所さんとの距離感もちょうどいい。東京なのに、ここは小さな田舎町みたいです」

榎本さん:
「夜、窓から外を見ると、小さな灯りがたくさん見えるんですよ。その時に『暮らしているなあ』って思います。ここにもいろんな暮らしがあって、今日も回っているんだなって。

そうやって眺めている時間が好きです」

そろそろ夕飯を作る時間。毎日、団地の中にある八百屋で買った野菜から、今日の献立を考えます。

まな板に置かれた小松菜も、なんだかいい眺めに見えたのは、きっとそこに も "暮らし” が詰まっているから。

「暮らしているなあ」と思える風景を集めていきたい。そう思ったら、自分の住まいも、なんだかまったく悪くないと思えてきました。

【写真】松木宏祐


もくじ

榎本絵里

和歌山県生まれ。大阪でのテレビ制作の仕事を経て、現在はフリーランスの映像ディレクター。4年前に東京へ移り、夫とふたり、東京郊外の団地に暮らす。

Instagram: @enmt_eri


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