【スタッフコラム】父のおねだり
編集スタッフ 寿山
先日、はじめて父に “おねだり” されました。5月の誕生日に、帽子が欲しいと。
娘に何か欲しいとリクエストするようなタイプではないので、聞いた瞬間ドキッとして、「病気にでもなったの?」と不安が押し寄せてきました。
心がざわざわして母に相談したら、どうやら病気ではないとのこと。
うーん、じゃあ一体どんな心境の変化があったんだろう? 私になにを求めているんだろう?と、疑問が次々にわいてきます。
本人に聞くわけにもいかないので、必死に考えました。娘に帽子をねだる父の本意とは。
あたらしいアイテムで気分転換がしたいだけかもしれない。娘からもらった帽子をかぶると、ちょっと嬉しい気持ちになるとか? 単純に地元の店で見つけられないから、娘のネットショッピング力に託したくらいのテンションかも、などなど。
思いつく限りの理由を考えてみたものの答えはわからないので、「とにかくちゃんと選ぼう!」という結論に落ち着きました。
いざ父に合う帽子を選ぼうと思ったら、普段どんな服を着ていて、どういうファッションが好みで、何色の小物なら似合うのか、父のことをまったくわかっていない自分がいました。
わかっていないどころか、見ようとしていなかったのかも(パパごめん!)。
母が喜びそうなものはいくらでも思いつくのに、父が喜ぶものがわからないのです。もうかれこれ30年以上も娘をやっているのに、なんて情けないことでしょう。
父からもらったものは、たくさんあるのに……
たとえば、落ち込んだときに海辺を歩くと、潮風で気分がすっきりすること。山の頂上から見る初日の出が、とんでもなくきれいなこと。好きな音楽を聴くと、別世界に飛んでいけること。芸術に詳しくなくても、絵を見ると心が潤うこと。
どれも形はないものだけど、私の根っこには今も、父からもらった人生の楽しみ方が息づいています。
私は父に何をあげられるだろう。
会える回数も、過ごせる時間も、もう限りあるものかもしれない。そんなことをあれこれ考えていたら、帽子を選ぶのにえらく時間がかかってしまいました。
父の誕生日まであと10日ちょっと。私が選んだ帽子は、気に入ってもらえるのでしょうか。プレゼントを渡すのが、こんなにドキドキするのも久しぶりです。
そういえば、毎年父の日も忘れちゃってた。
今更かもしれないけれど、もっと父と向き合ってみよう。ふたりで出かけたり、お酒を飲むのも楽しいかもしれない。母ばかり誘っていたけれど、今度は父を誘ってみよう。
そう思えた次の瞬間「いやいや、そんなの間が持たない! 何を話したらいいのかわからない」と、急に及び腰になってしまいました。父親との距離感っていくつになっても難しいなあと感じる、春の終わりです。
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