【ケの日のこと】7歳の娘に伝えたい、夫婦ゲンカのこと。
「家族と一年誌『家族』」編集長 中村暁野
第21話:わたしたちはちがうけど
正直なところ、わたしと夫はしょっちゅう喧嘩しています。
先日も些細なことがきっかけで、朝食の席に漂う不穏な気配。価値観や感覚の違う二人が互いの「正しさ」をぶつけ合って一歩も引かない、いつも通りの喧嘩がはじまりました。朝食の席なので、もちろん子供もいます。よく子供の前では喧嘩はしない、なんて話を聞きますが、我が家では夫とわたしが言い合いを始めると「また始まったよ〜」と娘がため息をつく次第。申し訳ないやら、情けないやら……。でも、ぶつかっている姿を見せることって、そんなにいけないことなのかな?と最近改めて考える出来事がありました。
娘は現在7歳。どんなときもハッピーエンドが待っている、善と悪がきれいに分かれた世界で生きていた彼女も、少しずつ現実に足を踏み入れつつあります。友達とちょっとした喧嘩もよくするようになりました。
物語の中の主人公がいつでも正しい存在なのと同じように、娘は今まで、自分が見て感じたことは100%正しいと思っていたのかもしれません。友達と喧嘩すると「わたしわるくない。だって〇〇だったんだから!」と言い張る彼女に、そんなつもりはなかったのだとしても、お友達はこう感じたんじゃない?という話をよくします。そして娘も「そんなつもりじゃなかったけど、そう思われちゃったかもしれないなら謝る」と、自分以外のひとの「正しさ」を受け入れようとするようになりました。
でも、本当のところ、どんな人の心の中にも、100%「正しさ」だけとは言い切れない、ずるかったり意地悪だったり、後ろめたい感情が混在しているものなんじゃないかな、とも思うのです。時に羨んだり妬んだり、自分を守るために誰かを傷つけてしまうことだってあるかもしれない。きっと幼い娘の胸にも、大人になったわたしの胸にも、認めたくない弱い部分は、宿っているものだと思うのです。
そんな自分を認めるのは勇気がいるけど、良い部分だけじゃない弱さを受け止めることは、自分とはちがう誰かの弱さを受け入れることにも繋がるんじゃないかな、と思います。わたしたちはみんな、「完璧」でも「正しく」もない一人一人なのだから。
そんなわけで、完璧から遥か遠いわたしたち夫婦は、弱さや至らなさからくる己のエゴをついついぶつけあってしまうのです。そうやってする夫婦喧嘩の結末に、納得も共感も訪れません。それでも「あなたはそう思うんだね、感じるんだね」と二人のちがいを毎度改めて受け止めようとしています。
その一連を娘に見せてしまうことは申し訳なく、情けない……。だけど、自分の弱さを受け止めること、自分とはちがう存在も受け止めること。娘にとって一番身近な大人である私たちが、そんなふうに向き合っている姿を、彼女には知っていてほしいとも思うのです。
みんなちがうわたしたち家族が、一緒に過ごし笑ったり、時には喧嘩したりしている。当たり前だけど奇跡みたいでもある、『ケの日』。夫婦喧嘩と娘の成長からそんなことを考えた夏の終わりでした。
【写真】中村暁野
中村暁野(なかむら あきの)
家族と一年誌『家族』編集長。Popoyansのnon名義で音楽活動も行う。7歳の長女、1歳の長男を育てる二児の母。現在は『家族』2号の取材を進めている。2017年3月に一家で神奈川県と山梨県の山間の町へ移住した。http://kazoku-magazine.com
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