【私の人生を変えた読書】前編:きっかけはあの名作でした。本屋さんが語る、読書の魅力

編集スタッフ 齋藤

実は、大の本好きでして……

何を隠そう私・齋藤は、大の本好き。小学5年生の時にその魅力に取り憑かれて以来、極端な性格も相まって読書がすっかり人生では欠かせないものになってしまいました。

中学生の時にはお年玉を抱えて池袋の「ジュンク堂」へ行き、欲しい本を一気に購入することが毎年の恒例行事に。ディズニー映画の「美女と野獣」では野獣が主人公の女性に図書館を丸ごと贈るシーンを、それはそれは惚れ惚れと眺めたものです。

本は新しい視点や表現を発見することで、それまでの自分の枠や思い込みをすっと外してくれる存在。けれども日頃、私はどうしても自分の好みの本ばかりを選んでしまう。それを、なんだかもったいないかもと思うようになりました。

 

この人のおすすめなら、絶対おもしろいはず!

そこで訪れたのは、渋谷区・奥渋谷にオフィスと店舗を構える「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(以下SPBS)」で、マネージャーを務める鈴木美波(すずき みなみ)さんのところ。

数年ほど前でしょうか、インスタグラムで鈴木さんのアカウントを発見。そこで紹介される本と鈴木さんの紹介文が、私にはとても魅力的に感じられたのです。

▲鈴木さんが普段インスタグラムにあげている投稿の一部

一方的に自分と同じ匂いを感じた私は、鈴木さんが考える本の魅力を聞いてみたい、そしてぜひおすすめの本を紹介して欲しいと思うように。

一言で「本」と言っても、見た目を重視する人もいれば、ストーリーの展開でワクワクさせてくれるものが好きという人もいます。

1話目では、鈴木さんが感じる本の魅力について、伺ってみることにしました。

 

あの名作児童書で気づいた、本だけの魅力

まず鈴木さんが紹介してくれたのは、見た瞬間に私も「なつかし〜!」となった、このグレーの箱に入ったミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。みなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

撮影用に私が持参したハードカバーを見るなり、鈴木さんの表情が一変!

鈴木さん:
「岩波(書店)のハードカバー! 私、ハードカバーを持ってきていただけるように頼みましたっけ? 今は文庫なども出ているのですが、このハードカバーでないとこの本の魅力は語れないんですよ〜。

この本は、小学校の時に教室にあったことがきっかけで手に取りました。同じ作者の『モモ』と一緒に担任の先生が並べて置いておいてくれたんです。

手に取った理由は覚えてないんですが、読み始めたらすぐに最初の方にある文章に心をつかまれてしまって。主人公の少年が、古本屋でこの本と同じものを見つけるんです」

パラパラと本をめくりその場面を見つけるなり、鈴木さんの音読が始まりました。

▲「表紙はあかがね色の絹で……」と、「はてしない物語」を読み出す鈴木さん。

鈴木さん:
「本の色も、カバーに蛇の装飾があるのもまったく中に書かれていることと一緒。『私が持ってるこの本、少年が手にしているものと同じだー!』と思って、当時すごく興奮しました」

鈴木さん:
「これが私の読書に関する原体験です。この装丁でなかったら、このワクワクは感じられなかった。小さい時にすごく貴重でステキな体験をさせてもらったなと思います。こうした経験は、手に取れる本だからこそ。

例えば読書にはストーリーをとりあえず楽しむというあり方もあると思いますが、これを初めて読んだ時は、それ以上に残る何かがあったんです」

 

読書好きになったのは、この人の本があったからこそ!

鈴木さん:
「実はそれ以降、大学生まで全然本を読まなくて。

本が好きという人の中には、両親がすごく読書家だという方も多いと思うんです。でも私の場合はそうではなくて、家に本はほとんどありませんでしたし、家族もみんな本を読む習慣がなかったんです。漫画本はありましたけどね。それに、根っからの理系でして……。

でも、大学入試の時に現代文のテストで哲学者の鷲田清一(わしだきよかず)さんの文章に出会いました。それがすごく刺激的で!」

鈴木さん:
「例えばこの『ちぐはぐな身体』という本のテーマは、体とファッションについて。洋服についてこんな風に考える人がいるんだと、とても驚いたんです。

『コムデギャルソン』の服を例に挙げて、なぜこういう形の服を着るのか、そもそもなぜ服を着るのかなど、鷲田さんの考えが書かれています。学生時代に制服を着崩す人っていたと思うんですけど、その理由を考えた章もあり、当時すごく興味を惹かれました。体って身近なのに、実は自分では全然知らない。背中や足の裏とか、意外と見たことがない部分も多くないですか?

哲学と聞くとすごく難しそうと思って身構えていたのですが、読みやすい文章で、そして身近なファッションを切り口にしてくれているので面白かったんです。

こうした文章との出会いで、大学生になって時間が取れるようになった時に図書館で片っぱしから本を読むようになりました」

 

本を読むだけで、日常も変わる?

鈴木さん:
「鷲田さんの本を読んで以来、『日常のこともこうやって観察したり疑問に思うだけで新しい一面が見えてくるんだ!』と、すごく面白く感じられるようになりました。自分次第で、なんでも面白くなるんだって。

例えば水が下に落ちるのはなんでなんだろうとか、この食べ物はどこから来たんだろうとか、日常の中に本当はあるはずなんだけど、見えない何かについて、思いを巡らす楽しみを覚えるようになったんです」

鈴木さん:
「もし高校生の時のまま理系だったら、私はバイオテクノロジーについて勉強したかったんですけど……。結局文系に進み、大学1年生の時に本屋でアルバイトをはじめ、さらに大学4年生の時にここに入ってから編集や本の販売の仕事を経験しました。

私にとっては、本はいくら触れても底の見えない存在!

あまりにはまり過ぎて、ある日いきなり向き合うのをやめるのではないかと不安に思っているくらいです(笑)」

 

面白い本ないですか?本屋さんにおすすめされたい

鈴木さんに本の魅力を語ってもらい、読書熱がふつふつ燃えたぎってきました。

ただ自分で選ぶとどうしても傾向が偏りますし、自分の世界に閉じこもってしまいそうで。時には人から(それも趣味の合いそうな方から)おすすめされて、自分の世界を広げたい。

そこで、日頃から私がインスタグラムを追いかけている鈴木さんに、後編ではおすすめの本を紹介していただくことにしました。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門

▼文中に登場した書籍は、こちらからご覧いただけます。

 


もくじ

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鈴木美波(すずき みなみ)

大学在学中から「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」で編集、書店業務に携わり、2012年に店長代理、同年に店長に就任。現在は、SPBSマネージャーとして、同ブランドの管理・統括や新規事業・出店など幅広く手がける。

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS
HP:https://www.shibuyabooks.co.jp/


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