【小さな家のインテリア】第1話:30平米の1Kに夫婦ふたり。あえて選んだコンパクトな部屋
ライター 大野麻里
「広い部屋に住みたい」。理想の部屋を思い浮かべるとき、誰もがそう願っていると思っていました。
けれどもそれは、「広ければ心地よい」という一種の固定概念に縛られていたのかもしれません。
今回、インテリア特集に登場していただくのは、狭い部屋の心地よさに気づき、あえて小さな家で暮らすことを選んだご夫婦です。
東京・飯田橋のカフェバー「茜夜」店主、柳本あかねさんのご自宅を訪ねました。
40代であえて選んだ小さな家。「狭いけど快適」ではなく、「狭いから快適」
結婚15年目を迎えるご主人との住まいは、都内の賃貸マンション。築浅の現代的な建物で、駅からも近く便利な立地です。
間取りは10畳のリビングに小さなキッチンが付いた1Kタイプ。約30平米という広さは、ふたり暮らしにしては、とてもコンパクトな印象を受けました。
柳本さん:
「新居を探すときって、何となく住みたい広さをイメージしますよね。2LDKで、駅近で、これくらいの広さ……と条件を入力して検索したら、全然ヒットしませんでした。
仕事柄、夫婦ともに帰宅が遅いので、都会の立地のよさは譲れなくて。そこで、広さを下げて『30平米以上』に設定すると、ものすごい数の物件が出てきたんです。
いくつか内覧をして、雰囲気が気に入ったこの家に決めました」
ここに越して約4年。その前は古民家の一軒家に住んでいたという柳本さんですが、実際にこの家で暮らしてみると、広さに不満を感じることはなかったといいます。
柳本さん:
「自分で全体をきちんと管理できる、ちょうどいい大きさだと気づきました。
新婚当時は『友人を呼びたい』『こういう家事がしたい』と夢が膨らんでいたと思います。でも、それから引っ越しを5回して、いろんな暮らし方を経験してみて、私たちはこの広さに落ち着きました。
年齢を重ねると、面倒に感じることも増えてくるんですよね。この家で暮らすようになってからは、掃除や片付け、料理といった日常生活が、すごくラクになったと感じています」
10畳のリビングに、ベッドはクイーンサイズ?「リラックス」を意識した配置に
リビングに入ると、まず目に飛び込んでくるのが存在感を放つ大きなベッド。クイーンサイズと聞いて、さらにびっくり。なぜ、この配置にしたのでしょうか……?
柳本さん:
「平日は仕事が忙しいので、とにかくリラックスできる場所にしたいと思って。夫婦それぞれがゆったり眠れるように、シングルベッドを2つ並べています。
イメージしたのは、旅先のホテルです。部屋のメインにベッドをどかんと置くのも、ホテルならありですよね。それに、寝るところの横にコーヒーセットがあっても不自然ではないかなぁ、と思って」
一般的に窓の近くに置きがちなベッドを、あえて部屋の手前に配したのも柳本さんならではの考えが。
柳本さん:
「日の当たる場所は、テーブルを置いてリビングとして使いたかったんです。ベッドを窓際に置くと、窓をふさいでしまうので。
空間が限られているからこそ、『◯◯はここに置かなきゃいけない』という固定概念を解放しました。そのほうがラクに考えられるようになりました」
家具はわざと壁から離して配置。少しの隙間が部屋に与える効果とは?
家具の配置にも、ひと工夫。ベッドの横は壁にぴったりつけず、小さな台を置いてゆとりをもたせています。
柳本さん:
「できるだけ中央を広くしようと思って家具を壁につけて置きたくなりますが、壁に囲まれるとかえって窮屈に感じてしまいます。ちょっと隙間がある方が、風通しのいい印象になるんです」
このセオリーに従って、ソファも同じように壁とのあいだに隙間をあけて配置。二級建築士の資格も持っている柳本さんが話すからこそ、説得力のある家具の置き方です。
小さな部屋に、あえて大きな家具を置く理由
▲15年前の新婚当時に「ACTUS」で購入。現在は製造元の「広松木工」で「GALAサークルテーブル」の名称で販売されている
ベッド同様、リビング中央に置かれた丸いテーブルもビッグサイズ。計ってみると直径約160cmもあり、リビングスペースのほとんどを占めているといっても過言ではありません。
柳本さん:
「このテーブルは大きいことに意義があるんです(笑)。どこにでも座れるし、机の上でお互いがほかのことをしていても気にならないし。 大きすぎるかな? と思うぐらい、 ”思い切って大きいサイズ”がおすすめです。
一般的には “狭い部屋には小さなテーブル” と考えますよね。でも、私の場合、小さなテーブルだと結局ごちゃごちゃして、置き切れないものを床に置き、とりあえず、とりあえず……で散らかしてしまうことも。
いまはテーブルとベッドで部屋がほぼいっぱいですけど、床にものを置かない習慣もできて、見た目はすっきり暮らせていると思います」
賃貸でも好きなインテリアをかなえてくれる、長年愛用の置き畳
▲リビングに1枚82×82cmの縁なし畳を9枚使用。「吉田畳店」のもの
白を基調としたリビングの空間に和の雰囲気を足しているのは、結婚当時から使っているという置き畳。モダンな造りのマンションのインテリアに温かみを与え、天然木の家具との馴染みもよくしてくれています。
柳本さん:
「畳に座ると天井も高く感じて、開放感があります。畳の上では直に座ったり、ごろんとくつろぐこともできるので、リラックスできるのもいいですね」
「この部屋だと夫と喧嘩もできません」と、冗談ぽく柳本さんは笑いました。
柳本さん:
「お互い居心地よく暮らしたいと思っているから、若干ですが、相手を思いやる穏やかな生活にシフトしているような気がします。
たまに喧嘩しても長引かず、『まぁ、コーヒーでも飲みますか』と仲直りできるのは、この小さな部屋のおかげかもしれません」
ご主人との関係性も少しずつ変えた、柳本夫妻の小さくてあたたかな家。
2話では、コンパクトながらも機能的に整えられたキッチンを紹介します。
(つづく)
【写真】北原千恵美
もくじ
柳本あかね
グラフィックデザイナー、二級建築士として働きながら、夕方からは東京・飯田橋のカフェバー「茜夜」店主を務める。日本茶インストラクターの資格も所有し、講座やワークショップも開催している。著書に『「茜夜」のシンプルに暮らす小さなキッチン』(河出書房新社)、『小さな家の暮らし』(エクスナレッジ)など。
ライター 大野麻里
編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。
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