【小さな家のインテリア】第3話:ふたりの荷物を一箇所に。限られたスペースで快適に暮らす収納アイデア

ライター 大野麻里

今回のインテリア特集は「小さな家」をテーマに、全3話でお送りしています。

お邪魔したのは、30平米のマンションにご主人とふたりで暮らす、柳本あかねさんのご自宅。

1話ではリビング、2話ではキッチンをご紹介しました。最終話では、クローゼットをはじめとした、小さな家の収納術を拝見します。

 

「探しもの」から解放された!家の荷物を、一箇所にまとめた集中収納

柳本家の収納は、約1.5畳のウォークインクローゼット。家のあらゆるものが、この扉の中に収納されています。

柳本さん:
「小さいですが、収納を一カ所にまとめたことで管理しやすくなりました。衣類だけでなく、本や文具、アクセサリー、防災グッズ、ミシン、掃除機など、何でもここに収めています。

分散して収納しないことで、『どこにしまったかな?』と探すことがないのもメリットです」

このほかに、マンション内にあるトランクルームを活用。季節家電やスーツケース、オフシーズンの衣類など、すぐに使わないものはそちらに収納しているそうです。

柳本さんが以前住んでいたのは、現在の住まいの約2倍の広さの一軒家。この家に越してくるときに、大量のものを手放したそう。

柳本さん:
「転勤が多かったので、引っ越しのたびに運んでいた “開かずのままの段ボール” などもありました。そういった、中が見えない状態で放置されたものを、うちでは “闇” と呼んでいるのですが……。

いまの暮らし方に変えてから、その “闇” がなくなりました。『引き出しの奥に使っていない鍋があるなぁ』とか『あの棚にあれがあったかも』とか、そう考えることがなくなって、心の負担が減ったように思います」

 

服も本もここに入る分だけ。隅々まで見えると、ものは循環する?

夫婦の共通の趣味である本は、クローゼットの奥に収納。小物を置く棚に、本棚のように並べています。

柳本さん:
「引っ越しの際に大量の本を処分して、いまはここに収まる量だけと決めています。それでも増えていきやすいものなので、頻繁に売ったりして循環するように。

図書館のような感覚で、ここから読みたい本を持ち出して読んでいます」

衣類コーナーは夫婦共有。ハンガーはトップス用が35本、ボトムス用10本がふたり分の上限。これ以外は衣装ケースに収めています。夫婦で仲良く、クローゼットを共有する秘けつは何でしょうか……?

柳本さん:
「お互い干渉しないこと、ですかね。衣替えも自己判断です。『その服、もう捨ててもいいんじゃない?』と思っても口出しはしません。

でも、これだけ小さなクローゼットですから、相手がきれいに使っていると自分も『きれいにしなくちゃ』と思うようになりました。隅々まで目に見えることで、お互いが良い刺激になっています」

 

リビングに、あえてキッチン道具を置く理由

コーヒーやお茶のセットは、リビングの棚に飾って収納。コーヒーマシンや電気ケトルなど、キッチン周辺に置きたくなるようなものも、意味を持ってここに置かれています。

柳本さん:
「キッチンに置く場所がないという理由もありますが、リビングでコーヒーやお茶を飲むので、ここにあると動きに無駄がありません。テーブルでコーヒーやお茶をいれられるから、会話が中断することもないんです」

棚に並べられた小さな道具の数々。そのひとつひとつを眺めると、愛着をもって選ばれているのがよくわかります。

柳本さん:
「やみくもに買うことはないですが、買い物は好きです。ものがあることで、幸せを感じることってありますよね。削ぎ落としすぎると、暮らしも淡白になってしまうような気がして。

だからコーヒーマシンのように、なくても生活に支障のないものでも、気持ちを豊かにしてくれるものは部屋に置いています。その代わり、何かを買うときはいつも厳選していますね」

買い物をするときは、夫婦で点数表をつけて買うのだそう。こうすることで、ふたりのものという認識になり、お互いがものを大切に使う習慣ができたそうです。

 

パジャマを玄関に?動線をいちばんに考えた、効率のいい収納

しまう場所を限定しないことも、小さな部屋を上手く活用する方法のひとつ。

ほとんどの生活用品はクローゼットに収めていますが、いくつか例外も。それは下着とパジャマです。

柳本さん:
「お風呂が玄関の向かいにあるので、玄関収納に下着やパジャマを入れておくと身支度の動線がいいんです。洗面所に収納を設けることも考えましたが、スペースがないのでここを活用しました」

▲玄関の横にあるバスルーム。バスタオルは、つっぱり棒とリングフックで浴室の扉の手前に吊るして収納

 

持ち物をすべて把握できる暮らしは、気持ちがいい

小さく暮らすヒントが、家じゅうに詰まった柳本さんのご自宅。引き出しの中まで隠すことなく見せてくださり、柳本さん自身が、気持ちよく暮らしていることが細部から伝わってきました。

それは、家の隅々まで把握できる30平米という広さが、柳本さんに変化を与えた結果なのかもしれません。

柳本さん:
「私も、郊外にある緑の見える家でゆっくり過ごしたいなぁという憧れもあります。でも、いまは仕事があるし、それに向き合う時期。便利な都会で、少しでも暮らしやすい方法を見つけようと思って、このスタイルにたどり着いたような気がします。

30平米にふたりで暮らせると、住まいの選択肢はすごく広がります。そういう意味でも、今後、また引っ越すことがあっても、同じくらいの広さの部屋に住むんじゃないかなと思っています」

▲もうひとり(1匹?)の家族、愛猫の「蒼」。取材中はソファ裏に隠れていたので、こっそり撮影

取材中、柳本さんは何度か「 “いまの私たちには” この暮らし方がフィットしている」と説明を添えました。「いきなり、新婚さんにこの生活はすすめられないですよ〜(笑)」とも。

それはきっと、夫婦の関係性や、子どもがいたり、毎日3食自炊したり……。人によってさまざまなライフスタイルや趣向があると十分に知っているからなのでしょう。

この小さな家は、柳本さん夫妻が15年かけてたどり着いたひとつの答え。いまのふたりに、 “ちょうどいい暮らし” です。

年齢とともに、ライフスタイルは変化します。その都度、自分の暮らしに向き合いながら、 “自分や家族にとってちょうどいい” を見つけることができたら、それが最高の住まいにつながるのかもしれません。

小さな家も、今後の選択肢のひとつに加えてみよう。そう気づかせてくれた取材でした。

(おわり)

【撮影】北原千恵美


もくじ


柳本あかね

グラフィックデザイナー、二級建築士として働きながら、夕方からは東京・飯田橋のカフェバー「茜夜」店主を務める。日本茶インストラクターの資格も所有し、講座やワークショップも開催している。著書に『「茜夜」のシンプルに暮らす小さなキッチン』(河出書房新社)、『小さな家の暮らし』(エクスナレッジ)など。

 

ライター 大野麻里

編集者、ライター。美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がける。ジャンルは住まいやインテリア、ライフスタイルなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係などが中心。

 


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