【金曜エッセイ】失敗のベテランが伝える買い物の掟(文筆家・大平一枝)

文筆家 大平一枝


第二十九話:失敗のベテランが伝える、暮らしの道具・買い方の掟3か条


 

 先日、京都の小さな陶器市に、息子とガールフレンドと私で寄った。ときどき彼女が「これ、どう思います?」と聞いたり、息子がうっかり紅葉型の箸置きを買おうとするので、「初めて買うなら、お金がない若いうちは通年で使えるものがいいよ」とアドバイスしたりした。
 着物の柄と同じで、箸置きも季節限定だと出番が少なくなることに彼は気づいていない。

 暮らしの道具の選び方は、教科書には載っていない。
 こんな母親はさぞめんどくさいだろうが、たくさん買い物の失敗を重ねてきた先輩としては、ぜひ体験の末に得た掟を次世代に伝えて、同じ轍を踏まぬようにしてもらいたいと願いがつのる。
 そこで今回は、インテリアや住まいに興味を持ったら読んでほしい、ちょっとした暮らしの道具のルールを3か条にまとめてみた。

 
(1)収納は、型とモジュールをあわせる
 100円の容器だろうと、衣装ケースであろうと、見えないところでも、“安いから、なんとなく良さそうだから”という理由で買うと、結果的に無駄遣いになる。買い足したときに上手くスタッキングできなかったり、“なんとなく”合わなくなって、不便だからだ。
 冷凍庫、引き出し、押入れ、シンクの下。収納グッズは、用途ごとにできるだけメーカー、型、サイズを統一しよう。暮らしの道具はどうしても、歳月とともに増える。今より少し先を見据えて買うといい。サイズ感もつかめて、パズルのような収納がうまくなるし、見た目もスッキリする。

 
(2)限定品に注意
 季節限定、“この隙間”限定の家具や器は、用途が限られる。限定品は全てダメということではないが、用途が限られると融通がきかず、もしも転居したときに、使いまわしがしづらい。

 取材で、収納カウンセラーが、「この服には、あのボトムスが似合うと想定して買ったものは、使用頻度が少なくタンスの肥やしになりがちです」と言っていた。シンプルな暮らしを目指したかったら、1枚で最低5種の組み合わせが思いつくような買い物をしなさい、と。
 暮らしの道具も同様だ。マルチタスクなら、物を持ちすぎずにすむ。

 
(3)経年による効用と、消耗品の区別
 私は、これぞ理想というフライパンを求めて、ずいぶん買い物の失敗をしてきた。料理家が薦める鉄のフライパンも、注文してから3ヶ月待ちの銅製のも持っているが、手入れや重さに閉口して、長続きしなかった。

 今は、テフロン加工の安物で、テフロンが剥げたら買い換えるというシンプルなところにいきついている。買い換えることや、よいとされている鉄に別れを告げるのはためらいがあったが、毎日使うフライパンは手入れが簡単で、特別なコツがなくとも、毎回パンケーキがきつね色に焼けるものがいい。

 逆に鍋は、無理してでも鋳物や銅のように長持ちする上等で頑丈なものを、サイズ別に揃いで買ってほしい。鍋は一生使えるし、同じメーカーなら、熱伝導の癖やなべの使い勝手のコツが身につき、歳月とともに料理の腕が自然に上達する。
 私ももう少し歳を重ねて、毎日に余裕ができたら、鉄のフライパンの手入れも容易にできるのかもしれない。
 つまり、人がいいといったものが必ずしも自分の暮らしのリズムに合うとは限らないというお話である。

 ところで陶器市は、あまり説教臭いのもどうかと思い、最初の数軒で、二人と別行動にした。
 恋人とのそぞろ歩きはそれだけで楽しいもの。得か損かだなんて、ギチギチに考えて器を見たらつまらないよなと、大事なことを思い出したので。

 
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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。『天然生活』『dancyu』『幻冬舎PLUS』等に執筆。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)など。朝日新聞デジタル&Wで『東京の台所』連載中。プライベートでは長男(22歳)と長女(18歳)の母。

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▼本連載の過去記事はこちら

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