【小さな家のインテリア】第1話:居住スペース38平米の一軒家、狭さがメリットになる暮らし方

ライター 藤沢あかり

「リビングがもう少し広かったら」「キッチンにもっと収納スペースがあったら」。自分の住まいと向き合いながら、そんなため息をひとつ。きっとこれ、わたしに限らず、多くの人の心の声ではないでしょうか。

暮らしの豊かさは、住まいの広さに左右されない。コンパクトなスペースでも、心地よさは実現できる。最近は、そんな考えも少しずつ広まってきましたが、まだまだ自分の暮らしには、うまく取り入れられずにいる気がします。

▲自宅1階に併設したギャラリーショップ。

そんな折、手仕事の日用品を扱う雑貨店「縷縷 LuLu」店主の、ジェゲデ真琴さんが自宅を新築したと知りました。「タイニーハウスなんです」と話すその家は、たしかに広くはないようですが、お気に入りの道具だけが並ぶ、とてもすがすがしい空間。

ジェゲデさんの家づくりやインテリアの視点には、わたしたちの毎日に取り入れられるヒントがあるかもしれない!と、早速、お邪魔させていただきました。

 

モノも空間も、自分たちの手が行き届く「小さい家」の魅力って?

ジェゲデさん:
「家づくりのきっかけは、『タイニーハウス』を建てよう、という夫の言葉でした。

タイニーハウスというのは、厳密な定義もありますが、小さな家のこと。家そのものを小さくし、シンプルに生きる選択肢としてアメリカから広まったそうです」

ジェゲデさん:
「タイニーハウスなら、大きな住宅ローンに縛られることがないし、空間が限られているので光熱費も抑えられます。持ち物の管理や掃除など、すべてが自分たちの手の行き届く範囲で生活できるんですね。わたしもその考えに賛成し、小さな家を建てることになりました」

▲シンプルな家の中でパッと目を引くペルシャ絨毯は、長年憧れていたもの。椅子は「飛騨産業」。

ジェゲデさん:
「実際に暮らしてみて、小さな家は自分の性格にぴったりだと感じています。わたし、家がきれいな状態じゃないとすごく気になってしまうんです。でも、掃除には時間をかけすぎたくない。家事だけに、とらわれたくないんです。でも散らかっているのはやっぱり気になる……そんなわがままも、この家なら大丈夫。

以前は、お掃除ロボットも持っていましたが、これだけのスペースだとあまり意味がないので、妹に譲ってしまいました。この家なら、ハンディタイプの掃除機ひとつで十分です」

1階には「縷縷 LuLu」の店舗とガレージ、2階に暮らしのメインとなるリビング・ダイニング・キッチンと水まわりを備えました。あとは寝室と、2畳ほどのウォークインクローゼットがひとつ。居住スペースは、合わせて約38平米です。

▲最低限の広さで整えた玄関は階段下までをひと続きにし、ラグを敷いただけ。片側の壁に大きな鏡を設置したので、広がりを感じます。

ところで、38平米とはどのくらいの広さでしょう。間取りにもよりますが、約10畳のリビング・ダイニング・キッチンに、4畳半の部屋がついた1LDKのアパートで、おおよそ同じくらい。夫婦2人が新築する住まいとしては、少々コンパクトだというのを感じてもらえたのではないでしょうか。

 

丸いテーブルがくれる、気持ちと空間の自由度

大きなクルミ材のダイニングテーブルは、「TREOW FURNITURE WORKS」にオーダーしたものです。こうして上から見てみると、箱のような空間に大きな曲線というリズムが加わり、表情の豊かさを感じます。

ジェゲデさん:
「シンプルな家なので、ちょっと動きのあるデザインを取り入れたかったんです。それに、限られたスペースの中では四角よりも丸の方が、自由度がアップします。キッチンに立っている人に背をむけて座ることもないですし、向かい合う人との距離も縮まって、友好的な空気が生まれる気がするんです」

食事だけでなく仕事もここで、ときにはキッチンの作業台にもなるテーブルなので、できるだけ大きくしてもらったそうですが、不思議と圧迫感はなくおおらかな雰囲気になっているのは、形選びに理由があったようです。

▲「個性的で存在感があり、長く愛せるものを」と選んだ照明は、フランスの建築家、ベルトラン・バラスのデザイン。

 

狭いからこそ、小さな工夫を重ねていく

ジェゲデさん:
「天井は吹き抜けにして、できるだけ閉塞感がないようにしてもらいました。

カーテンはブラインドに、テレビは壁付けできるサイズを選び、テレビボードをなくしています。少しでも狭さを感じさせないように、そして掃除がしやすいように、小さな工夫を重ねているかもしれませんね」

▲エアコンは吹き抜けの天井の上の方に取り付け。ロフトタイプの寝室には壁を設けず、この1台で家全体の空調をまかなえるようにしたそうです。

ジェゲデさん:
「かわいい手仕事のかごは、お店でも扱っていますし、私も大好き。でも、収納用のかごや家具を増やさないように気をつけています。床にものを置いてしまうと、わたしは掃除が面倒になってしまうし、やっぱりそのぶんだけ面積も埋まってしまうので。

本当は、リビングの一角に、お気に入りの雑貨やアートを飾れるようなチェストがあったらいいな、と思うこともあります。でも、軽いストレッチ運動をしたり、室内干しをしたり……来客時に荷物を置いてもらうこともできたりと、空間をフレキシブルに使えます。なにより掃除も負担になりません」

▲階段の壁には、お気に入りのアートを。こちらはイラストレーターの深川優さんにお願いした作品。

「もしかしたら、いつか家具が増えているかもしれない」と笑うジェゲデさんですが、すべてを今、埋め尽くさず、いつかのために残しておく。そんな無理をしすぎない余白が、この家を窮屈に感じさせない大きなポイントかもしれません。そして「狭さ」を克服するアイディアは、同時に「掃除のしやすさ」にもつながっているというのは新たな発見です。

次回は、お気に入りがたっぷり並ぶキッチンスペースを見せていただきます。

(つづく)

【写真】木村文平

もくじ

 

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ジェゲデ真琴

東京・調布の雑貨店「縷縷LuLu」店主。大分県出身。「細く長く、とぎれることなく続く」という意味の店名どおり、日常にいつまでも寄り添うような工芸品やデザイン雑貨のある暮らしを提案している。アメリカ人の夫と2人暮らし。https://www.luluweb.com/

藤沢あかり(ライター)

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。


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