【小さな家のインテリア】第3話:ものを減らすのではなく、暮らしのしくみを変えるミニマムライフ
ライター 藤沢あかり
部屋の広さと暮らしの豊かさは比例しないはず。理屈ではわかっていても、「もっと広ければ…!」と感じてしまうのは、どうしてでしょうか。夫婦二人暮らしで、38平米の一軒家を建てた、雑貨店「縷縷(るる)」店主のジェゲデ真琴さんを訪ねながら、その工夫や考え方を全3話で伺っています。
限られたスペースながら、機能性もデザインもしっかり追求したキッチン&ダイニングに続き、最終話となる今回は、寝室やクローゼットを拝見しながら、ものを少なくするための「しくみ」について伺いました。
「眠る」だけのシンプルな部屋と、一元管理の収納空間
ロフト部分へ上がると、夫婦の寝室スペースです。ここは、ベッド2台をおいたらそれでいっぱいの、「眠ること」に特化した場所。
そして隣りには、ウォークインクローゼットが続きます。
▲正面にジェゲデさん、ここからは見えませんが右手前側に、夫の服を同じようにかけています。
▲八つ目網みや網代編みなど、表情の異なるかごバッグを並べて。ハンガーも統一し、すっきりと。
ジェゲデさん:
「洋服も、つくっている背景や人が見える手仕事のものを着ることが増えてきました。年齢的に、何が似合うのかわからなくなっていた時期もあり、今は買うブランドもだいぶん限られています。
大きな収納スペースはここだけなので、洋服以外に、ストーブや加湿器などの季節アイテムやスーツケース、非常用の水ストックなどを置き、ほとんどの持ち物を、ここに集約しました。
本も、手持ちのものはここに。といっても衣装ケース1つ分だけで、電子書籍で買えないものや、どうしても手もとに残しておきたいものだけに厳選しています。
本や雑誌って、気づくとすぐに増えてしまいますよね。その対策として、本はKindle、雑誌は月額で読み放題になるサービスを使うようにしています」
今あるものを減らすのではなく、しくみを変える
実は、すっきりとした印象のジェゲデさんのお宅には、一般的には「ある」ものが見当たらないのです。それは、「キッチンの給湯リモコン」と「インターフォンのモニター」。
ジェゲデさん:
「壁にとりつけるものは、最小限にしました。それだけで、見た目のシンプルさが変わるように思います。
給湯リモコンは、お風呂の中にだけあれば大丈夫。インターフォンは、スマホで来客を確認できるシステムを取り入れました。スイッチやコンセントの数も、なるべく必要最低限になるようにしてもらったんです」
電気工事を伴うコンセントの数はあとから変更がきかないぶん、新築やリノベーション工事のときには「迷ったら多めに」という人が多いかもしれません。
ジェゲデさんは、そもそも配線を減らす工夫もしているようです。
▲棚の上に置いたのは、スマートスピーカー。
ジェゲデさん:
「Google Wi-Fiを使って、インターフォンだけでなく、照明やスピーカーなどもIoT(アイオーティー)化(※)し、スマホと連動させています。だから手元ひとつで操作ができるんです。
消費電力も見られるので、効率よく光熱費を減らすきっかけにも。いずれは家じゅうの照明や玄関の鍵なども変えていけたらと思っています」
(※)家電をはじめ、ものをインターネットとつないで操作すること。
▲インターネットのケーブルやテレビ、スピーカーなどの配線類は、ここにひとまとめ。家づくりの段階からお願いし、見えないようにと工夫した部分です。
テレビ横には、唯一残っているという紙ものや、文房具、常備薬などの日常のこまごまとしたものを収納しています。
ジェゲデさん:
「基本的に、紙の情報はすべてデータ化です。インターネット上の保管システムを使って、夫婦でいつでも共有できるようにまとめているんです。
今、ずっと気になっているのは家づくりをしたときの図面や書類などの、たくさんの書類。でもこれも、ほぼデータになっているので、そろそろ処分しようと思っているところです。一時的に必要な明細や、夫の仕事の資料などが少し入っているくらいですね」
雑誌や本は、できるだけ電子書籍にしているのと同じく、買い物先では紙袋や箱を断ったり、粗品は辞退したりと、ただものを減らすのではなく「家の中に入れない」、つまりものが物理的に増えないしくみを心がけているそうです。
生活の中の、こまごまアイテムにも定位置を
財布やコスメ、ちょっとしたときに使うハンドクリーム……、毎日の生活の中には、サッと使えるよう、すぐ手の届くところに置いておきたい。でも、それが散らかった印象の原因に、というものがたくさんありませんか? きちんと住所を決めたほうがいいのは頭ではわかっているのに、ついつい出しっぱなし。毎日暮らしていると、どうしてもそういうものが出てきてしまいます。
「そこで、毎日のこまごまとしたものをひとまとめにするシステムを、最近始めてみたんです」と、ジェゲデさん。
ダイニングテーブルの脇にかけた、小ぶりのトートバッグ。中身は、コスメポーチに財布、メガネ、サングラスなど。そのとき飲んでいる薬やリップなども、小さなポーチにまとめています。どれも、部屋でも外出先でも使うものたちです。
▲テーブルに取り付けたのは、ukokor(ウココロ)の「Stone Hook(ストーンフック)」。ポケットがたくさんついたトートバッグは、皿海佐多子さん作。どちらもお店を通じてお付き合いしている作家さんのもの。
メイク道具は、ここに入れているものがすべて。出かけるときは、ポーチごと持ち運ぶそうです。ユニークなのが、ファンデーションの選び方。大きめのボトルに入っていることが多いリキッドタイプですが、ジェゲデさんは、小さなサイズを使っていました。
ジェゲデさん:
「コスメも、できるだけ小さいものを選んでいます。トラベルキットやトライアルなどで、いつも使っているものでも小さなサイズが出ることがあるんです。
財布の中は、カードの数をできるだけ絞って、スマホを活用しています。交通系のICカードや電子マネーを入れたスマホと、リップが入ったポーチだけを持って出かける、ということも多いんですよ」
暮らしのしくみを見直せば、「狭さ」も「豊かさ」になる
家の中のIoT化や電子マネーの決済を活用したキャッシュレスな生活など、デジタルテクノロジーをどんどん取り入れて、より使いやすく、アップデートしているジェゲデさんの暮らし。
反面、昔から変わらぬ製法でつくられている工芸品や、手間暇をかけた手仕事の品など、アナログなものにも惹かれ続けています。
▲左は野外でお茶を楽しむための「青空茶器揃」。竹かごの中に、備前焼の宝瓶や湯のみなどが入っています。左は、木曽ひのきのワインクーラー。
ジェゲデさん:
「デジタルとアナログ、一見すると対極にあるものですよね。でもどちらも、“ものづくり”という部分で共通していると思います。
高度な技術や優れたデザイン性で、生活を豊かにしてくれるもの。そんなものづくりに魅力を感じているんです」
ものを多く持たずに掃除がしやすい環境を整えたり、ムダなスペースやエネルギーを抑えて経費削減をしたり。それは今、忙しく過ごす自分のため、そして未来の自分のための「わがまま」だといいます。
ジェゲデさん:
「わたしは、きれい好きの面倒くさがり。それに自宅で仕事をしているので、片付いていないとついつい気になって、掃除を始めてしまいます。でも本当は、掃除もそんなに好きじゃないんです。それなら、忙しい毎日の中で、どうやったら時間を捻出できるのか、家事を減らせるのか。いつも快適に過ごすためには、どうしたらいいのかを考えるようになりました。
何をするのが嫌かな、どんなことを自分は面倒だと感じているんだろう。そうやって自分の性格や行動パターンを分析していくなかで、ムダな消費を減らしたり、ものをあまり持たないという、今の暮らしにたどりついた気がします。
それに、40歳を超えたあたりから、掃除の頻度や集中力が落ちたのを感じています。一気に大掃除や片付けをするというような無理がきかなくなってきたし、老後はもっとそうだと思うんです。だから、小掃除や家事のしやすい家づくりは、この先の自分たちのためでもありますね。
きっとこれは、わがままな大人が快適に暮らせる家なんですよ(笑)」
▲夫の姉が手がけるテキスタイルを額装して、階段途中のアクセントに。
すっきり感と、そこに漂うセンス。そんな見た目の美しさから、ジェゲデさんのお宅に惹かれていたわたしたち。でも、そのひとつひとつの根底にはしっかりと、「今と未来の自分たちが暮らしやすく」という一本の芯があるのを感じました。
「すっきり暮らしたい」。そう思ったときに、今の持ち物を捨てること、手放すことばかりを考えてしまいがちです。
でも、ジェゲデさんのように「しくみ」を見直すことで、住まいの可能性はもっと広がります。今「狭い」と感じている部屋にも光が当たるかもしれないし、これからの住まい選びにも、選択肢がぐんと増えるかもしれません。
なによりも、そうやって住まいのしくみをじっくり考えることは、自分にとっての大切なものを浮かび上がらせる作業ともいえそうです。
(おわり)
【写真】木村文平
もくじ
ジェゲデ真琴
東京・調布の雑貨店「縷縷LuLu」店主。大分県出身。「細く長く、とぎれることなく続く」という意味の店名どおり、日常にいつまでも寄り添うような工芸品やデザイン雑貨のある暮らしを提案している。アメリカ人の夫と2人暮らし。https://www.luluweb.com/
藤沢あかり(ライター)
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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