【訪ねたい部屋】第1話:可能性を秘めた「古い家」。自分たちらしく暮らす一家を訪ねました

ライター 藤沢あかり

「その人らしさ」を感じるインテリアは、いつだって魅力的です。

住まいそのものや家具はもちろん、取りつけた一枚の棚や小さなフック。そんな暮らしのひとつひとつに生活があり、選んだ理由や背景が潜んでいます。

特集「訪ねたい部屋」では、実際にその方のお宅へお邪魔するような視点で、そして友人とおしゃべりするような気持ちで、その人らしさとインテリアの関係性を紐解くシリーズです。

都内から電車を乗り継ぎ、約2時間。懐かしさのただよう秩父鉄道に揺られた先は埼玉県秩父郡、皆野町。ここに、木工作家・うだまさしさんのギャラリー兼住まいがあります。

うださんは、スプーンやフォークなどのカトラリーや、お皿、カッティングボードなど、生活に密着した道具をメインに制作活動をする木工作家です。聞けば、住まいも木工の技術を生かしながら、自分たちの手で改装を進めたとか。

ものづくりをする人が、住まいをつくる。そこには、どんな暮らしがあるのでしょう。

 

条件は備えていないのに、なぜか惹かれた古い家

最寄りの駅からは車で10分ほど。

「築年数は、もうよくわからない」という素朴な木造平屋が、うださんのご自宅です。古道具と同じくらい味わいのある表札は、同じく作家活動をしている友人が作ってくれたものだそう。

この住まいに移ってきたのは、ちょうど3年前。

元気に走り回る3歳の息子、黄之(きの)くんが生まれる10日前が引越しだったね、と当時を振り返ります。

▲右手に見えるソファは、オリヴィエ・ムルグがデザインしたもの。引越しのたびに一緒に移動してきた思い入れのある家具で、10年以上前に北欧家具専門店のオークション会場で競り落としたのだそう。

玄関を上がってすぐの一室。ここが、うだ家のリビングです。テレビは壁掛けにし、コンパクトにまとめています。

うださん:
「もともとは、もう少し山奥のほうに工房と住まいを構えていたんです。でも、結婚して、子どもを授かったことを機に考えました。この先、子育てもしていくのなら、もう少し町に関わりやすい場所がいいかもしれないって。

でも、なかなか工房と住まい、両方の希望を叶える家は見つからなかったんです。あるとき、空き家になっていたここを紹介してもらい、工房はないのか〜、と思いながら下見に来てみました。そうしたら思いがけず、とても環境が良かったんです」

うださん:
「制作には気持ちがなにより大事。ここなら、気持ち良く取り組めそうだと思いました。隣は建築会社だから、作業中の機械音を気にせずいられるのも良かったですね。

移築と増築を重ねてきた家のようなのですが、以前住んでいたおばあさんは、とても家を大切にされていたんでしょう。室内も庭も、きれいに手入れが行き届いていました」

▲絵本やおもちゃといった子どものものはすべて、リビングに作った棚に。着替えや保育園グッズなど、妻のゆかさんが用意するものは上段のかごにまとめています。

そんな大切にされてきた家を、うださんと妻のゆかさんは受け継ぐ決意をします。希望していた工房に使えそうな建物はありませんでしたが、「きっとここなら、楽しく暮らせる」という予感がありました。

工房は広めの敷地内に新設しよう、住居にはギャラリーも作ろう。未来へ向けて、夢が少しずつ動きだした瞬間でした。

▲仕事部屋の向こう側に見えるのが、新設した工房。

運良くお隣りさんとなった建築会社にも協力してもらい、ここから、自分たちが暮らしやすい初めての住まいづくりが始まりました。

 

明るい家にしたい。古さを生かすところと、変えたところ

木工を生業とするうださんにとって、住まいは大きなチャレンジの場でもありました。

うださん:
「古い家だけど、明るく風通しのいい家にしたかったんです。

昔ながらの家って、ふすまで細かく仕切られていますよね。暑いときには開け放して風を通し、寒いときには仕切って暖かな空気を逃さないようにできます。そんな良さは残しながら、今の自分たちの暮らしに合わせるにはどうしたらいいのかを、ひとつひとつ考えました。

この壁はいらないから抜いてしまおう、ここはふすまではなくガラス窓にして明るさを確保しよう、といった感じです」

▲アクセントとなっている扉は、船舶用の古いものだそうで、大人が頭をかがめるくらいの高さ。

古い家をきりりと引き締めているのが、黒のアイアン格子の引き戸です。この引き戸が、住まいとそのすぐ隣にあるギャラリーとをゆるやかに仕切っています。

うださん:
「友人の作家に作ってもらったもので、ガラスに見えますがアクリル板をはめています。
普段は開けてひと続きの部屋のようにし、ギャラリー開放日は扉を閉めてカーテンを引くことで、住まいと切り分けられるんです。お客さんは、玄関から縁側を通じて入ってこれるようになっています」

▲月に一度くらいのペースでオープンするギャラリー『Ūca(ウーカ)』。正面奥の壁は、ふすま仕切りだった部分を壁につくり変えたそう。大きな室内窓を設けたことで、窓の向こう側に思いを馳せたくなる、物語を感じる雰囲気に。

ギャラリーは、畳敷きだった床を剥がし、無垢の杉材を貼りました。もちろん、この作業も自分たちで。「材料はホームセンターなどで手に入るんですよ」とサラリと話しますが、さすがはプロの腕前です。

しかし、そうはいっても古い家。

壁の漆喰仕上げなど、専門の職人の手を借りる部分もありましたが、基本的には自分たちで進める改装作業。すべきことは、山のようにあったといいます。

▲正面の白いディスプレイ壁は、実は、もともとは押入れ。木の引き戸を開けると、大容量の収納スペースになっています。

うださん:
「壁を取り払ったり、建具を変えたり、必要な棚を取り付けたり……。古さのため傷んでいる部分もたくさんありました。今思えばとても大変でしたが、ゆかと2人だったからできたのかもしれません。家族が増えるというタイミングでもあったし、自分の家だ!と思うと頑張れたんです」

 

「今」の感覚も取り入れながら

▲玄関に下げた、アフリカの原住民のお面は、ひとつずつ集めていたら、いつの間にか家族ぶんが揃った。日本の時代箪笥や、作家もののアートなどとの合わせ方に、うださんらしさが。

昔から、古いものとデザイン家具が好きだったという、うださん。各地の古道具店や骨董市を訪ねては、お気に入りの家具をコツコツと集めてきました。家じゅうにおいた家具や収納用品は、多くがそうして時間や場所を超えてやってきたものです。

うださん:
「味わいのある古いものが、すんなり溶け込むような家がいいなぁと思っていました。でも、古い家に古いものを合わせると、ちょっとやりすぎ感も出てしまう気がするんです。だから、今の感覚やバランス、雰囲気も大切にできたらと思っています」

リビングに選んだ照明も、実はそんな思いが詰まったセレクトです。

提灯や障子を思わせるような雰囲気も漂うランプは、ジョージ・ネルソンの『バブルランプ』。ミッドセンチュリーモダンを代表するデザインで、和にも洋にも似合うものを、という気持ちにばっちり応えてくれたお気に入りです。

▲広い庭や近隣の豊かな自然のおかげで、家と外との垣根があまりなく、環境がまるごと黄之くんの遊び場に。保育園にも、ひと遊びしてから登園するそう。

お話を伺ううちに、空き家になっていたというこの古い家が、うださん一家と出会えて本当によかった、そう感じずにはいられません。実は、うださんたちがこの家に越してきた大きな理由が、もうひとつありました。

うださん:
「下見に来て、初めて土間の台所を見たときに、なんだかリズミカルに暮らしている風景が目に浮かんだんです。ここなら、きっと楽しくなると思いました」

次回は、そんな「土間の台所」を楽しみながら育てている様子をご紹介します。

(つづく)

【写真】木村文平

 


もくじ

 

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卯田真志(うだまさし)

木工作家。1983年秋田県生まれ、千葉育ち。千葉県立市川工業高校インテリア科を卒業後、大道具会社に入社。壊される切なさを苦に、手仕事を生かせる道へ向かう特注家具を作る家具工房で勤務した後、鍛錬を重ねるため、城南職業訓練校にて学ぶ。2011年秋より「monom」として活動をスタート。現在は、展示会やクラフトフェアを中心に木の器・カトラリー・カッティングボード、ランプなど暮らしにまつわるものを制作する。http://monomusubi.com/

 

ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。

 


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