【金曜エッセイ】二十歳の娘に指摘されて、ぐうの音もでない
文筆家 大平一枝
第四十九話:ストップ自慢話
とりわけ個人的なことを書こうと思う。
最近、誰かとじっくり話したあと、落ち込んで眠れなくなることがよくある。なぜあんな事を言ってしまったんだろう、傷つけたのではないか、等々。反省の種は次々生まれ、尽きない。
次第に、自分に嫌気が差す要因は自慢にあると気づいてきた。そんな矢先、私の取材用インタビューのテープ起こしを手伝った二十歳の娘に言われた。
「ママは、取材相手の気を引こうとして知ったかぶりや自慢をして、それがことごとく失敗している」
身内は容赦がない。そのとおりなのでぐうの音も出ない。ますます滅入った。
どうしてこんなにくよくよするのか、さらに掘り下げて考えみる。それは、私自身が他人の自慢が嫌いだからだ。苦手な人の短所は、意外と自分にも共通するもの。だからよけいに気にかかるのだろう。
今思えば大変失礼な話だが、若い頃“定年したおじさんとの飲み会恐怖症”だった。会社員時代の手柄話をされると、「すごいですね」「そんなに?」「さすが」の三つの相槌しか打てない。過去ではなく、今を聞きたい。また、成功ではなく失敗から学んだことを聞きたいと、内心毒づく。
ところが自分は今、そうなりかけている。あれもこれも知っていると威張りたい。すごいですねと言われたい。だからあとから恥ずかしくなるし、たまらない自己嫌悪に陥る。このスパイラルの、なんと非生産的なことよ。
では、どうしたらいいんだろう。悶々と考え続ける。逆に私が惹かれる素敵な人はどんなだろうか。手柄をひけらかさず、知ったかぶりをせず、控えめで、じつは秘めた力を持っている人である。
心理学の書籍だったかウェブサイトか、真に他から認められるような実力は、わざわざ自分からインフォメーションしなくても自然に伝わり、評価されるものという一節があった。自慢で人の関心をひきつけても、相手は内心は辟易としているかもしれませんよ、と。シンプルだが、パンチのある言葉だ。
それでも、失敗することはある。だめな癖はそう簡単に直らない。そういうときは、失敗を胸に刻みなさい、と書かれていた。
私はかつて、“自慢されて嫌”、“この人は苦手”、で終わっていた。流さずに、なぜそう思うのか胸に刻み、考えれば、自分にも似たところがあるからだとわかる。人は合わせ鏡だと思えば、あそこから学ぶことはいくらでもあったはずだ。
言ってしまった後味の悪さも胸に刻もう。言いたくなったらそれをとりだしてみよう。これを言って相手は本当に楽しいか?自分はどんな気持ちになる?
言うは易し。でも、考えることができてよかった。
悩んだり、考えたりすることをやめたら、心の成長が止まる。これも、胸に刻んでおくとしよう。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。『天然生活』『dancyu』『幻冬舎PLUS』等に執筆。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)など。朝日新聞デジタル&Wで『東京の台所』連載中。一男(23歳)一女(19歳)の母。
大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com
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