【母とわたしの現在地】後編:小さくても。日々、生きるよろこびを感じてほしい(江面旨美さん)

編集スタッフ 壽山

去年の夏、80代の母がひとり暮らしになって、10年先の未来について考えるようになりました。今はまだ元気ですが、病気をしたり、出来ないことが増えたとき、どんなサポートが必要で、自分に何ができるのか。

歳を重ねる親との向き合い方について、バッグ作家の 江面旨美 ( えづらよしみ ) さんに全2話でお伺いしています。

前編では、100歳になるお母さまに今までどんなサポートをされてきたのか詳しく伺いました。

つづく後編では、お母さまが室内でも生きるよろこびを感じられるよう、暮らしのなかで意識していることについてお話しいただきます。

前編をよむ

外出できなくても。少し先に楽しみがあるだけで

江面さん:
「母はもともと活発な人で、80代まではよく美術館に出かけたり、歌舞伎や文楽を観に行ったり、おしゃれするのも大好きだから、今もそうやって外出できたら楽しいだろうなと思うんです。

ただ4年前に肺を悪くして酸素ボンベをつけて暮らしているので、なかなか昔のように出かけることは難しくなってしまいました。

今は家で過ごす毎日ですが、小さくても生きるよろこびを感じてもらえたらと思って、季節の飾り付けをしたり、お花を飾ったり、好きな色の洋服をプレゼントしたり、できることをしています」

江面さん:
「好きが高じて、母は70代半ばから急に絵を描き始めたんですけど、描きためたものがあったので、小さな画集のようなものを作ったりもしました。私の本が出るときも、『そこまでは生きていなくっちゃね』と楽しみにしてくれていました。

新緑がきれいな時期がきたら、ドライブに行く約束をしたり。お誕生日に食べたいものを一緒に考えたり。小さなことでも、少し先の楽しみがあるだけで、人ってもう少しがんばろうかなと思えたりするじゃないですか」


100歳にうれしい、スマホのある暮らし

思うように外出できなくなってからは、スマホも暮らしの楽しみのひとつになっているのだとか。

江面さん:
「100歳ですが頭はしっかりしているので、年齢の割にはスマホを使いこなしていて、何かあったらすぐに連絡がとれるので助かっています。

好きだった歌舞伎や文楽にまつわる映像を見たり、わたしが共有したおすすめの動画チャンネルを見たりしています。

たとえば歌舞伎をみに行ったあと母に一連のことを共有すると、その演目の役者や筋書きについて詳細にレクチャーしてくれるんです。

反対に私が詳しい分野の話では、『お母さん、聞いてよ、じつはね...』なんて言いながら私のレクチャーが始まって。そうすると母が『よしみちゃんの話は面白い!きっと正しい』と『そうなのよお母さん、きっとじゃないわよ、本当にそうなんだから』って(笑)

スマホのおかげで共有できる楽しみが広がることもあって、お互いが聞き手に回ることで、母にも私にもよきアウトプットの場になっています」


いちばんのエンタメは、ご近所物語

新しいことをインプットするのも楽しいお母さまですが、いちばんよろこぶのは、家族で過ごした地元のことを振り返ることなんだそう。

江面さん:
「たとえば昔、あの商店街にこんなお店があって、こんなところが良かったよね、楽しかったよねぇという、ご近所話がすごく盛り上がるんですよ。私が面白おかしく話していると、弟も入ってきて、家族3人のむかし談義がはじまって、しばらくそんな時間がつづきます。

母もよろこぶし、弟も安心するらしいんですよ。弟はそんなにおしゃべりな方ではないので、私がかたりべになって盛り上げてみんなで笑うんです」


母の背中に、自分の老後をおもう

江面さんは今、75歳。お母さまの背中を見ながら、自分の老後を考える時期でもあると感じています。

江面さん:
「私が結婚してすぐに母は病気をして、それからも何度か違う病気をして、少しずつ体が弱っていく姿も見てきました。なので病気をしたらこういう変化があって、何歳まではこういうことができて、何歳からは難しくなっていく、というのもだいたい想像がつく。母をみることで、自分の老後も考えるようになりました。

残された時間がなんとなくわかるから、今できることもやっておきたいと思うんです。

たとえば私は一人旅が好きなので、80歳までは行ってみたいところに一人旅をして、そこでしか見れないものを見て、そこでしか食べられないものを食べてみたい。一人旅って、人生の縮図みたいだなと思うんです。

どこまで自分を楽しませることができるのか、移動中のコンディションをどう整えて、どこまで予定を入れるのか、一連のことが自分の今の状態をテストするとてもいい機会になるんです」

江面さん:
「それに飛行機に乗るようなところでなければ、電車で数時間で帰ってこられますから。数年前に会津に行ったときも、現地に着いた翌朝に母から具合が悪いと電話がかかってきて、トンボ帰りしたことがありました。

母には『体が動くうちに一人旅をしたい、でもいつでも帰ってこられるわよ』と言っています」

歳を重ねる親と向き合うことは、自分がこの先どう生きて、どんな晩年を過ごしたいのか、あらためて考える時間でもあるんだなと、お話を聞いて思いました。

老いるとはどういうことか、図らずも子どもに体現してくれる親の背中に、どう寄り添って、どんなことを思うのか。親からもらう、最後のおおきな宿題のようにも感じます。

今の私には難しくて、すぐに答えは出ないかもしれないれど、考え続けていきたい。考えるのに疲れたら、江面さんのように母とむかし談義でもして、肩を並べてひと休みしながら。この先の10年、20年を過ごしていけたらと思いました。


【写真】長田朋子



もくじ

江面旨美

バッグ作家。30代の頃、主婦業のかたわら革や帆布でバッグ作りを始める。36歳でバッグブランド「umamibags」を立ち上げ、現在は年に数回、全国で催される個展でバッグを販売する。


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