【雑貨のはなしをしよう】生活を豊かにするガラス瓶。〈WECK〉のキャニスター

渡辺平日

「日本でいちばん人気の雑貨ってどれだろう?」

たまにそんなことを考えます。けっこう難しい問題ですが、もし人気度を売上数で決めるとしたら、〈WECK〉のキャニスター(保存容器)は上位にランクインしそうです。

イチゴマークでおなじみの保存容器が、日本で本格的に展開されはじめてから約20年。いまでは全国の雑貨店で取り扱われるようになり、日本独自のパーツも開発されています。さいきん雑貨に興味を持ったという方でも、一度は見たことがあるのではないでしょうか?

さて、ここで質問です。WECKがいつごろ誕生したかはご存知ですか? その名前の由来は? ……たぶん、ほとんどの方が分からないと思います。

もちろん分からなくてぜんぜん問題ありません。でも、そのブランドのストーリーに触れると、使うのがもっと楽しくなります。ということで今回は、知られざる「WECKの世界」にググッと迫ってみようと思います。

 

WECKが生まれた頃、日本は明治時代でした

西暦1900年。パリ国際万博が開催されたこの年にWECKは誕生しました。

生まれ故郷は西ヨーロッパのドイツ。ドイツといえばウインナーやハム、ザワークラウトなどが有名ですが、実はこれらはすべて保存食として生み出されたもの。長くて厳しい冬を乗り越えるため、人々は食料を長期保存する方法を模索してきました。

そうした歴史のなかで生まれたのがWECKのキャニスターだったのです。

その時代の密閉容器は、熱処理が難しかったり、空気が入り込んで食材が傷んだりと、安心して使えるものは少なかったそうです。そこでWECKの研究チームは実験を重ね、より手軽で、より安全な方法を確立していきました。

 

シンプルで機能的。画期的だったWECKのキャニスター

基本的な構造はそのままに、3回のモデルチェンジを経て、1990年頃にいまの形にたどり着いたWECKのキャニスター。ほかの保存容器にはない独自の機能を備えています。

たとえば、密閉されるとパッキンの突起部が下に向くという仕組み。熱処理の成功(または失敗)がひと目で分かって便利です。密閉状態を解除したいときは、突起部を引っ張るだけでOK。

ほかには、内容物が傷んだらすぐに分かる仕組みにもビックリしました。食品からガスが発生すると、その圧力でフタが自然に外れるようになっているのです。ジャムやソースなんかを長期保存するときも安心ですね。

しかし、90年間も試行錯誤を続けるとは……。すさまじい情熱です。きっと、「人々の生活を豊かにしたい」という強い想いが、その動機になったのでしょう。

そんなWECKを立ち上げたのは、ドイツ生まれのJOHAN WECKさん。ブランド名は彼の名前に由来するものです。

そのことを知って以来、キャニスターを使うたびに「WECKさん」のことを想像するようになりました。こんなに画期的なアイテムを考案するほどだから、すごいアイデアマンだったのでしょうか。

うっかり話が逸れてしまいました。脱線ついでにいうと、むかしはイチゴマークではなく、ハートマークがあしらわれていたそうです。いったいどんなデザインだったんでしょうか? 日用品愛好家としては気になるところです。

機能性だけではなく、デザイン性にも優れるのもWECKの強みです。

個人的には、そのちょっぴりレトロな色合いが気に入ってます。素材の50%以上がリサイクルガラスで、脱色剤なども使っていないから、ガラス本来の色に近い色味に仕上がっているんですね。

新品のガラスではないので、シワや気泡が入ったりしますが、それは環境に配慮しているという証拠。個性と捉えてあげれば愛着も増すというものです。

 

僕のおすすめは、食卓を華やかにしてくれるジュースジャー

キャニスターは3サイズ展開のものが多く、大きすぎたり小さすぎたりで、うまく収納できないこともしばしば。

「保存容器を買ってきたのに、冷蔵庫にうまく収まらなかった……」と頭を抱えるのは、誰しもが一度は通る道です。

バリエーションが豊富なWECKのキャニスターなら、そんな悩みもだいぶ減ると思います。むしろ、選択肢が多すぎて迷ってしまうかもしれませんね。むかし、インテリアショップで働いていたのですが、よくお客様から「どれがおすすめですか?」と尋ねられました。

もしひとつだけ選ぶとしたら。かなり悩みますが、僕ならジュースジャーをおすすめします。1000mlとちょうどいいサイズだから、日常の様々なシーンで活躍してくれますよ。

たとえば紙パックのジュースをこのジャーに移しかえれば、それだけで食卓がパッと華やかに。別売りのプラスチックのフタを用意すれば保存も楽々です。

ホームパーティなど、特別なシーンにもばっちり対応。旬の果物をジャーに入れ、そこにワインを注げば、自家製サングリアの完成です。

これから寒くなるから、柚子のホットサングリアで温まるというのはいかがでしょうか(耐熱ガラスではないので、急激な温度変化にはお気をつけください)。

うーん、でもなあ。たとえばモルドシェイプは調味料の保存に便利だし、ストレートタイプは筆記具の整理にも活躍してくれます。チューリップシェイプにはキャンディーなんかを入れるとキュート。

どれかひとつといわず、気になったものを一通り揃えてみるのも良いかもしれません。いろいろなサイズのキャニスターが並んでるのって、とってもかわいいですよ。

食生活を豊かにするために生まれたWECKのキャニスター。ドイツ語の辞書に「einwecken(WECKで瓶詰めする)」という言葉が載るほどに、人々の生活にしっかりと根付いています。

そしていま、この日本でも、WECKはスタンダードになりつつあります。

特別な目的のために生み出されたものが、時間や時を越えて、普遍的な存在になっていく。そう考えると、小さなガラス容器が、実際以上に重みのあるものに感じられます。雑貨って、ほんとうに面白いですね。

……それにしても。21世紀に、9000kmも離れた日本で、こんなに愛用されるようになるなんて。さすがのWECKさんでも想像できなかっただろうなあ。

 

本日登場したアイテム

【イラスト】イチハラ マコ
【写真】クラシコム

 


渡辺平日

日用品愛好家。海の見える小さな町で生まれ育ちました。毎日が平日のつもりで、日夜せっせと文章を書いています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。主な寄稿先は『LaLa Begin』『和樂web』『goodroom journal』など。Twitterアカウントは@wtnbhijt

 


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