【毎日の、ちょっといいコト】スウェーデン在住。ヘルシーな思考をたもつ習慣とは

編集スタッフ 二本柳

ちょっとの「いいな」を積み重ねること。

ただそれだけのことです。

身のまわりの生活が変わりはじめた昨年以降、ほんのささやかな「いいな」に救われた日がいくつあったことでしょう。

たとえば部屋に花を飾る日が増えたのは、きっと偶然ではないはず。

いまだから目を向けられる小さな発見、日々のよろこび。みんなが見つけた最近の「いいな」を聞いてみたくて、4名の方々とzoomでお話しさせていただきました。

今回ご登場いただくのは、スウェーデンで作曲活動をする林イグネル小百合さん。映画『青葉家のテーブル』でも一部楽曲を提供くださっています。

林さんは音楽家として活躍する一方、3歳の娘と夫の3人暮らし。その飾らない日常をVlogにまとめてYouTubeで配信しています。

林さんのVlogは、心地よいオリジナル音楽とも相まって、なんとも穏やかな時間。私は早起きした朝や、子どもを寝かしつけたあと、心を静かにしたいときに繰り返し観ています。

今日はそんな林さんに最近の「ちょっといいコト」3つ、お聞きしました。

 

7月。林さんの暮らす北欧にも夏がやってきました。

冬が長く曇りが多い北欧の気候は、林さんの出身地でもある福井県のそれと似ています。

でも子どもが生まれて家にいる時間が増えると、はじめてその空の暗さに気が滅入りそうになったとか。

「少しでも太陽の光を浴びたいと思って、それまでおもちゃ置き場になっていた窓辺のカウンターに椅子を置いてみました。それが大正解で。

普段はダイニングテーブルでの食事がメインですが、ここで朝食をとったり、コーヒーを飲んだりするとちょっとカフェみたい。非日常を感じられるんです」

見慣れた家の景色も、ちょっとの工夫で非日常に。

林さんの暮らしを観ていると、そんな非日常の仕掛けがいろいろなシーンに散りばめられています。

そのひとつに欠かせないのがフィーカの時間。カフェに限らず家の中でも、たびたび家族3人テーブルを囲んでは、おいしそうなお菓子を頬張ります。

でも林さんは音楽家であり、母でもあって……一体どこにそんな時間があるのでしょう。1日は同じ24時間なのに、せかせか見えない理由が気になります。

「時間ができたな、というときに敢えて『やらなきゃいけないこと』に手を出さないようにしているかもしれません。

たとえば夜、遊び盛りの3歳児が寝たあとは貴重なひとり時間です。

本当はやっと部屋も片付けられるし、明日の準備をしておけば翌朝あわてずに済むはず。でも “効率” を手放すことを許してくれるのがフィーカなんです。

ひとり時間は、最近凝りはじめたコーヒーをドリップしたり、私しか食べない白玉をササッと作ったり贅沢に過ごします」

スウェーデンでは仕事のミーティングでもラフに座って話しながら、お菓子を食べて、バカンスの話をしたら、はいおしまい……というのも珍しくないとか。

「この時間は何のために?」なんて目的を意識しない、林さんいわく「ルールのいらない時間 」です。

 

子どもの成長とともに増え始めたおもちゃの片付けにも、林さんならではのビジョンがありました。

「おもちゃの収納は、なるべく『隠さない』ようにしたいと思っています。

娘を見ていると、たとえばLEGOとシルバニアを合体させたり、バッドマンとシルバニアが一緒に同居していたり、遊び方に仕切りがないんですね。

そのごちゃまぜの世界は子どもの創造性というか、とても魅力的だなと思うんです。

だから私がきれいに分別してしまったらもったいないなぁ……と。あまり邪魔したくないなって思っていて」

「私は作曲の仕事をするのですが、スタジオは何もないスタイリッシュな空間よりも、たくさんの楽器がごちゃごちゃっと並んでる方が好きなんです。

そこからまたアイデアが生まれることもあって、整理整頓されすぎてるよりもむしろ良かったりして。

まぁ、それを綺麗に並べられたら一番いいんですけどね(笑)」

なるほど、子どもの目で見てみると「すっきり整った状態」だけが正解ではないと気づかされます。

子どもを観察することを忘れず、その遊びかたにフィットした収納を日々模索する林さんです。

 

3歳になった娘の “コビトちゃん”。「ママ、ママ!」と駆け寄ってくる時期は過ぎ、最近では「ママと同じことをしたい」という意欲が高まっています。

そんな成長の喜びと同時に感じているのが、「ちゃんとコミュニケーションを取らなくては」というプレッシャー。

そこで林さんが実践しているのが「遊ぶ時間を切り分けない」という考え方でした。

「今日も8時間おうちで子どもの相手をしなければ……と、そんなふうに考えるとやっぱり大変ですよね。

でも子どもはなんでも遊びに変える才能をもってるから、1日の家事に巻き込んじゃえばいいと考えるようになりました」

「大人が料理をしたり掃除や洗濯をしたりするあいだ、娘も1歳くらいの頃から隣に座らせていたんです。ときどきレタスをちぎるとか、卵の殻をむくとか、コロコロでカーペットを掃除するとか、そういう簡単なタスクも楽しいみたい。

『子どものための遊び』と大真面目にとらえると疲れてしまうから、家事の時間を一緒に過ごす……くらいに考えればそれだけで気がラクに。それも立派な遊びだと思ってます」

家事や仕事に追われていると、つい子どもと向き合えていない罪悪感を抱きがち。

でも子どもと「向き合う」ことがすべてじゃない。子どもと「同じ時間をすごす」と捉える選択肢を持てたなら、どれだけ心が健やかでしょう。

「ながら」ではなく、「一緒に」。

それを変換できるかどうかは、私たちの心持ちしだいです。

視野が狭くなりそうなとき、一生懸命になりすぎたとき、林さんの思考をそんなふうに柔らかくしてくれたのが、フィーカという「余白」を生む習慣でした。

「『幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ。』フランスの哲学者・アランがそんな言葉を残しています。

フィーカの文化はまさにそんなことだと思うんです。

子育ても仕事も、ほっと一息つく時間をもつことでズームアウトした目線を保つことができるのではないかと思います」

 

林イグネル小百合

スウェーデン/ストックホルム在住の音楽家・アーティスト。2013年よりストックホルムを拠点に、映画やCM音楽、空間インスタレーションアート、多ジャンルのアーティストとコラボ等幅広く創作活動を行う。2020年よりYouTubeチャンネル”Lilladag 北欧暮らしと音楽”を運営。オリジナル音楽と映像で日々の暮らしを綴っている。
https://www.youtube.com/c/lilladag


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