【45歳のじゆう帖】私にとってのバイブル
ビューティライターAYANA
バイブルとは理想の集積
バイブルはありますか?と聞かれたら、選ぶのに悩んでしまうくらい沢山あって、答えるのに困ってしまいます。
私は自分に自信はないけれど、自分の好きなものには絶対的な自信を持っている──というのは高校時代から言い続けているセリフで、今も心底そう思っているのですが、バイブルというのはいわば「自分の好きなもの」の集積である、と言えるように思います。そこには、こうでありたい、こうなりたいと感じるピースが詰まっているのです。
アインシュタインは「常識とは、18 歳までに身につけた偏見のコレクションである」と言ったそうですが、これはその人の嗜好性が18歳あたりで大体完結するって意味なのかなと、個人的には思っています。私はこういうものが、もうどうしようもなく好きだな!という、方向性です。
もちろん18歳を過ぎても、25歳になっても37歳になっても50歳になっても、自分の好きなものや感動の質、目の前に見える世界のようなものはどんどん更新され、広がっていくと思います。でも、その素地というか土台というか根っこのようなものは、もしかしたら18歳くらいまでに完成するのかもしれません。
私にはたくさんのバイブルがあって、その数は歳を重ねるごとに増えてきているのですが、たとえば20代のときに感銘を受けたバイブルからは、今読んでも同じような感動を受け取ることができます。
こういうとき、人は自分でいくらでも変わることができるけれども、本質的に変わることは難しい──という、一見矛盾していることをしみじみと実感します。軸足は不変だとしても、そこを起点にいくらでも変われる、ということですね。
鈴木いづみとの出会い
今日は数あるバイブルのなかから、鈴木いづみ(敬称略)の本について書いてみます。出会ったのは25歳くらいの頃(およそ20年前)だったと思いますが、すでに彼女は他界しており(86年)、死後10年経ったからとかいう理由で、文遊社から全集が出ていたのを、たまたま本屋でみつけたのでした。
鈴木いづみという人をどのように形容したらよいのでしょう。おそらく肩書きは小説家や文筆家なのですが、とにかく佇まいとキャラクターが魅力的であり、荒木経惟の写真のモデルになったり(写真集も出ています)寺山修司の劇団「天井桟敷」に参加していたこともあります。
そしてサックス奏者の阿部薫と結婚していたことでも有名で、ふたりの結婚生活と人生の終わらせかたは壮絶であり、その様子は『エンドレス・ワルツ』という映画にまでなっているのですが、私はそこにはあまり興味がなく、ただ鈴木いづみの書く文章、文字に強烈な影響を受けてしまいました。
最初に読んだときは「私の考えていることがここに文章化されている」と思いました。しかも、自分が立っているところから少し未来で書かれている文章という感じなのです。同じようなことを考えているのだけど、ここまではっきりと、最適な言葉にすることはできなかった、という感じ。
おそらくバイブルとは、概してそういうものなのではないでしょうか?
彼女の作風はSFだったり、自伝的小説(恋愛のようで恋愛ではない)だったり、エッセイだったりするのですが、そのどれもが、とにかく切れ味がするどく、キャッチーで、フラットで、リズムと着眼点が魅力的なのです。
「こう生きればいいんだ」と教えてくれるもの
「わたしは、男でも女でもないし、性なんかいらないし、ひとりで遠くへいきたいのだ」「わたしは不幸がすきではない。だが厚顔無恥な「幸福」は大きらいだ」「ひとは、自分のもっているものしか、もっていないのだ」「冗談みたいにじゃなく、冗談そのもので生きたいけれど」「人生には小説や映画のようなカッコいいラスト・シーンはない。きょうはきのうのつづき。あしたはきょうのつづき」
『いづみ語録』文遊社 p.64〜98より一部抜粋
なぜこの人はこんなに私のことがわかるのだろう?そんな風に思うのは傾倒のはじまりという気がします。そのとき私はまだ20代で、そう、私はこういう風に生きていきたいのだ、と確認作業をすることに夢中になりながら、1冊また1冊と鈴木いづみの本を集めていったのです。
今思えば、私は孤独だったのでしょう。誰ともわかり合えない気がして、でも、はっきりと断絶しているほどは絶望的でもなく、自分がどこへ向かえばいいのかわからなくて、いつもなんだか現実世界のなかで居心地悪くしていました。
でも、空想の世界へ逃げるほど想像力も豊かではなかったし、なによりも現実のなかでどうにかしたかった。特に珍しくもない平凡な若者の感情だと思うのですが、どうしたらいいんだろう?誰か生きる方法を教えて欲しい、という感じでした。鈴木いづみはそんな私に「在りかた」を教えてくれました。ことばを通して。
今も、私の本棚には1冊も欠けることなく彼女の本たちが並んでいます。ページをひらくと、初めて出合ったときのような、全身の血が沸騰して逆流するような、快感と覚醒と緊張が折り混ざったような感覚に支配されます。さすがに、あの頃よりは少しだけ大人になっていますが。
鈴木いづみの文章はするどいけれど、やさしい。「地球のおわりとか人類の死滅なんて、ねがってない。みんな、たのしく生きていてほしい。(※)」と彼女は言う。私も本当に、そう思います。
※『鈴木いづみコレクション4』文遊社 p.259より一部抜粋
【写真】本多康司
AYANA
ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang http://www.ayana.tokyo/
AYANAさんに参加してもらい開発した
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