【おしゃれの話】後編:誰もがポジティブに「おしゃれ」を楽しめる服を作りたい(saqui デザイナー・岸山沙代子さん)
編集スタッフ 奥村
ファッションブランド『saqui(サキ)』。シンプルなデザインの中に、質感やディテールなど、他にはない個性がきらりと光るブランドです。
今回は、代表の岸山沙代子(きしやま さよこ)さんにお話を聞きに行きました。
前編では、編集者だった岸山さんが30代でパリに留学し、服のデザイナーに転身するまでの経緯を聞きました。
後編の今回は、服作りで大切にしていることと、岸山さんの考える「おしゃれ」について伺います。
「着る人を選ばない服」であってほしい
『saqui』のブランドとしての個性は、デザイン性や質の高さはもちろん、着る人への優しい配慮があること。
基本のサイズは36〜40の3サイズ展開ですが、展示会では、お客さまの体型や好みに合わせて、お直しや裾上げにも細かに対応している岸山さん。
コロナ禍によりオンラインでの展示会となった昨年は、試着のできないお客さまのためにと、希望に応じて32〜42まで、全6サイズものラインナップを揃えたというから驚きです。
一人一人のサイズに合うものを作ること。それは『saqui』として譲れない部分だといいます。
岸山さん:
「私は、着る人を選ぶ服は作りたくないんです。誰でも袖を通せて、その人が美しく見えるような服が作りたい。
パリに居た頃、街行く人たちが、身体のラインが見えることも厭わずに堂々と好きな服を着て歩いていました。おしゃれを楽しんでいる姿が印象的で、それがすごく素敵だった。
対して日本では、それぞれの体型に服を合わせるのではなく、服に体型を合わせているような気がして。そこに違和感を持ちました」
▲緑溢れる敷地の中に、ひっそりと在るアトリエ
岸山さん:
「私は、体型がおしゃれを左右する要素だとは思っていません。体型に合う服と出合えれば、その人はもっと美しく見えるし、装うことが楽しくなるはず。
だから、誰にとっても『似合う服』を作りたい。それはずっと変わらない思いです」
採算よりも大事なのは「最高の布を使うこと」
『saqui』の服作りは、布との出会いから始まるという岸山さん。
布はほぼ海外からのインポート。大手の服メーカーでは、利益を考えると選べないような上質な布が、『saqui』では服の素材になります。
岸山さん:
「布を選ぶ時間が本当に楽しいんです。こんな手触り、こんな質感のものがあるんだとワクワクして。
これならこんな服に仕立てたい、と布から服の着想が生まれます」
デザインから販売までの工程をなるべく自社で行うことで、余分なコストを削減し、できるだけ価格帯を抑えること。それが『saqui』の強みでもあり、ゆずれない軸だといいます。
けれど、このコストも含めて価格を上げるなど、利益を重視したビジネスをすることもできるはず。
手に入れやすい価格にこだわりながらも、「作りたい布」で作ることを譲らない意思はどこから生まれるものなのでしょうか?
今の自分を「もっと素敵に」してくれるものが、服だから
岸山さん:
「素材にこだわった洋服は、質感や見た目だけじゃなく、たたずまいが違います。
それを身につけると、気持ちも上がりますし、背筋が自然と伸びる。服が自分を引き立たせてくれるような感覚があるんです。
服は、自分をもっと素敵に見せるためのものです。私はそう思っています。
ただ寒いから着るとか、機能的だから身に着けるとか、服にはそういった面もあるけれど、決してそれだけではない。
だから素材(布)にはとことんこだわって、着る人にもその気持ちを共有してもらえたら嬉しいと思ってます」
それでも、おしゃれが優先できない日々もある
コロナ禍の昨年、服の売れ行きは業界的にも落ち込みました。『saqui』としても、これからに対して不安がゼロなわけではないといいます。
けれどその中で、意外だったのが、「鮮やかなピンクのボトムス」が売り上げを伸ばしたこと。
「あ、みんなおしゃれがしたいんだ」。そう思い、少しほっとしたという岸山さん。その気持ちに、共感したといいます。
岸山さん:
「鬱々とした気持ちを変えたい。そのために服があるんだということを、改めて感じました。
けれど、おしゃれをするのが難しい時もありますよね。私は今年出産をしたのですが、育児が始まったことで、赤ちゃんを抱っこするときは、お気に入りの服を選ぶのにも抵抗があるんだと気づいて。
動きやすくて自宅で洗える洋服のありがたさも知りました。
それでもやっぱり、シルクのブラウスに袖を通したいし、おしゃれがしたい。その気持ちは変わりません。
だからこそ、実用も兼ねながら、着ることでそっと気持ちを上げてくれるような服を作りたい。そう思っています」
おしゃれとは「ポジティブな気持ち」のこと
「服は、自分をもっと素敵に見せるためのものですよね」。インタビューの中で何気なく岸山さんが発した一言に、はっとしました。
確かにその通りなのですが、なんだかその気持ちに、しばらくご無沙汰していたような。「おしゃれ」とはどんなものなのか、改めて原点に気づいたような気がしたのです。
はじめて『saqui』の服を目にしたとき、「似合うか」よりも「袖を通してみたい」と先に感じたこと。
鏡の前で合わせるには、少し臆してしまうかもしれない。けれど思い切って合わせてみたら、ドキドキして、この服を着て歩く自分を想像して、少し背筋が伸びる。
そんなポジティブな気持ちになれることが、おしゃれの醍醐味だったと思い出しました。
「来シーズンは、カラフルなラインナップでいこうと思っているんです」と岸山さん。鮮やかなピンク色のノースリーブワンピースや、シックなギンガムチェックの布で仕立てる、ノースリーブのセットアップ。
きっとまた沢山の人をワクワクとさせるだろう服たちが、アトリエには控えています。
岸山さん:
「はっと目を引くようなデザインですよね。これを着て、ちょっと素敵なレストランに行くのもいいし、特別な日を過ごしてほしい。
あのワンピースを着ている人、素敵だなって思ってもらえるような服にしたいんです。
服が素敵だなと思うとき、その人が持つコンプレックスのことなんて、誰も気にしていないでしょう?
おしゃれとは、何かをカバーすることじゃないと思うから。着る人が明るい気持ちになれる服を、これからも作っていきたいです」
【写真】鍵岡龍門
もくじ
岸山 沙代子
大学卒業後、手芸や服飾系の出版社に勤務。その後、雑誌「LEE」のエディターとして多くの料理家やスタイリストとの仕事に携わる。34歳から約4年をパリで過ごし、帰国後、ファッションブランド『saqui』(サキ)を立ち上げ、瞬く間に人気ブランドに。現在は年に2回、東京と神戸で受注会を開催している。
『saqui』のオンラインショップはこちらから。Instagram:@saqui_official。
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