【45歳のじゆう帖】「手放しかた」のヒント

ビューティライターAYANA

別れは、ある日突然やってくる

フリーランスで仕事をしていると、継続的にやらせていただいていた案件がある日突然終了してしまうことがあります。

たとえば、あるメーカーさんとのお仕事で、新商品が出るたびにそのコンセプトを文章にするお仕事をやらせていただいているとします。これが何年も継続していたりすると、次回も当然お願いしてもらえるだろうとなんとなく思ってしまいそうになります。ですが、それは怠慢にすぎませんし、突然終わりがきても何ら不思議ではありません。

あるいは「新しくこういうプロジェクトを立ち上げるから、そのときは必ず仕事をお願いしたい」と事前にご連絡をいただいていたとしても、その後特に音沙汰はなく、気づいたら私が関係することなく、すでにその案件は世に出ていた、なんてこともあります。

私のコントロールできない、預かり知らぬところで、流れが決定されてしまう。特定の契約を結んでいて、かつそこに抵触する場合は別として、その多くはフリーランスの宿命であると思います。

これは、ちょっと悲しい言い方をするなら「必要とされていると思っていたのに、蓋を開けたら必要とされていなかった」ということであり、精神的にはややつらいものがあります。もしかすると、ずっと相思相愛と思って付き合っていた相手に、ある日突然別れを告げられる──みたいな話と、そう遠くないかもしれません。

そして、フリーで仕事をしていないとしても、こういった「別れ」の機会は少なからず誰にでも訪れるのではないでしょうか。なぜなら、この手の話は仕事に限らず人生のあらゆる局面で起こるからです。

さっぱりと別れを決意する

こういった機会に「きれいにその案件と別れることができるかどうか」というのは、その後の人生の流れを大きく左右するような気がします。「蓋を開けたら必要とされていなかった」ときに、どういった振る舞いをするのか。

別れの形は、美しいものだけではありません。途中まで関係が進行していたのに、ある日突然音信不通になったり、うまくいっていると思っていたらある日突然喧嘩別れの危機が訪れることもあります。

そこに不条理や憤る気持ちがあっても、不用意に責めることなく、かといって媚びたり萎縮することもなく、きれいさっぱりと別れを「決意する」。もっと言えば「そんなこともあるかもしれませんね」と涼しい顔で忘れることを「決意する」。

10年フリーランスでやってきて、こちらから能動的に、そしてニュートラルな感情で関係を断つ努力が、結局その後の人生を大きく開かせてくれるという実感がなんとなくあります。

これまで何度もそういった別れを経験してきましたが、泣き叫ぶように抵抗すればするほど、まず関係はこじれ、悲劇の方向へと進みました。だから抵抗しない。もちろん、陰で泣くのは致し方ない。信頼できる人に思い切り愚痴を言ったっていい。でも、その場ではさっぱりと手放すほうが、いい運のタネが撒けている感じがするのです。

新しい風を呼び込むスペースを作る

人の感情というものは本当に頼りなく、時間とともに辛い記憶は薄らいでいき(そうしないと生きていけないですから)、ひとりひとりが持つ記憶は少しずつその人に都合のいいようにデフォルメされていきます。出来事はひとつでも、真実は人の数だけある──と言われるのは、それゆえだと私は思っています。

そして、そのときの感情や関係性がそのまま一生続くわけではない。一度二股に別たれた道筋が、時を経てまた一本になることもある。そのときは、辛い気持ちで手放したあのときとは、多少なりともお互い別人になっている。少なくとも同じ感情を有してはいないわけですね。

もっと漬かっていたい温泉から出なければならないような、まだ履きたいお気に入りのスニーカーのサイズが小さくなってしまうような。そういうときに、さっぱりと気持ちを切り替えることができないと、お湯はどんどん冷めていき、足はどんどん圧迫されていきます。

「不要なものを捨てないと、新しいものが入ってこない」とはよく言われることです。クローゼットに服がぎゅうぎゅうに入っていたら、新しい服を入れられない。そしてぎゅうぎゅうになっている服をすべて把握し、ちゃんと管理できているのか?というのも怪しいものです。

別れはさっぱりと、手放すときは潔く。いい思い出を極力胸に、前を向いていくほうがきっといい。執着せずに(少なくともそれを目指して)、バイバイ、またいつかって。そうすると、きっと自分に新しいいいことが巡ってくる気がします。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

AYANAさんに参加してもらい開発した
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スタッフのメイク体験
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