【いつものおしゃれ】前編:好きなことをする時間がたのしくなる。そんな服を、毎日着たい

編集スタッフ 糸井

「おしゃれな人」に憧れるけど……

毎日の服を選ぶとき。定番といえるほどのこだわりなしに『この前と同じもの』を選ぶ日が続いています。不満はないけれど、もっと『心の踊る服』を選ぶ余地もあるんだろうとも思っていて。

今みたいに、おしゃれをしたい気分を忘れたとき。無理なくそれを思い出すにはどうしたらいいだろう、と想像をふくらませています。

毎日の服と、おしゃれ。その付き合い方が知りたくて、話を聞きに行ったのはライアー奏者・手仕事作家の山下りかさんです。

▲鎌倉駅から徒歩で20分ほど歩き、108段の階段を登りきったところに暮らす山下さん。広々とした庭の片隅に、薪ストーブ用の薪が積み上げられていました。

20代の頃に雑誌『オリーブ』のスタイリストだった山下さん。今でも昔なじみの洋服関係者が多いこともあって、お気に入りのブランドの展示会には、毎シーズン足を運ぶそう。

変わらず服が大好きだという山下さんは、たとえば普段の服をどんな気持ちで選んでいるのでしょう。

 

捨てられずにいたおしゃれ着を、作業着に

山下さん:
「スタイリストの頃は仕事柄、おしゃれは我慢がモットー。色も形も、季節を先取るようにあらゆるものを着ていました。ある日先輩の編集者に呼び出されて、『あなた、とにかく黒を着なさい』って言われるほど自由にしていましたね。

今の生活は、庭仕事が中心。予定のない日はずっと庭で過ごすから『普段着』といえば、その作業着かしら。

作業用といっても、毎日着ていて嬉しくなるような格好にしています。今着ているこれも、作業着コーデなんです」

▲スカートは『RALPH LAUREN COUNTRY』というブランドのもので、何十年も穿いているお気に入り。スコットランドの『INVERALLAN』のセーターも、ほつれや破れを直し続けてきた愛用品。

ブルーのニットに花柄のロングスカート、襟元にレースのシャツをちらりと挟んだコーディネート。土にまみれる苗植えも、チェーンソーを使う薪仕事も、この格好でしているのだとか。

山下さん:
「どれも、ずっとお気に入りだった服でした。

お出かけ用には着られないほど着古したけれど、ずっと捨てられずにいて。そんなものが、今の普段着にはぴったりだなと。汚れを気にせず、嬉しく着られるなと思ったんです。いいでしょう?」

 

好きな時間が、もっとたのしめる服ってなんだろう

でも、最初からこのスタイルだったわけじゃないんです、と山下さん。

山下さん:
「本格的に家の改修作業をしているときは、作業のしやすさだけを考えて、息子のお下がりのレインコートを毎日着ていましたね。家造りが終わってからも、庭仕事にはなんとなくそれを手に取って……と」

あるとき、ヘルマン・ヘッセの『庭仕事の愉しみ』という本に載っていた写真を見て、感動したのだといいます。

山下さん:
「筆者の庭仕事にいそしむ様子が、文章だけでなく写真でも載っているのだけれど、どれもね、作業着とは思えないほど着ている服が素敵なんです。

作業のしやすさにプラスして、自分の大好きな時間をよりたのしめるようにと、衣服にも気を張り巡らしている哲学を、そこに感じたんです」

感動と憧れをもとに、早速クローゼットのなかから理想の作業服を見繕って。それを着て庭仕事をすると、たしかに気分が違ったんですよ、と山下さん。

自由に、とびきりのおしゃれをしていたスタイリスト時代から、作業着という制約のなかでの理想のおしゃれ。どちらにも、自分の憧れをしなやかに差し込む姿勢が印象的でした。

 

「いいな」と思う人の「服」にも興味を向ける

今よりちょっと、服を着る時間がたのしくなるには。そんな気持ちをさりげなく、考え続ける山下さん。

自分を振り返ると、『失敗のない、とりあえずの服』を着続けた最近には『服は好きだけれど、服を着るたのしさが遠くにいってしまっている』。そんな気がしました。

山下さんは、どんなものからおしゃれ欲を再熱しているのでしょう。

山下さん:
「今の雑誌やブランドを眺める以外にも、『自分の理想の服装』は、昔の時代のものからも見つけてきました。

たとえば、好きな映画や本の登場人物に惹かれたら、その人の服に興味を向ける。『この人、普段はどんな暮らしをして、どんな服を選ぶんだろう』、『この着こなし、自分が着たらどうだろう』と想像するんです。

そうやって、自分が『おしゃれ』と思えるアイテムやスタイルがわかって、『取り入れたい! 』と熱くなることは多かったかもしれません」

▲ターシャ・テューダーの庭仕事をするときの服装も、お手本のひとつなのだそう。

山下さん:
今の自分のライフスタイルに大きな影響を受けた、アメリカの絵本作家/園芸家のターシャ・テューダーのファッションだったり。自身のまとうものは白/黒だけと決めていた画家のジョージア・オキーフだったり。

絵画に描かれた、落ち穂拾いをしている女性のコーディネートがかわいいな、なんていうのも同じ。見て、服について考えるのが好きなんですね」

▲アメリカの女優キャサリン・ヘプバーンもそのひとりで、私生活を写した写真集は何度も読み返す。上品なパンツに古着を合わせるなど、一箇所を『崩す』ようなスタイルが魅力。お手本にして『わたしだったらどこで崩そう』と考えて取り入れているの、と山下さん。

 

日常のなかで、おしゃれ欲を再認識したら

好きな映画や、本、絵画。誰かを素敵に思ったら、服のスタイルに注目して、取り入れてみる。今の山下さんの着こなしの裏には、服について考えてきた時間や、そのちからへの信頼があるのだなと思いました。

この話をきいてからのわたしにも変化があり、映画を見れば不思議と登場人物の着こなしに目がいくようになったり、あの好きな作家さんの服装ってどんな感じなんだろう……、と気になったりするようになりました。

そのうちに『これと似たアイテムを試してみたい』なんて思い、『おしゃれ欲』を再認識できそうな気配がします。

山下さん:
「そこから、似たような服が買えないかと探す時間もまた、たのしいんですよね」

後編では、山下さんのおでかけ着や定番アイテムについて伺ってみました。

(つづく)

【写真】メグミ

もくじ

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山下りか

ライアー奏者、手仕事作家。雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍したのち、渡米。出産後、子育てを通じてシュタイナー教育に出合う。 1998年に帰国後、現在は手仕事や竪琴の一種「ライアー」の講座、演奏活動などを行なっている。著書に『季節の手づくり 夏と秋』、『季節の手づくり 冬と春』(ともに精巧堂出版)がある。CD「septime stimmung」も販売中。https://rikayamashita.com/


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