【あの人の本棚】後編:読むことで、自分という人間を浮かび上がらせていった(料理家・藤原奈緒さん)

ライター 嶌陽子

料理家の藤原奈緒さんの本棚と本をめぐる特集。前編では繰り返し読みたい本を集めた本棚や、寝る前に読む漫画などを並べた寝室の本棚を見せてもらいました。

後編では料理にまつわる本やずっと大切にしている本などについて、じっくりお話を伺います。

前編はこちら

 

いい料理本を見ると、ちょっぴり嫉妬もします

藤原さんの本棚には、料理に関する本も並んでいました。長年大切にしている本から最近買ったものまで、ジャンルも年代もさまざま。そのひとつが、実家から持ってきたというお菓子の本です。

▲使いすぎて表紙が取れてしまった『オレンジページ』の別冊。「手に入りやすい道具と材料で、どんな人でもおいしく作れるように考え抜かれたレシピだなと思います」

藤原さん:
「中高生の時にこれを見ながらよくお菓子を作っていました。ガトーショコラはすごくよく作ったし、チーズケーキやかぼちゃのシフォンケーキなんかもおいしくできて、感激したのを覚えています」

藤原さん:
「料理本はそれほど頻繁ではないんですが、わあ!って思うものがあると買います。すごくいい本だなと思って、同じ料理の仕事をする者として嫉妬することも。

寿木けいさんの『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』もそんな一冊。そうそう、私も本当にそう思う!って。こういう本、私も作りたかったなあとも思いました」

▲寿木けい『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』のほか、高山なおみ『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ』、按田優子『たすかる料理』も大好きな本。

 

料理の道に。その決心を後押ししてくれた一冊

藤原さんが料理の仕事をしようと決心したのは、20歳の時。大学で、国語の先生になる勉強をしていた頃だったといいます。

藤原さん:
「うちは母がシングルマザーで、苦労して私を育てるのを見ていたので、手に職をつけようと思って教育学部に行ったんです。でも、そのまま大人になる自分をイメージできなくなってしまって。考え始めたら鬱々としてしまったんですね。

そこで自分をじっくり観察してみたら、料理を作って誰かと食べるときは唯一自分が生きていると感じられるなって。それがとても鮮やかだったので、思いきって料理の仕事をしようと思いました。

ただ、今から20年ほど前は、女性が自分の看板で仕事をするのがまだ珍しかった。自分の中には今の仕事につながるイメージがあったんですが、それを誰かに言葉で伝えられなかったんです」

藤原さん:
「親や親戚には反対されたし、飲食店で働き始めた時にも女性であることで嫌な思いをすることが多々ありました。

自分のやりたいことや進みたい道をなかなか分かってもらえない、そんな時に背中を押された本が 『私というひとり』という、美術家の篠田桃紅さんの本です」

▲世界的に活躍した美術家、篠田桃紅の自伝的随筆集。「桃紅さんはすばらしい随筆家でもあって、どう生きたらこんな言葉が書けるのだろうと思ってしまいます」

藤原さん:
「読んだ時、これだって思いました。分かってもらえなくていい。皆に伝わるような分かりやすいかたちじゃなくても、自分の表現を深めていったら、いつかそれが何かになるはず。

自分だけの道を大切に進もう。そう後押ししてくれた、大切な本です。」

 

これまでも、これからも。大切にしている本

藤原さんが大切にしている本をもう少し知りたくなって、何冊か見せてくださいとお願いしました。絞るのが難しい……と悩みながら挙げてくれたのがこの3冊です。

 


おまもりのような
詩の選集


詩のこころを読む 茨木のり子/岩波ジュニア新書

藤原さん:
「私の一番好きな本かもしれません。出合いは大学受験の教材として、塾の先生が手渡してくれました。それ以来、私のおまもりのような存在です。

詩人の茨木のり子さんが、古今東西の名詩を選んで、どこが好きですばらしいと思うのか、美しいことばで解説してくれています。

悩みがあるときにはこの本をごはん屋さんに持って行って、お酒を飲みながらちびちび読んでいます。読むと、自分の真ん中に戻ってくるような感じがするんです。

あらゆる名詩に描かれた、人がじたばたと生きる姿を読むうちに、自分の悩みを普遍的なものとしてみられるようになるのかもしれません」

 


素材から旬を感じる
豊かな世界


料理歳時記 辰巳浜子/中央公論社(現在は中公文庫)

藤原さん:
「家庭料理の仕事をしたい、と思うも、道がわからなかったそのとき、この本の存在に救われたような気がしました。

素材から旬を感じて暮らす様子が描かれていて、なんて豊かなんだろうって。これに影響を受けて、私は直売所に野菜を探しに行くようになり、その過程があって自分の料理に芯ができたと感じてます。

素材と、料理することそのものを淡々と語る文章も面白くて、すばらしい随筆集だと思います」

 


心の声そのままの
文章に惹かれて


トットひとり 黒柳徹子/新潮社

藤原さん:
徹子さんの文章を読むとつい泣いてしまいます。言葉によけいなものが付いていなくて、心の声がそのままかたちになっているのが素晴らしいなあと思うんです。

書かれているのは、テレビが一番面白かった時代のこと。嘘がなく、愛のかたまりのような徹子さんが周りの名だたる皆さんに大切にされる様子が面白く、それを窺い知ることができて嬉しい気持ちになります」

 

本を読んでいなかったら、今と違う人生を歩んでいたはず

藤原さん:
「私にとっての読書って、自分の好きなものを見つけたり、自分のことを分かっていくプロセスだったと思うんです。いろいろな本を読んでみて、知らない世界を知ったり、さまざまな考えや表現に触れたり。

そうしたかけらを集めながら、だんだん『自分はこういうものが好き』『これのここがいいと思う』といったことを見つけて、深めていったのかなと思います」

藤原さん:
「本を読むことで、自分ってこういう人間なんだなって浮かび上がらせていった。それが今の道にもつながったと思います。だから本を読んでいなかったら、全く違う人生を歩んでいただろうと思うんです。

今は自分のことが前よりは分かるようになってきたので、本にすがるような気持ちが前より減ってきた気がします。

だから最近の読書は、より純粋な楽しみや関心のために読んでいることが多いかもしれませんね」

▲上間陽子の『海をあげる』は半年ほど前に読んで心に残った一冊。「上間さんの書く、みずみずしい文体が好き。多くの人に読んでほしいと思う1冊です」

藤原さん:
「大人になって料理の仕事を始めてから、本を読む時間はぐっと減りました。すごく忙しくなってしまったし、最近は本以外の情報が多すぎるということもあって。

だから3年前にコロナ禍が起きて、私の周りも含めて世界が止まっていた時期、『ああ、また本が読める』って思ったんです。その時期は、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』など、本棚から無作為に本を抜き出して読み返していました。それがとても嬉しかった。

最近はまた忙しくなってきたので、なるべく携帯を見る時間を減らして、本を読むようにしたいと思っています」

本についての話が、藤原さんのこれまでの道のりや葛藤にまで広がって、聞いているうちに胸がいっぱいになりました。

読むことで自分のことをより深く知ったり、悩んだり迷ったりした時にそっと背中を押してくれたり。かたわらにある本はいつだって、陰に陽に力を与えてくれているのかもしれません。

そう思うと、新しい本と出合う楽しみや、大事にしている本を再び手に取ることの嬉しさが、いっそう増してくるような気がします。

 

前編はこちら

【写真】井手勇貴

藤原奈緒

料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール“という考えのもと、オリジナル商品の開発や、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)。http://nichijyoryori.com   インスタグラムは@nichijyoryori_fujiwara

 


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