【私のためのおしゃれ】第3話:自分らしいおしゃれが、ようやく見えてきて
ライター 嶌陽子
心地よくて、自分らしいおしゃれのヒントを探しに、クラリネット奏者&下着ブランド「ジュバンドーニ」代表の黒川紗恵子(くろかわ さえこ)さんを訪ねています。
第1話では、心と体を整えるための「ラク」を優先した服選び、第2話では遊び心のあるディテールやアクセサリーなど、おしゃれの楽しみ方を教えてもらいました。
最終話では、これまでの黒川さんのおしゃれの変遷や現在地、そして今考える「自分らしいおしゃれ」について伺います。
大学時代、おしゃれの価値観がひっくり返されて
心地よさと楽しさ、両方の視点から「自分のためのおしゃれ」を実践している黒川さん。これまでに、さまざまな変遷を重ねてきたといいます。
黒川さん:
「芸術系の大学に入って、おしゃれに対する価値観がひっくり返されたんです。私は音楽科だったんですが、美術科にも友人ができて。その人たちが、皆思い思いの服を着ていたんですよね。一人ひとりが服を通して自分を表現しているのを見てショックを受けたんです。
流行なんて全く関係なく、こんなふうにおしゃれを楽しんでいるんだ!とびっくりしました。そこから私も自分の好きなものって何だろう?という意識が芽生えてきた気がします」
黒川さん:
「その友人たちに刺激を受けて、私も大学時代や卒業後しばらくは、できる限り個性的な格好になるよう心がけていました。ブランドものを着ていたこともあります。
ファッションでも自分を表現したい!という思いがあったんですが、どこか無理しているような気もしていました。振り返ってみると、自分の軸となる考えがまだできていなかったからなのかも。表面だけでやろうとしていたんですよね」
「あれ、やっぱりおかしい」の声を聞いてみた
黒川さん:
「素材や着心地について、当時はあまり気にしていなかったです。化繊のものも着ていたし、寒いのを我慢していたことも。靴もヒールのあるものを履いたりしていました。
でも元々肌が弱いから荒れてしまうし、靴も合わないものを履くと腰が痛くなったりして。そうやって体のサインに気づき始めて、20代後半からそういうものは身に着けなくなってきました」
黒川さん:
「30代の頃は、よく海外の古着を着ていました。古着って質の良い生地を使っているものが多いんです。
少しずつ素材や肌触りを重視するようになって、それで今着ているような服にたどり着いたんだと思います。
昔はチクチクしても、締め付けがあったりしても、『そんなものだから』と諦めていたのかも。それが年を重ねるにつれて『あれ、やっぱりなんかおかしい』と感じることが増えてきて。
どんどん自分の体や心の声に耳を傾けるようになって、今の装いになっていったのかもしれません」
共感するし、応援したい。だから選ぶ
黒川さん:
「『えみおわす』『エタブルオブメニーオーダーズ』『yurtao』『kitta』など、私が今好きな服は、ストレスなく着られる、遊び心があるということ以外に、もうひとつ共通点があるんです。
それは、着る人、作る工程に関わる人、環境、社会など、全てのつながりを考えて、皆が幸せになるようにという思いで作られているということ。
そういう思いに共感しているし、おこがましい言い方かもしれないけれど、そういう作り手たちを応援したいという思いもあります」
▲しみができたり黄ばんできたりしても、染め直して長く着ている。「これは奄美大島の工房体験で自分で染めたもの。私が愛用している服の作り手さんたちも、染め直しに対応してくれます」
黒川さん:
「そう思うようになったのは、私がジュバンドーニを始めて、実際に下着を作り始めたことが大きく影響していますね。
自分たちで作るようになって、生地がいくらで、どうやって作られているのか、下着を作る手間や工賃はどれくらいかかるのか、今まで知らなかったことが分かるようになってきて。
大事なことは、すべてつながっているんだなって実感したんです。それでますます環境や社会のことを考えて作られている服に目が向くようになったんだと思います」
「今日の自分はこうありたい」に素直になったら
黒川さん:
「昔はおしゃれに対する自信が全然なかったです。何と何を組み合わせたらいいか迷うこともあったし、人が見たらどう思うか気にすることも。買ってもすぐに着なくなる服もありました。
でも、ここ数年はそういうことがなくなりました。 “愛情をもって真剣に作られている服”という、服選びの基準が自分の中にできたから、あまり迷わなくなったし、人からどう思われるかも気にならなくなったんだと思います」
黒川さん:
「デザインや色、自分に似合うかという基準だけで服を選ぶとしたら、今もあまり自信はありません。
信頼できる作り手によるものか、ストレスなく着られて目の前のことに集中できるかどうか。そうした別の視点も加わったことで、むしろ服を選びやすくなったんじゃないかな。
自分が大事にしたいことや考えを元にして服を着るようになってから、自分に合うおしゃれというものが分かってきた気がします」
3回にわたって黒川さんのおしゃれの話をお届けしました。
心身の快適さをとことん追求する。作り手の思いに共感する。胸がときめいたものに素直に従ってみる。「似合わないかも」と思っても遠ざけず、どんどん着てみて馴染ませる。
「装う」ことは、まだまだいろんな角度から楽しめそうです。
そうしたことをじっくり深めていけば、自然と「私らしさ」や「自分に合うもの」が見つかるのかもしれません。
失敗も含めていろいろな経験を積み重ねてきた今だからこそ、おしゃれもさらに楽しく探求していけそう。そう考えると、クローゼットの前に立つのがいっそう楽しみになってきます。
【写真】濱津和貴
もくじ
黒川紗恵子
クラリネット奏者として、自身のユニットNyaboSsebo(ニャボセボ)でのライブや映像作品への楽曲提供のほか、歌手のサポートやCM、映画音楽のレコーディングなどでも活動。2016年より体にやさしい下着ブランド JUBAN DO ONI (ジュバンドーニ) の代表を務める。
http://www.kurokawasaeko.com
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