【連載|生活と読書】第七回:本屋さんはすばらしい
SNSを眺めていると、おもしろそうな本の情報が流れてきて、毎日のように、「ああこの本、読んでみたいな」と思います。
すぐにインターネットで調べ、これは間違いなくぼくが好きな本だぞ、と確信すると、スマートフォンのメモにその本のタイトルを控え、時間があるときに、ひいきの書店で購入します。
店主と一言二言交わし、お互いの調子を尋ね合う、そうした時間はとてもたのしいですが、目的のものだけを購入する買い物には「おつかい」感があり、なんというか、自分が自由である感じがしません。
それよりも、欲しい本は決まっていないのだけど、なにかおもしろい本はないかな、と書店を歩き回っているときのほうがワクワクします。
とくに、それが旅先の、初めて行く書店だったりしたら最高です。
さらに、その訪問の目的が、帰りの電車、飛行機のなかで読む本を探すためであったら、なおよいです。
思わず、きゃー、と声をあげてしまいそうです。
書店のなかに入ると、最初に、書店でいちばん目立つところに並ぶ本をチェックします。それはそのときのベストセラーだったり、その店で売れ続けているロングセラーだったり、イチオシだったりします。
なんだかんだいっても、ぼくは結局、この一等席から本を買うことが多いのですが、ひとまず我慢して、小説・エッセイコーナーへと流れます。ぼくがいちばん好きなジャンルは小説なので、ここでは親しい名前によく出会います。
あ、新刊でてる、と思わず一人言をつぶやいてしまうのもここです。
注目すべきは、海外文学コーナーです。経験的に、いちばんあたらしい出会いをもたらしてくれるのは、各国の話題作、名作が狭い棚のなかででしのぎを削り合うこの売り場です。
ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ、中東、各国でまず話題になっていて、翻訳されているわけですから、いってみれば、どの本もきびしい予選をくぐり抜けてきています。おもしろくないわけがありません。
海外文学はどうも苦手だ、という方には、新潮社のクレストブックシリーズ、あるいは韓国文学を推します。
タイトルや、帯に印刷された惹句よりも、親しみをもてる文体かどうかという一点で選べば、失敗はしないはずです。
人文書売り場も、文芸書売り場に負けず劣らず魅力的です。人文書とは、思想、歴史、哲学、社会学などのジャンルの本のことを指します。難しい本もたくさんありますが(ぼくは読めませんが)、平易な語り口で、読む者の知的好奇心を刺激する本もたくさん並んでいます。
いまの社会はどのようにして、いまの社会になったんだろう?
人間はいつから、いまのような人間になったんだろう?
こころとは、そもそもなんなんだろう?
このような抽象的な問いに粘り強く付き合ってくれるのが人文書です。
人生を変えてくれる一冊というものがもしあるのだとすれば、それはこの棚のなかに並んでいるように思います。
人文書の次に見るべきは新書の棚です。ここには、先ほどの人文書の入門書というべき本、つまり、なにかを学びはじめようとするひとに格好の本が並んでいます。
この棚は一方で、書店のなかでも競争が激しい棚のひとつで、店によっては、ひと月で棚の半分が入れ変わっているくらいに変動が激しい場所でもあります。経験的に、当たり外れが多いな、と感じることが多いのもこの棚です。
むかし、児童文学作家の中川李枝子さんの講演会を聞きにいったとき、ぐりとぐらの作家は、「本選びに迷ったときは、奥付けを見て、刊行から四半世紀経ったものを選ぶことをおすすめします」といっていました。それは絵本を選ぶときのアドバイスとしておっしゃっていたことですが、ほかのジャンルにおいてももちろん当てはまることです。
刊行から四半世紀経っている新書はそんなに多くないかもしれませんが、定期的に重版している新書を選べば、大きな失敗はしないはずです。
さて次は文庫の棚、と進めていきたいところですが、続きはまた翌月に。
本屋さんはほんとうにおもしろいところなんですよ。
撮影協力:増田書店
『庭とエスキース』
奥山淳志 みすず書房
若い写真家は北海道の丸太小屋にひとりで暮らす老人のもとに一四年ものあいだ通い続ける。その稀有な記録。生きるとはどういうことかをともに考える、そんな文章と写真。去年読んでいちばん感銘を受けた本です。
文/島田潤一郎
1976年、高知県生まれ。東京育ち。日本大学商学部会計学科卒業。アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指していたが、2009年に出版社「夏葉社」をひとりで設立。著書に『あしたから出版社』(ちくま文庫)、『古くてあたらしい仕事』(新潮文庫)、『父と子の絆』(アルテスパブリッシング)、『電車のなかで本を読む』(青春出版社)、『長い読書』(みすず書房)など
https://natsuhasha.com
写真/鍵岡龍門
2006年よりフリーフォトグラファー活動を開始。印象に寄り添うような写真を得意とし、雑誌や広告をはじめ、多数の媒体で活躍。場所とひと、物とひとを主題として撮影をする。
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