【暮らしのみずうみ – 松本便り】第11話:今、聞きたかった一言。
ライター 桒原さやか
先日、YouTubeを見ていたら、ある動画がおすすめに出てきました。それは、料理研究家の土井善晴先生が出演されていたドキュメンタリー番組。
土井先生は著書「一汁一菜でよいという提案(グラフィック社)」がベストセラーになっていたり、テレビでお見かけすることもあり、ご存知の方も多いと思います。
私も本を読んだことがありますし、味噌汁はほぼ毎日作っているので、なんとなく見てみようかなぁくらいの気持ちで見始めたのでした。
まずは野菜のカットから。
にんじんやなすびも、まな板を使わずにカットしていき、ピーマンは真ん中にスパッと切っただけ。タネもへたもついている状態で、そのままお鍋へ。
このままでいいのか…..とびっくりしつつも、番組は続きます。
「卵入れたら、大抵おいしくなるでしょ。卵入れたら、食べた気になるのでね」
「あくを取るとか取らないとか、どっちでもいいんですよ」
「お肉がひっついているのをほぐしたりとか、そういうのさえ要らないんですよ」
先生の言葉を聞いていたら、「そのままでいい、これでいいんだよ」と言ってもらっているような気がしたのでした。
すると、思いもよらず、はらっと涙が落ちてきたのです。
あれ、おかしいな。だって、毎日の料理は全然頑張れていないから。夕飯を作る予定が、バタバタしていて、そのままスーパーの惣菜コーナーに駆け込むのもしょっちゅう。凝った料理なんてしばらく作っていませんし、毎日同じようなメニューばかり食卓に並んでいます。
思わず涙がこぼれたのは、私自身が今、「これでいい」という言葉が欲しかったからなのかもしれません。
毎日の子育ても、いろいろ考えてやってはいるものの、何が正しくて、何が正しくないのかもわからなくて。仕事は仕事で、ダメ出しや怒ってもらうことも少なくなってきて、期待に応えられているかの自信もない。家の中はといえば、おもちゃや本があちこちに散らばっていて、丁寧な家事なんてほど遠い存在。
そんな毎日にどこか無意識のうちに、さみしさを感じていたのかもしれません。土井先生の料理を見ていたら「だいじょうぶ、だいじょうぶ、そのままでいいよ」と背中をさすってもらっているような気がしたのでした。
番組を見た後、しばらく考えていました。
そもそも、「これでいい」とはどういうことなんだろう、と。
夫に対して、仕事ですごいことをしてほしいなんて思っていないし、家事に関してもそうです。ただただ毎日楽しく過ごしてくれたらそれでいい。きっと夫も同じことを考えているんじゃないかな。
家族もまわりの人も、そんなに多くのことを求めていないような気がするのです。
楽しく過ごしてくれたら、それでいい。ご機嫌だったら、それでいい。
つまり、「これでいい」は、自分で決めるものなのかもしれません。
そんなことを考えていたら、そろそろ今日も、子どもたちを迎えに行く時間です。
この後は、料理を作って、お風呂に入れて、寝かしつけも待っている。今日もバタバタしそうだけれど、足どりはいつもよりちょっと軽やかなのでした。
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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