第4回 おにぎりカフェ 本日オープン!
デザイナー 村田
■◇◇■ 第4回 「おにぎりカフェ 本日オープン!」 ■◇◇■
いらっしゃいませ、こんにちは!ONIGIRI CAFEへようこそ!
お待たせ致しました。ONIGIRI CAFEのオープンです。
カラン、コロン。
オーナーから前日手渡された鍵でカフェのドアを開けると、そこには10月の
朝のほのかに冬を感じさせるひんやりとした空気が私を包み込む。
せっかちなスウェーデンの冬はもうそこまで。
私はその中へ第一歩を踏み入れ、いつもとは違った心地よい緊張感をほてった
ほっぺで感じる。
まだまだオープンまで時間はたっぷりある。
はぁーっ。今日一日手伝ってくれるという彼氏と二人で大きく息を吸い込み、
一つゆっくり深呼吸。
どうやら彼も緊張している様子。
頑張るゾー!
早速、腕まくりして開店準備に取りかかる。
まずはおにぎりカフェの命、お米研ぎ。お米が割れないようにゆっくり丁寧に洗う。
スウェーデンには日本米があると言ってもmade in USA。どうあがいても日本の
お米にはかないっこない。割れないようにそおっと優しく洗ってあげないと
すぐに壊れちゃう。
30分ほど水に浸し、お鍋で炊く。
そう、炊飯器が無いっ。
中学生の頃、飯盒炊飯をキャンプでやって以来、お米を炊飯器以外で炊いた
事の無かった私。
事前に何度か練習したものの、焦がしてはならぬ、という緊張感とプレッシャー
といったら。
「始めちょろちょろ、中ぱっぱ」
小学生の頃習ったこんな言葉を呪文のように唱えながら、出来上がりを祈る
のみ。
スウェーデンではこんな簡単に聞こえるものでさえ、上手くいかない。
だってガスレンジじゃないんだ。
電気コンロっつうやつは火加減も自由自在にいかない。
最初はなかなか温まらないくせに一度熱くなったら急には弱火に戻せない。
壊れたこたつみたい。
それでもなんとかご飯完成。
保温はタオルで2重3重にぐるぐる巻きにしてストーブの前で待機。
そして、サラダ、オムレツ寿司、お味噌汁の仕込みを始める。
下ろしたての包丁が緊張して気だけが焦る私を更に追いつめ、爪の先を何度か削る。
(あの爪はどこへ行ったのだろう)
なんとか無事全ての野菜が用意された頃には時、既に12時寸前。
急いで床を掃いてテーブルセッティング。
ラザニアやカレー、パスタのソースは前日までに準備できているので、
後は温めるだけでOK。
朝の準備タイムはどうしてこんなに早いんだろう。
そういえば、小さい頃、朝は絶対2倍のスピードで時間が流れてると思い、
時計の秒針をじっと見張った事があったことを思い出した。
もちろん秒針はいつもと変わらず一秒一秒、正確に時を刻んでおり、
そして私はまた時間に遅れた。
キャンドルを一つ一つ灯しながらテーブルに置き、準備中流れていたハード系の
音楽からボサノバへ切り替える。
そして、カフェのメニューが書いてある看板とオープンと書かれた旗を外に掲げ、
おにぎりカフェ、祝オープン!
風に揺られてなびく旗を見上げ、しんみりと喜びを感じる。
夢なのか現実なのかまだよく分からない。
不安そうな私の顔を察したのか、ポンっと彼が肩を叩く。
おっと、いけない、いけない。
おにぎりカフェなのにまだご飯はタオルに包まれたまま。
早くおにぎり作らないと!しみじみ感慨に浸ってなんていられない。
第一人目のお客様が来る前におにぎりの準備だ。
一気に現実に引き戻され、おにぎりに取りかかるが、これがまた焦って
上手く握れない。
すぐころんと転んでしまういびつな三角おにぎり。
いやー、どうしよっ!と焦りの悲鳴。
するとどこからか「だめっ、おにぎりは愛情込めて作らなきゃ」と、
日本のお母さんの声が。
そうだ、焦るな。
一瞬のうちにふっと肩の力が抜け、強張っていた表情もほぐれていくのが分かった。
それからは気持ちを込めてなんとかまともなおにぎりが出来ていくのだけれど、
それでも修行が足りんなと実感。
これじゃあ一度に何個もできんぞ、と。
初日のおにぎりの具は梅干し、バターでソテーした鮭、そして昆布。
スウェーデン人にはベジタリアンが多いので、菜食派の為に青菜の漬け物も
用意し、3つでワンセットのおにぎりがお皿に並ぶ。
大きさがなんだか微妙に違う…おにぎりって意外と難しいのね…(かなり汗、当時)
さあ、あとはもうお客様が来て下さるのを待つのみ。
やっぱり日本風に第一声は「いらっしゃいませ」でしょと心に決め、
出来上がったおにぎりを見つめる。
出来の悪いいびつなおにぎり。でもすごく愛らしいおにぎり。
スウェーデン人に分かってもらえるかなこのニッポンの心。
しかし、この日一日、私のかわいいおにぎりちゃんは一つも売れず、
結局私の胃の中に収まったのでした。
お客様は来たんですよ。
作業着姿の大柄で強面な工事現場のイカツイ兄さんが。
でも突然すぎて「いらっしゃいませ」も言えませんでした。
前のカフェの常連さんだったらしくおにぎりメニューには目もくれず、
カフェが変わった事にも気づかず、いつものラザニアを注文。
折角、可愛らしく盛りつけたのにそんな甲斐もなく、ぺろりと平らげ、
あっという間に出て行ってしまった。
はあ、あんなごつい兄ちゃんに記念すべき第一人目の座を取られてしまった。
しかもラザニアかいっ。
その後も何人か前の常連客がやってきてラザニアをぺろり。
おにぎりを勧める暇もなくラザニアと奮闘しているうちにあっという間に
ランチタイム終了。
ガクーン…何やってるのよ私。
おにぎり売らなきゃあ!
悔しさのあまり、冷めて置いてきぼりにされたおにぎりをほおばり、明日からの
戦略を考える。
おにぎりVSラザニア。戦いはこの日から始まったのです。(メラメラ)
次回は、試行錯誤のおにぎり戦略について書きたいと思います。
昔むかーしからある日本の伝統あるおにぎり。
ラザニアなんかに負けるもんか!
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